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花のあと 藤沢 周平 文春文庫

 この本は1999年からの読書歴に入っていなかったのでたぶん未読。時代小説で最も気に入っている藤沢周平は長編も面白いですが短編の名手です。

花のあと 藤沢 周平 文春文庫

 娘盛りを剣の道に生きた武家の娘、お以登にも、心中ひそかに想う相手がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手・江口孫四郎である。女剣士の昔語りとして端正に描かれる異色の表題作のほか佳品七篇(「鬼ごっこ」「雪間草」「寒い灯」「疑惑」「旅の誘い」「冬の日」「悪癖」)。解説:桶谷秀昭 「花のあと」は2010年に北川景子主演で映画化。「冬の日」は2015年に中村梅雀主演でドラマ化。

 今回読んだ原作「花のあと」は短編集の表題作で一番最後でした。厳しそうな祖母が孫たちに昔話を聴かせる様子から物語は始まります。当人はあまり美人ではなかった言い方ですが、特徴は映画化された主演の北川景子がなかなかぴったりのようでした。つり上がった狐目で笑うと口が大きい…

 マンガは漫画家の画風、小説は作家の文章や作風で好みを決めるので、アニメ化や映画化にはほぼ興味がありません。とくに脚色されるとガッカリ感が大きくて観たくない。だから基本的に原作付きは滅多に観ません。

鬼ごっこ 引退した元泥棒が囲っていた女が殺された。女を殺した相手を赦すことはできなかったが、今さら捕まると想像すると無性に恐ろしかった。しかし吉兵衛は犯人の足取りを探し始める…
雪間草 信濃守の側室に決まった時、松仙は吉十郎に嫁ぐ寸前だった。その後、政治の道具として使われた折に尼僧となって十年。かつての吉十郎が信濃守の怒りを買って切腹させられるかも知れないという…
寒い灯 厳しく口うるさい姑とそれを止められない意気地なしの夫の清太に嫌気がさしたおせんは家を出たが、ある日病気で弱り切った姑がおせんの帰りを切望していると伝え聞く。冗談じゃないよ…
疑惑 浅草の蝋燭商に賊が入り主人を殺した。調べを始めた定町廻り同心の笠戸孫十郎は、捕まった入墨者の息子・鉄之助が義母に金を普請に行っただけだと聞き、店の者との話の食い違いが何か引っかかる。
旅の誘い 定火消同心で武家だった安藤広重は、ある日1人の男に風景画をもっと描けと薦められ「東海道五十三次」で絵師として成功する。しかしそれを見抜いた男は、いつしかただの儲け主義になっていた…
冬の日 ある寒い夜、清次郎は一時の温もりを求めて初めての店に入る。酒も肴も旨かったが、素っ気ない店の女に見覚えがあった。帰宅してから、昔母子共に世話になった大店の娘おいしだったと気づく…
悪癖 勘定方の四名の中で、仕事はできるが酒が入るといささか他人に迷惑な癖の出る渋谷平助。彼らだけに与えられた急ぎの仕事が終わった酒の席で疑問が出た通り、平助は密かに裏金調査を命ぜられる…
花のあと こんなに短い物語の中にきっちり起承転結やクライマックス、見事なエンディングを描いてしまう力量にはいつも惚れ惚れします。読者を裏切らない、しっくりくる終わりには誰も文句をつけられない。

 この短編集はとくにバラエティ豊かな内容。一話ずつは本当に短いですが、なんとも言えない現実味のある市井の人生がぎゅっと詰まってる。この藤沢周平の名編たちを継ぐのは、やはり乙川優三郎しかいないかな。

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