読むのが得意?聴くのが得意? - MBA生の研究tips(2)
製品の取り扱い説明書が動画へのリンクだけ、ということが増えました。私は、動画だけの説明というのは苦手で、動画の内容が文章と図で書かれているサイトがあれば、迷わずそっちを見ます。だって、私にとって、その方が速くて楽だから。
動画の取り扱い説明書に私がいらっとするのは、音声での説明が、言葉の順番にしか再生できないことです。また、聴き手はその音声の判読に集中しなくてはなりません。
文章を読むのだって、言葉を順番に読むのだし、集中しなくてはならないのでは?と思われる人はたくさんいると思います。私は慣れた形式の書き言葉ならば、順番に読まなくてもある程度塊で理解することができ、聴くより読む方がずっと効率がよいのです。これは、私の認知特性であって、あなたにはあてはまらないかもしれません。
そもそも、大学の研究者(特に人文学と社会科学)は、子供の頃から読書好きな人が多いし、研究者への道でも、専業研究者になってからも、大量に文章を読まなくては話にならないので、読むことに関して訓練されています。
一方、ビジネスパーソンは、中には読むのが得意な人もいるでしょうが、平均すれば、長くて複雑な文章を読む能力は、大学で研究している人の相場よりはるかに低いのです。論文や学術書が読めないのは、前提知識がしっかり蓄積していないからというのが第一の原因ですが、長く複雑な文章をうまく情報処理できないという認知の問題も少なくないということに、私は遅まきながら割と最近になって気づきました。これはビジネススクールの研究者教員とMBA生の間に横たわる結構大きな認知の壁です。
私は、授業でパワポを示しながら話しているとき、映しているスライドに書いてあることを全部口で説明しないと何か納得できない学生がいることには前から気づいていました。話す言葉はポイントを示すためにあり、映しているスライドには、それに関係する情報もいろいろ示し、必要に応じて自分のペースで読んだり、参考文献にあたって調べてもらう方が情報量は多いし、理解が進む。だって、読めば書いてあるしーーというのが私の感覚です。実際、私は学生の頃、授業で先生の話を全部聞いて理解しようとするとだるいので、基本的には資料を読んで理解して、先生の話し言葉は大事なところの注意喚起、ぐらいに思っていました。
ビジネスパーソンは平均的には読むことに大学研究者ほど十分な訓練を受けておらず、耳から順番に情報が入ってくるほうが楽な人が少なくないという事実があるのですから、私は、MBAの授業に関しては、基本的には、多少情報量が少なくなってもなるべく話し言葉で伝える配慮をするべきだとは思っております。(まだまだ認知の壁を乗り越えられていないかもしれませんが、努力はしています。)
しかし、論文を書くなど、MBA生が主体的に研究する時はそうはいきません。学術研究の場である大学のMBAに属しているのであれば、その特性を生かしてよい研究をするためには、長く複雑でとっつきにくい文章を読むことは避けられません。
読む能力は、読書経験の蓄積が効くので、MBAに入ってから急に身につけようと思うとなかなか大変だと思います。しかし、少なくとも、話し言葉で理解するだけでなく、読む能力が必要であることを気づいて、自分のできる範囲で努力することは決して無駄にはなりません。何を読むべきかはゼミの先生などが助けてくれると思います。
実は、論文を書かなくても、長文を読む能力は、ワンランク上のビジネスパーソンを目指すときに、かなり役立つスキルだと思っています。動画の時代ですが、深く複雑な知的蓄積のほとんどはいまだ書き言葉です。長文を読む能力は、短時間に多くの情報に接して思考できるのですから、どんな分野でも有利であることは間違いありません。
大人になってから読み始めるのでも決して遅くはないと思います。でも、少しでも早いほうがよいことは確かなので、今すぐでも、自分の興味のある分野で、少し難しく感じられる学術書なども避けないでチャレンジしてみてください。
MBA生の研究tipsというシリーズとして時々書くことにいたしました。