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すーこ
2024年10月26日 17:53
ここに越してきて三年が経つ。最近近くに新しい人が越してきた。公園で野の花と話すおばあさん。蔦の絡まる二階建てのアパートに、あの人は一人暮らしをしているらしい。母さんが、二十四時間営業している最寄りのスーパーのレジで聞いたと言っていた。今日も近所の人たちが好奇の目で遠巻きにあの人を見るのを横目に、僕は自転車を漕いで帰宅する。 中学校三年生の途中で母さんと引っ越してきて、今年は大学受験の年だ。僕の
2024年10月23日 12:50
「54字の物語」末文「小さい秋見つけた。」で3篇🍁なんとか間に合ったので、突貫ですが参加いたします。楽しい企画をありがとうございます。よろしくお願いいたします。 #54字のプチ宴
2024年10月14日 08:46
「うえむらちゃん、なんで紙の手帳にタスクやスケジュール転記してるん? システム一元化のほうがよくない?」 私の手帳を見ながら隣席の同期の山本が尋ねてくる。手帳をぱたりと閉じて微笑む。「書くと記憶に残るから、とかかな」 私が答えると、すかさず山本が捲し立てる。「システムでメモしておけば、後から検索できるよ。カレンダーで通知も来るし、スマホとも連動させられる。それに、重いしかさばって持ち運びが
2024年10月13日 22:45
「なんで紙なんですか?」 ミスは少ないが仕事が遅い私。仕事は早いがミスが多い倉田。短所を補い長所を盗み合えばいいと、初めて上司抜きでふたりで営業資料を作ることになった。 私が原稿を作り、彼が資料にまとめながら意見を出し、私が検討して原稿に反映させ、彼が直した資料を私が確認する。確認のたびにミスが見つかり、彼に修正を依頼する。紙面上で確認しないまま直したと言うが、それゆえの新たなミスが残る。つ
2024年10月6日 09:00
黒く塗りつぶされた画用紙。黒塗りの下には、詩画がかいてあった。詩を夫の日生健人が書き、絵を妻の琴子が描いた。SNSに上げたその絵が酷評された夜、彼女は投稿を消し、夫の詩ごと黒色のペンで紙を塗りつぶした。その詩画は生まれてくる子へ贈られるはずだった。琴子は居間のソファーで臥せっていた。琴子の産休に合わせて在宅勤務に切り替えていた健人が、側にいるよう頼み込んだのだ。健人が萩焼の湯呑みを持って