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全部出さない

春休みや入学式も一通り終わって、年で始まりの慌ただしさも少し落ち着いた感が出てきました。うどん屋の営業としてもいわゆる「通常営業」の状態になった雰囲気です。

実は先月末に今年の夏に向けて厨房内にスポットクーラーを設置しました。今までクーラーなしで気合いで真夏の暑さを乗り越えてきておりましたが。昨今の異常な猛暑をエアコンなしで乗り越えろ!というのは流石に従業員やスタッフに対する暴力行為だ、と言われるレベルになってきてます。

現実問題として、昨年の夏の営業時には体調を崩すスタッフもいて、クーラーの導入は今年の夏を迎えるまでに取り組むべき最優先課題でした。

クーラーの設置に際しては、そのクーラーの持っているポテンシャル最大限の能力をフル稼働して使用するよりも、その環境に必要な能力を多少上回る馬力を持った機種を設置する方がより高いパフォーマンスを発揮する、と言われています。

この考え方って実は人間が仕事をする上においても結構大事な考え方だと思います。

§ある種の余裕が良いパフォーマンスを生み出す

「全力で仕事に取り組みます!」

一見、正しいことのように思えます。
しかし、この「全力」には注意が必要です。
「いつ」「どのように」振る舞うことを指して「全力」とするのかが大事なのです。

例えるならばセルフのうどん屋の業務においても

「お客様へ調理したうどんを素早く提供する」

こうした作業に取り掛かる際に新人のスタッフなどは「全力で」作業を行おうとすると、自身の体の動きを素早くすることで少しでも早く商品の提供時間を早めようとする傾向にあります。自分の集中力を100%作業に向けて集中させて「全力の仕事をして」いると言うことです。

しかし、残念ながら体の動きで調理時間や提供時間そのものを短縮させようとしてもその短縮時間は数秒程度の結果に過ぎません。

慣れたスタッフになると経験上、作業自体のスピードが早いのは勿論なのですが、それ以上に作業に取り掛かる前の準備を的確にしておくことで、提供時間を分単位で短縮することができるようになります。

この場合、調理という作業それ自体には自分の集中力をあまり使わずに取り組み、その代わりに自分の意識を周囲の情報収集や次に自分のやるべき事への判断に向けて使うことで、店舗全体としてのパフォーマンスの向上させてくれます。

つまり、作業それ自体をこなす為だけに100%の力を注ぎ込んでしまうと、良いパフォーマンスを生み出すことが難しくなってしまうのです。特に店舗や組織の責任者という立場で全体をコントロールする役目を担う場合には特に当てはまることだと思います。

現場で作業をこなす際にも身体的な作業はほとんど自動操縦のような感覚で頭の中には常に状況判断が行えるだけの余裕が確保されていないと的確な指示を出すことができません。うどん屋の場合にはほとんどのお店に置いて大将と呼ばれる人間はプレイングマネージャーとして営業されていますので必須の能力だと思います。

どんな作業をしている時でも常に頭の中の意識としては多くても70%程度の集中力を使って取り組んで、残りの30%でお店全体に気を配離続ける感覚。
ある種の「余裕」が頭の中に常にキープされていることでお店全体のチームとして良いパフォーマンスが発揮できる、ということです。

§NHKさんの番組の作り方

話は少し変わりますが、当店においても過去何度かテレビの取材を受けたことがあります。様々な放送局の取材を経験しさせてもらいました。
そうした経験の中で民放の放送局においては各社ある程度のテーマ、切り口や演出の方法などに違いはあっても、その撮影の段取りや手順についてはほぼほぼ似たようなやり方で進められることになります。

ところがNHKさんの取材だけは明らかに撮影方法が異なります。
とにかく圧倒的な物量で作品を仕上げようとします。

・事前調査の詳細さ
・打ち合わせの回数
・関わるスタッフの数
・撮影する時間
・質問の回数とその深さ

こうしたこと全てにおいて民放局とは比べ物にならないほど丁寧に撮影を行います。スタッフによる聴き取りにおいても、実際にカメラを回して撮影をするにおいてもしつこいぐらいに情報を集めます。
実際にオンエアする時間に対して数十倍、数百倍、もしかしたらそれ以上の素材を集めているのかもしれませんが、それ程ひたすらに材料集めに時間をかけます。

そして、できるだけたくさんの素材の中から厳選したものを編集して組み直すことによって民放局では到底到達し得ないようなクオリティの作品を作り出しているのです。

勿論、それだけの人と時間を投入するということは民放局とは桁違いの制作費が必要になっているということなのでしょうけど、ここで大事なことは、「番組を作るに際して必要な素材十分以上にストックしておく」これができることで初めて他を凌ぐクオリティの作品の制作ができるということです。

この事実は「効率」という切り口で考えると非常に悪い事に思えますが、「良い商品」「良いサービス」など企業が消費者に提供するモノのクオリティをあげようとするならば、有り合わせの材料をなんとかやりくりして製品を作り上げるよりも、多くの材料から納得できる素材を選んで組み合わせる方が効果的です。

そういった意味で、先ほどの作業にあたる際に「自分の意識に余裕を持たせる」のとは少し意味が異なるかもしれませんが、モノづくりにおいても「材料はなるべくけ多く余裕を持って揃えておく」事は重要だという事です。

そして、モノづくりにおける「材料」とは実は商品を製作するための物理的な「材料」だけにとどまらず、未来の商品のアイデアのヒントとなるようなモノやコト全てが含まれます。
つまり日々の我々の「経験」や「出会い」は全て将来なんらかの生きる糧の材料となりうる事になります。そう考えるとそうした経験や出会いを数多くこなすことで頭の中の「材料」のストックは増えていく事になります。

そのストックの余裕は「今すぐ」に役に立つようなモノでもありませんし、もしかしたら一生出番のないストックかもしれません。
でも、その余裕こそが大事な気がします。沢山ある中から選べることに意味があるような気がします。
NHKさんの取材を体験させてもらうたびにそのことを感じさせられます。

本日もありがとうございました。


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