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アルバイトが正社員になるとき

 私が大学生のころだったか、突然、「フリーター」という用語が世の中に出てきました。

 学校を卒業したら会社に就職して正社員になるに決まっている、と思っていた世間知らずの私にとっては、フリーターの道を選択する人の気持ちが全く分かりませんでしたし、そんな不安定な生活をして大丈夫なのかと心配な気持ちにもなりました。

 しかし、実際フリーターをしている人たちも、好きでその道を選んでいる人ばかりではなく、就職氷河期だったからとか、家庭の事情でとか、様々な事情で仕方なくフリーターをしているだけの人がたくさんいらっしゃいます。

 他方で、会社にとっては、パートやアルバイトは、正社員よりも低賃金で、不要な時にはシフトを組まないことができるし、辞めてもらうのも楽なイメージがあります。

 労働者の実状と会社の利害が一致し、実際には正社員と同様の仕事をしているにもかかわらず、短い期間の有期雇用契約の更新をくり返して、有期雇用契約を維持する会社が増えてきたことを受けて、2012年8月に労働契約法が改正され、同一の労働者と使用者との間で、有期雇用契約が通算5年を超えて反復更新されている場合は、労働者の申出によって、期間の定めのない労働契約に転換しなければならないことになりました。

有期雇用労働者とは

 「有期雇用労働者」とは、期間の定めのある労働契約によって使用される労働者です。例えば、パート、アルバイト、契約社員、日雇い労働者などですが、これらに限られず、契約の終わりの日が決まっている労働契約をしている労働者を全般的に指します。

いつ締結した契約から適用されるか

 無期転換の改正法は、2013年4月1日から施行されています。

 したがって、この施行日以後の日を初日とする有期雇用契約が、それ以後更新されつづけて5年を経過する2018年4月1日の時点で、無期転換権が発生することになります。

 1年毎の更新の契約であれば、次の更新時期は2019年4月1日ですから、それまでの間に労働者が無期転換権を行使した場合は、この労働者は2019年4月から無期雇用労働者になることができます。

使用者はどんな時に拒否できるか

 無期転換権を行使された場合、使用者は拒否することができません。

 ただし、有期契約と有期契約の間に6か月以上の間が空けば、改めて5年の通算を最初からやり直さなければなりません(クーリング期間)。したがって、1年の有期雇用契約が3回更新された後に職から離れ、6か月以上経過してから戻ってきた労働者については、戻ってきてから更に契約を更新する期間が通算して5年を超える必要があります。
 労働者がこの5年を経過しないのに無期転換権を行使した場合には、使用者はこれを拒むことができることになります。

 なお、有期雇用期間が1年未満の場合は、クーリング期間は、その有期雇用契約期間の半分の長さで足ります。つまり、有期雇用契約期間が8か月の場合は、有期雇用契約と有期雇用契約の間に4か月以上の空白があれば、その二つの有期雇用契約は通算されないことになるのです。

会社が気を付けるべきこと

 無期に転換したとしても、契約期間が無期になるに過ぎず、労働条件は有期雇用時代のものと同じであるのが原則です。

 したがって、よりよい処遇や、処遇の引き下げをしようとするなら、労働協約、就業規則、個別の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)などで別段の定めをしておくことが必要です。
 ただし、処遇の引き下げについては、厚生労働省労働基準局長通達で、「無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない」とされていますので、注意してください。

 無期転換後の労働条件については、正社員就業規則によればいいと考えておられることもありますが、契約社員やパート社員などの社員区分はそのままにして、契約期間のみ無期になるということもあります。その場合に正社員就業規則によるのか、契約社員就業規則やパート就業規則によるのか、わからないことになります。
 したがって、会社は、無期転換をした労働者のための就業規則をあらかじめ準備しておくことが望ましいでしょう。

 なお、今年の4月1日から、中小企業にも同一労働同一賃金に関する改正法の適用がスタートしますので、有期雇用者と無期雇用者の間で不合理な待遇や差別的な待遇がないか、無期転換される前であっても処遇体系の見直しをしておくことが急務です。

 無期転換ルールは、2018年からスタートしていますが、会社側も労働者側もまだ認知度は高くありません。今後、労働者側がこのルールの存在を知っていけば、無期転換権を行使される機会は増えていくでしょうから、会社は、それに備えておくことが必要です。

 なお、2019年に発表された「無期転換ルールへの対応状況等に関する調査」によると、企業側の課題としては、以下のものがあるとされています。

①「有期労働契約と無期転換後、正社員の間の仕事や働き方、賃金・労働条件のバランスと納得感の醸成」(26.3%)
②「業務量の変動等に伴う人員数や労働時間、労働条件等の調整」(21.7%)
③「定年のあり方」(19.8%)
④「人件費の増加とそれに見合う生産性の向上」(18.6%)
⑤「契約管理や就業規則の複雑化と社内(当事者や管理者等)への周知・浸透」(17.7%)
⑥「(定年後再雇用者以外の)高齢者の取扱い」(14.9%)

 総じて、何らかの課題があるとする割合は63.6%と算出され、「特に課題はない」割合が27.1%等となったとの結果が報告されています。

 同一労働同一賃金の法改正対応と併せて、無期転換制度への対応も早めにしておくようにしましょう。

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