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【本日発売】『BRUTUS』に、柴田三吉の詩「エコー ――出産する娘に」を紹介しました。

 本日発売の雑誌『BRUTUS(ブルータス) No.1008』は、特集「一行だけで。明日のための言葉300」です。

『BRUTUS』No.1008 特集〔一行だけで。〕

 短歌、詩、俳句、川柳、歌詞の各分野から、俵万智、穂村弘、枡野浩一、岡本真帆、くどうれいん、谷川由里子、伊舎堂仁、川野芽生、青松輝、広瀬大志、カニエ・ナハ、大崎清夏、菅原敏、黒川隆介、せきしろ、小津夜景、堀本裕樹、小池正博、なかはられいこ、小西康陽、槇原敬之、吉澤嘉代子、塩塚モエカ、LEX…といった錚々たる方々が寄稿されています(詳しくはAmazon販売ページをご覧ください)。

 なんと、わたくし「よこやま書店 横山ゆみ」にもお声掛けいただき、「書店で聞いた、忘れたくない一行」のコーナーに、私のおすすめする一行を掲載していただいております(※今回は書店員としてお声掛けいただきました。次は詩人として認知してもらえるよう頑張ります笑)。

 私がご紹介したのは、柴田三吉さんの詩「エコー ――出産する娘に」からの一行。

 力強くて、あったかい、希望に満ちた一行です。

 どんな一行かは是非『BRUTUS』本誌でお確かめいただきたいのですが、今回、柴田さんからこの詩「エコー ――出産する娘に」の掲載許可をいただきましたので、一篇まるごと下記に掲載いたします。じっくりと味わっていただけたらと思います。

エコー ――出産する娘に
柴田三吉


呼びかける
まだかすかな像しか返ってこない

すぐそこにいるのに
きみはとても遠くにいる
億年前の尻尾をもち
魚みたいなエラまでもっている
大きな時間を食べながら
ゆっくり近づいてくる
さやのなか
そらまめの粒が育っていくように

ふたたび呼びかける
こんどはたしかな影が返ってくる
すでに頭があり
手があり 足がある
尻尾の取れた
青蛙ほどの大きさだが
母船とつながる宇宙飛行士みたいに
仄かな闇の中を泳いでいる

ときおり指をしゃぶり
笑顔のかたちに唇を動かし

さらに近づいてくる
さかんなシグナル
愉快な信号手よ

はるかな旅のはて
きみはようやくすぐそこまでやってきた
球形の海のなか
たゆまぬ波に揺られ
世界とおなじ大きさになった
(こっちへおいで)
だれかの呼びかけにこたえ きみは
わたしたちが待つ時間の窪みへ
回転しながら降りてくる
そのたしかな角度

さかんに産声をあげる
水平線の彼方まで届く きみのエコー
この世界の大きさを測るため
せいいっぱい声を響かせる
返ってくる 返ってくる
うまれ出たこの世界が
どんな姿をしているのかと
きみはじっと耳を澄ます

柴田三吉「エコー ――出産する娘に」

 自分がこの世に生まれた時、どんな気持ちでお腹から出てきたのでしょう…? この詩を読むと、きっと素直に、大胆に、臆すことなくこの世にやってきたのであろうその瞬間を思い出すようで、とても勇気が出ます。大好きな詩です。

 この詩が収録された詩集、柴田三吉『角度』は、第48回日本詩人クラブ賞を(2015年)を受賞されたこともあり、柴田さんのお手元にもう残部がないそうです。当店にある1冊が最後の1冊となります。内容の素晴らしさはもちろん、構成が特徴的(第2部が日記風の散文詩)で、書き手にとっては大変勉強になる1冊です。読みたい方はお早めにどうぞ。

 今号の『BRUTUS』、内容が盛りだくさんで本当~に面白いですよ!
 ぜひぜひお手に取ってお読みください☆

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