幻の肥後守
「千マイルブルース」収録作品
キャンプ場で出会った男の持っていたのは、肥後守の逸品であった……。
幻の肥後守
火を熾そうとしていた。
しかしシーズン前で、しかも名ばかりのこのキャンプ場。薪になるものがまるでない。どうにか森で朽木を集めたが、昨夜の雨のせいでずいぶんと湿気っている。とにかく乾かそうと焚きつけの落葉にジッポーを近づけても、落葉自体が湿っていてダメ。俺は溜息をついた。
いや、それほど火が必要な陽気ではない。だがこれがないと、どうにも野営した気分になれないのだ。
諦めきれない俺は、荷物の中から焚きつけになるものを探した。しかし、ない。ポケットの中から数枚の請求書を見つけて燃やしてみたが、これもダメ。気は晴れたが。
どうしたものかと思案していると、キャンプ場の出入り口に、カブが現れた。荷物を積んだ旅姿だ。付近を見まわし、こちらへとやって来る。精悍そうな男の顔が、ひとつ頭を下げてきた。
「隣に、テントを張ってもいいですか?」
どうぞと言うと、男は手際よくカブから荷物を降ろし始めた。パッキングの仕方やテントの張り方から、だいぶ旅慣れた様子が窺える。
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