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「三島由紀夫生誕100周年」


激動の昭和、その年号と同じ歳を過ごす


大正14年1月14日生まれ。
(大正は15年で終わった為昭和と三島の年齢は同じとなる)
戦争中は原稿を抱えて防空壕に逃げ込んだ事も幾度となくあったという。
昭和20年に20歳で終戦を経験して、
そして昭和45年に45歳で人生に幕を閉じるまで、美しく華やかな文章を持ってあらゆる人々の深層心理、事物事象の本質を描写し続けた。

名作の数々を生んだ多筆の人


学生時代から書き続けていた詩集に始まり、そして花ざかりの森の出版、それからの文士としての歩み、岬にての物語、盗賊、仮面の告白、前期のヒット作である潮騒、戦後文学の最高傑作と言われる金閣寺。
その後も良作を数多く執筆している。
沈める滝、午後の曳航、鏡子の家、短編では英霊の声、憂国等。
そして最終着地点と自身が定めた大作、豊穣の海4部作、春の雪、奔馬、暁の寺、天人五衰の執筆に至り、最後の原稿を出版社に入稿したのは昭和45年11月25日、そして同日に自決している。

三島由紀夫ってどういう人柄だったのか


というと、快活で明るい人柄であったそうで、子息が小学生の頃に友人を連れて帰宅するとガオーと声を出して追いかけて楽しませていたのだそう。
よく笑い人を驚かす事が好きな茶目っ気のある人物、まずはこれだけでも三島由紀夫に対するイメージが変わってくる。
先に子息について少しふれたが、三島由紀夫は結婚していて上のお嬢さん、下に子息の二人の子供がいる。
三島由紀夫が割腹に至る市ヶ谷へ向かう車内で、目白の学習院を車が通過した際には、今の時間は多分娘が授業を受けている時分だろうと語ったと言われている。
また子供に対してはこんな話しもある、文学なんかをやっているとストイックでなきゃならない、家庭なんて子供なんてお構い無しでいい、そんな風でいるべきだと私も常々思うんですね、それは自分の生き様も死に様も含めて、だけれどもだね、これが本当に可愛いものなんですね、堪らなくなる程に可愛いと思うんです。

これはあたたかい人柄と作家としての潔癖なまでの信念を同時に感じさせるエピソードだと思います。

三島文学


私自身三島由紀夫に特化した古書店を営んでいてよく感じる事は、
皆さん一様に「三島由紀夫作品て難しいんでしょ?」とそうしょっちゅう言われます。
これに対するお返事を綴らせて頂きます。
まずは確かに三島作品は難しいと思います。
特に戦後文学の最高傑作と言われて知名度抜群の金閣寺を最初に手にする方は多いでしょう、次に仮面の告白でしょうか。そして途中で読むのを諦めてしまう方がほとんどだと思います。「なぜこれがそんなに最高傑作と言われるのか意味が分からなかった」と感じた方たくさんいるでしょう。
それの答えは意外にも簡単なので次に纏めてみました。

ストーリーを楽しむものだと思ってはいけない

これは三島作品に限った事ではなく純文学と言われるものはストーリーの展開にハラハラしたり、ドキドキしたり、そういった一般小説と同じ感覚で読み始めてしまうと挫折してしまいます。
例えをふたつ上げてみます。
三島由紀夫の金閣寺
川端康成の雪国
謂わずと知れた日本の純文学の最高峰と言われる2つの作品ですが、じゃあどんなストーリーなの?と聞かれた場合こういう答えになります。
「金閣寺は住み込みで働いていた学生が悩んで最後金閣寺燃やしちゃった話し」
「雪国はある男が冬だけ雪国の温泉街に来て芸者と過ごした話し」
とまあこんな事になってしまうんです。
2つ共にすごい作品なのですが、ストーリーだけをみると意外にも複雑さはなくてむしろ簡単な題材である場合のほうが多くそして特別面白い訳ではなかったりするのです。
展開を楽しむものではそもそもないのです。
ではどう楽しんだらいいのか?どう読めば最後の一行に辿り着けるのか?

