「レディースメニュー」から見えるステレオタイプ。なぜ食と性別は結びつくのか?
料理の名前に「性別」...なぜ?
早稲田のメシ、メシ屋のことを意味する「ワセメシ」。ワセメシと聞いて、どんな料理を想像するだろうか。
大学を機に、生まれ育った中国から日本に来て早稲田大学に通う筆者は、ワセメシと聞いてラーメンや油そばを思い浮かべる。事実、大学生活はキャンパス周辺の多種多様なラーメン屋、油そば屋の恩恵を受けながら過ごしている。
一方で、ラーメンや油そばの炭水化物や脂質の量に悩む時もある。そんな時に助けてくれるのが、野菜が多く麺の量が少ない「レディースメニュー」だ。満足感たっぷりで、ヘルシー。初めてラーメン屋でレディースラーメンを食べた時は、感動を覚えた。
レディースメニューに頼る大学生活を送っていたが、大学の授業でジェンダー研究について学ぶと、日常の見方が変わった。
ある日、ラーメン屋でいつものように券売機の前に立ち、「レディースラーメン」のボタンを押そうとして一つの疑問が浮かんだ。
ーーなぜ料理やメニューの名前に『性別』をつけるのか?
結局いつも頼む「レディースラーメン」ではなく、「塩ラーメン」を注文し、食べながらその疑問を考え続けた。
日本ではラーメン屋だけに限らず、「女子会にピッタリ」「女性に人気」などのキャッチコピーを多用する飲食店が決して少なくない。それはなぜだろうか?
食の好みは性別により分けられない
疑問は、今まで楽しんでいたレディースメニューの裏には性別による“差”があるのかもしれない...という気づきに変わった。
飲食店は幅広い顧客を獲得するために、通常メニューとは別に、麺の量を少なくして、野菜を多めにしたメニューや商品を提供している。しかし、レディースという名前をつけることで、「女性は少食で、野菜好き」というイメージを持たせていると筆者は思う。「レディース」というおしゃれに聞こえる英語を起用しているのも違和感だ...。
女性で通常の麺の量を楽しむ人もいれば、男性でも麺の量を少なめに食べたい人、野菜のたっぷり入ったメニューを食べたい人もいるのではないだろうか。
性別により食の好みを分けることはできないにも関わらず、飲食店は性別により提供するする商品を区別するようなメニューを作っている。無意識に性別によるステレオタイプを助長し、規範を生み出しているのではないだろうか。
そこで、早稲田駅にある、某ラーメン屋の店主にレディースメニューについて聞いてみた。
店主はレディースメニューが女性客に「本当に人気」とした上で、メニューを開発した理由を「うちの麺の量は多いので、女性客でも食べきれることができるようにレディースメニューを作ったんだ」と教えてくれた。
さらに「男性のお客の中にもレディースメニューを注文する人はいますか?」と筆者が聞くと、「もちろん。今の時代は、もうそんな心配はなくなっているよ」と答えた。
店主の言い方には、筆者は考えすぎだという意味が含まれているような気がした。
サービス精神がステレオタイプに?
しかし、本当に「心配のない時代」なのであれば、「レディース」という言葉を商品でアピールする必要はないのではないか。
また、ラーメン屋の従業員が初めて訪れた女性客に「女性であればレディースメニューの方がおすすめですよ」と熱心に案内するシーンも何度か見かけたことがある。
留学生として、私はよく日本のサービス意識に感動している。小さなラーメン屋でも、スタッフから積極的に声をかけられ、お客に居心地が良い空間を提供しようとする姿を他の国ではあまり見かけたことがない。
しかし、お店の従業員が女性だからと「気遣って」レディースメニューを勧める行為が「優しさ」と捉えられれば、「ステレオタイプへの助長」を問題視することへのハードルは更に高くなるのではないだろうか。
身近な日常生活にも、性別による“差”が作られていることを意識することが、男女差別を無くすための第一歩ではないだろうか。目の前のものを意識することで、違和感も浮かび上がってくるかもしれない。
執筆者:沈意境/Yijing Shen
編集者:原野百々恵/Momoe Harano、石田高大/Takahiro Ishida