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歌う自力整体──気分に合わせて心も癒す

最近、原稿を書き過ぎて、机にかじりつき過ぎて非常に疲れた。
気分も落ち込み、何もやる気がしない。
仕方なく長時間、寝てみた。
少し回復したが、寝過ぎてもまた身体が弱る。

そしてまた、何もする気がしなくなる。
食糧を買ってきて、料理をして食べることすら、したくない。
典型的な悪循環だ。

しかし、筆者はこの状態に慣れている。
いろいろと、自分を治す方法を知っているのだ。

少し外を散歩するか。
おシャレな場所にでも行って気晴らしをするか。
どちらもよい考えだ。が、暑い季節となると大変だ。
元気もやる気もないときには、なかなか厳しい。

そもそも、筆者はあまり体力がない。
疲れているときに動き回るようなことをすると、本格的に体調を崩しかねないのだ。

これはとりあえず、音楽を聴くしかないと悟った。
好きな曲を聴く。今の気分に合った歌を聴く。
そして自分が、歌が大好きであったことを思い出す。

筆者は物心ついた頃から歌を歌っていた。
そういう意味では、歌唱歴が約50年ということになる。

もともとは、ただ楽しいから歌っていた。
好きだから歌っていた。
そのうち、「歌がうまい」などと言われるようになり、得意になって歌った。

20代からは、武道、武術にどっぷりの人生になった。
それでも、歌はやめられなかった。
歌も武術も身体を使うという意味では共通している。
このことに気づくと、歌もある種の「修行」や「身体的な工夫」のために歌う、という側面が出てきた。

武術で新しい身体感覚を得ると、歌声も変わる。
自分の好きな歌手の声を真似て、新しい発声法を研究すると、武術の面でも成長がある。
身体の使い方が変わるのだ。

こうした工夫を続けるうちに、歌声と身体感覚の間にある関係性がよく理解できるようになった。
歌声は人間の身体から発せられるものだから、関係があるのは当然だ。
歌は人体を楽器にした音楽である、ともいわれている。
しかし、歌を歌っていても、自分の身体についてよく分かっていない、という場合はある。

例えば、今日は何となく声の調子が悪いな、と感じたとしよう。
その原因は何であるのか。
身体のどこが弱っているのか、とどこおっているのか。
こうしたことは、自分の身体を細かく「内観」しなければ、なかなか分からない。

さて───
疲れ切った筆者は、弱った身体で歌を歌い始めた。
やはり声の出が悪い。
歌が好きで、得意がっている人とはとても思えない。

響かない小さな声。
腹から出ない声。
喉に負担を感じる声。
むしろ、気分が落ち込んでしまいそうな声である。

だが、ここで自分を否定してはいけない。
自分は今、弱っているのであり、それが声に表れているだけだ。
優しい整体師のような、大きな気持ち、温かい目線になって、自分の身体を診ていくのだ。

1曲目、2曲目はとりあえず、現状把握でよい。
腹から声を出しているつもりでも、声が弱々しいのは、骨盤の辺りが固いからだと気づく。
足腰は毎日ほぐしているが、デスクワークに集中し過ぎると、つい雑になる。

声が出にくいのは、骨盤だけの問題ではなく、胸や喉にかけての「つながり」がすっきりしないため、という場合も多い。
体軸を意識し直し、縦の筋を通してやる。
そして、胸をのびのびと開くことも大切だ。気分が落ちている時は、だいたい胸が塞いでいる。
骨盤まわりも、ほぐすだけでなく、広げるよう意識する。

こうして身体全体に下から上への流れが通り、広がりが生まれてくれば、声は出る。
声量や勢いが出てくれば、喉はもう頑張る必要がなくなる。
声の質を調整することに専念できるのだ。
すると、好きな声が自由に出せるようになり始める。

嬉しい。そして、楽しい。
先刻まで寝込んでいたのが、ウソのようだ。

歌声は実に正直である。
初めは、聞いていられないような声であったが、今は聞いていられる。
もう一曲、これも歌ってみようかな、と思う。

歌には、歌詞があるのがまた、いい。
気分が塞いでいるときには、悲しい歌や暗い心情を表現した歌を歌えばよい。
無理にテンションをあげる必要はないのだ。

楽しくなってきたら、少し明るい歌も歌う。
そして、ますます明るい気分になる。

ストレスや怒りがたまっていたなら、爆発力のある歌で発散しよう。
とにかく、すっきりすることが重要だ。

純粋な心を歌った歌ならば、邪気を払い、心の中を浄化することもできる。
心も身体も、どんとん綺麗になり、整っていく。

気づけば、不調などどこへいったのか、と感じるほど回復していた。
これが「歌う自力整体」である。

娯楽とストレス発散と、治療と癒しを兼ねた、この心身の調整法はやめられない。
困ったら、またこの方法へ駆け込もう。


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多田容子
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