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「本に価値はない」大学生が1日限りの古本屋を開く。【北原悠吏さん】

/知りたいあの人/
全国大学生活協同組合の調査によれば、大学生の半分近くが1日の読書量が0分と回答している。大学生の読書離れが危惧される。しかし、福岡西南学院大学の北原悠吏さんは、仲間と1日限りの古本屋を開いた。北原さんがどのような経緯で、古本屋を企画したのか、そこにどんな想いが込められているのか、気になった。

お客さんの寄せ書きの前で撮影に応じる北原さん。エプロンは仲間とお揃い。(撮影:三井滉大) 

「本が好きな面白い人と出会いたい」。西南学院大学4年・北原悠吏さんは2月、大学の仲間10人と、福岡市早良区の西新商店街で1日限りの古本屋「book in orange」を開いた。普段は本とお酒に囲まれた生活を送り、周囲から「酒豪であり文豪」と称される北原さん。そんな本を愛する彼だが、彼が最も魅力に感じるのは、むしろ本を通じた人との出会いだと言う。
 
大学で読書サークルを運営した北原さんは、「book in orange」の企画者である西南学院大学4年の渡辺知音さんから、出店の誘いを昨年12月に受けた。その後、図書館に集まって、正式に出店が決まった。「軽いノリでないとできなかった」と振り返る。面倒な作業が嫌いで、意義や理由を追い求めるより行動する方が早かった北原さん。約2ヶ月で必死に本を集めた。インターネット掲示板の活用で集めた、1600冊の本を販売。社会人有志の読書コミュニティや古本屋との共同出店となり、100冊ほどが提供された。小説、新書から大学の過去問まで、そのジャンルは多岐にわたった。本屋や商店街へのポスター貼り、ビラ設置のお願いなどの営業活動も自分たちで行った。


一緒に運営した仲間たち。後輩を育てて、次回を開催することにも意欲的。(提供:北原悠吏)    

取り壊しが決まったテナントを1日だけレンタルし、当日深夜0時から床貼り、照明の設置、本の配架を行い、準備が整ったのは開店の1分前。開店後は商店街の人、地域の人、学生で賑わった。900冊の本が売れる盛況ぶりで、仲間、協力してくれた大人たちに感謝の気持ちでいっぱいだ。「コロナで人との関わりが薄かった分、人との関わりの大切さに気付けた」と話した。

開店前、北原さんは団体のSNSで「本に価値はないと思っています。人ありきの媒体だからこそ、本を読むことは楽しい。その先に人との出会いがみえるから」と発信した。すると、古本屋店主からアカウントをブロックされるほど怒りを買った。しかし、その思いは変わらない。「本を通して人が背景に見える」ことが楽しい。本集めをしているときも、お金の本ばかり読んでいる人、全く知らない作家の本ばかり集める人など、本から見える人柄に面白さを感じている。

多くの来場者で賑わう「book in orange」(撮影:三井滉大)                                                            

今年の10月は、福岡市で開催される古本市「ブックオカ」での出店を目標にしている。社会人読書家と知り合うことができたので、今後も連携していきたいという。 昨年10月は半袖でお酒を飲み、道路で寝てイヤホンを無くしてしまった。酒豪ではなく、文豪としての一面を見せてくれた。


執筆者:三井滉大/Kodai Mitsui
編集者:原野百々恵/Momoe Harano、田中真央/Mao Tanaka

インタビューを受けてくれた方:北原悠吏さん。西南学院大学法学部4年。西南学院大学読書サークル『グループ学習室2』代表。大学のゼミでは直木賞作家との対談多数。好きな作家はオスカーワイルド、吉本ばなな。


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