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木嶋佳苗『礼賛』

仕事の資料として参考書籍を早く読む必要があり、Kindleで購入した。そしたら、購入データに「積ん読」になっている本が結構たまっており、その中のひとつに本書があった。世間から稀代の結婚詐欺殺人鬼と言わしめた木嶋佳苗死刑囚の自叙伝である。

KADOKAWAから出た本書は、現在は絶版となっているプレミアム古書だ。そういえば、こんなん買ってたかな〜とパラパラめくったら、つい最後まで読んでしまった。

いや、最初は読み進めるのが苦痛だった。本書を手にする人は、なにか連続殺人に関する糸口や真実、呵責、贖罪のようなものが読めるのかと期待するかもしない。だが残念なことに、そういった筆致は、

一切ない。

自身の生い立ちから獄中に至るまで、自己愛で香づけられた、執拗で冗長な美文での独白がだくだくと続く、いわばキジカナ女史の「ヰタ・セクスアリス」である。どこまでが虚構か、妄想か、真実か、頭がクラクラしながら読む。

たとえば、「君は素晴らしい」「愛している」と16歳の彼女に性技を教えたドンファンとの逸話。そこで表現される自身の姿はニンフのようななまめかしさと清純さが共存する蠱惑的な少女だ。

が、すでにメディアにて晒されている実際の彼女の姿は、ぽってりした田舎娘であるので、頭の中で焦点が合わない。

忙しい時に一体、何を読まされてるんだとやめようと思うも、たとえば、中年男性との性行のくだり、

「雅也君がいつも、エンジン音が近所迷惑にならないように一番低い回転数でガレージからそろそろと車を出すように、矢野さんはゆっくり少しずつ、静かに進んできた」

『礼賛』(木嶋佳苗・KADOKAWA)

とか、たまに妙に感心してしまう表現があったり、

「二〇〇二年に東海銀行は三和銀行と合併し、UFJ銀行となり、二〇〇六年には東京三菱と合併し、現在では三菱東京UFJ銀行となっているが、私は、東海銀行時代に、とてもお世話になった。ギャンブルのお金は全て東海銀行に預けていた。
二〇〇二年にみずほ銀行になった富士銀行も、法人口座でよく利用した。登記していない法人名でも、架空の名でも都市銀行に口座が開設できるゆるい時代だった。
私は、自分の口座ではないと伝えた上で、男性たちに送金を頼んでいた。」

『礼賛』(木嶋佳苗・KADOKAWA)

と、不意打ちのように事件の核心が出てきて、ついつい読んでしまうのである。

自叙伝の終わりごろ、彼女の人生に登場した人物はほぼ死を迎えている。実の父も。世間的には彼女は、詐欺師であり殺人犯だ。だが、本書を読んで、わたくちはちょっと違う感想を抱いた。もしかしたら彼女は、他害型のミュンヒハウゼン症候群なのかもしれにゃい、と。

ミュンヒハウゼン症候群には、他者の関心や同情を引くために故意に病気を装って自分自身の身体を傷付けるなどの症例がある。他害型として、我が子に薬物を投入した事件は多々ある。その行きすぎた例なのかもしれない、と。なぜなら、結婚詐欺のお相手の老人や中年男性だけではなく、若い男性もかつての恋人も、ことごとく亡くなっているからだ。書籍の終わりも「転落──みんな逝ってしまう」と結ばれている。

後書きでは、東京拘置所の職員たちのEQの低さを嘆きながら(笑)、昨年彼女は「note」をはじめた。拘置所生活で30kgダイエットしたそうで、そのノウハウを有料化していりゅ。たくまちい。。。で、きっと読むと思う。


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