日本酒やワインを嗜む様に

三島本人はこう言っていました。

「谷崎氏の初期の文章はまことに人を陶酔させる文章でした。ここには上等なとろりとしたお酒の味わいがあります。それは目を楽しませ、人をあやしい麻薬でもって現実や理性から背けさせます。ところで文章というものは、どんなに理性的な論理的文章であっても、人をどこかで陶酔にさそうような作用をもっているものであります。われわれは哲学者の文章に酔うことすらできます。ただ酔いにもカストリの酔いや上等の酒の酔い、各種あるように、またスイートな酒からドライな酒までいろいろあるように」
三島由紀夫「文章読本」より

優れた文章には一種アルコールの様な作用があると。
絢爛豪華に彩られた言葉の羅列をゆっくりと楽しむ。分からない言葉が出てきたらイメージを豊かにして理解できれば良いでしょう、少しでも分からなければなるべくその場で調べて、流し読みをしない、それも慣れてくると楽しみになり結果知見が広がります。
この様なところを心の準備として読み始めれば必ずや、お気に入りのワインを少しずつ嗜む様にページを進めていけるのではないでしょうか。

読みやすい作品と難しい作品がある

三島文学に興味を持たれた方は初めの一冊をしっかり選んでみて下さい。
私は店で薦めているのは
「夏子の冒険」「レター教室」「幸福号出帆」
「盗賊」「命売ります」「潮騒」
この辺りです。
次に三島文学に馴れてきたら
「鏡子の家」「午後の曳航」「沈める滝」
「宴のあと」「獣の戯れ」「禁色」
ここまで来たらもう入ってます。
安心して「金閣寺」も「仮面の告白」も読了出来るはずです。

他にも面白い作品がたくさんあります。
私は一年間かけて三島作品を全て読みました。
やはり豊穣の海4部作(「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」)が最高傑作だと思います。
三島ご本人も遺作としてそう思ってらっしゃると思います。

私の三島文学と過ごした一年間

それは新しい発見だらけの本当に充実した日々でした。
どこまでのめり込むかにもよりますが、全て読んだ私の体験談としましては人生が180度変わりました。今までみてきたもの全て、眼に映る世界が一変してしまいました。
三島文学との出会いを境に以前と以後で私は自分をこれからも区別して生きていくのだろうと思います。
例えば、本に限らず映画やドラマの見方や好みも変わりました。人付き合いも変わりました。
仕事への向き合い方も変わりました。
そして今も頁を捲る度に新たな感性の世界へ没入させてくれます。
優しく、厳しく、時にユーモラスで、
何より、どこまでも純粋な三島由紀夫の文学、
これからもずっと愛読していきたいと思っています。

私の個人的な三島作品(書籍)トップ30

※豊穣の海は一番の特別作品として除外

1午後の曳航
2潮騒
3鏡子の家
4沈める滝
5宴のあと
6金閣寺
7獣の戯れ
8盗賊
9葉隠れ入門(エッセイ)
10サド侯爵夫人(戯曲集)
11鹿鳴館(戯曲集)
12幸福号出帆
13複雑な彼
14美しい星
15命売ります
16レター教室
17手長姫 英霊の声(短編集)
18夏子の冒険
19仮面の告白
20ラディゲの死(短編集)
21真夏の死(短編集)
22花盛りの森 憂国(短編集)
23禁色
24夜会服
25女神
26愛の疾走
27愛の乾き
28美徳のよろめき
29音楽
30青の時代


時代が変わっても、いや、変わってしまったからこそ、三島由紀夫の残した文章は人々の生きるヒントになるはずです。

2025年1月14日文豪三島由紀夫生誕100周年をきっかけに、三島文学に触れてみては如何でしょうか。

今こそ、三島由紀夫に会いにいこう。

葉隠れ書房 店主より


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