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会社にいない従業員に働いてもらう~事業場外労働のみなし制

 会社に来て仕事をしてもらう、という常識が覆った2020年。

 いまや、「テレワーク」という言葉もすっかり浸透しました。

 テレワークを進めると出社する人員が減るということで、オフィス賃貸スペースを圧縮したり、移転したりする会社も増えているようです。
 電通も、港区内の本社ビルを売却しようとしているというニュースが出ていましたね。3000億円規模の取引となる見通しとのこと。金額がすごすぎて想像もできません。

 さて、テレワークを導入するとき、労働時間の管理はどのようにしたらよいのでしょうか。

事業場外労働のみなし制

 テレワークだけでなく、外回りの営業や建設現場での作業の場合、いったん会社に来てタイムカードに打刻してから業務を開始し、仕事が終わったらもう一度会社に来て終業時刻を打刻してもらうということは、現実的ではないことが多いですよね。

 そんなとき、「事業場外労働のみなし制」を使うことができます。

 これは、労働者が事業場外で業務に従事した場合で労働時間を算定し難いときに、所定労働時間労働したものとみなす制度です(労働基準法38条の2)。

労働基準法
38条の2 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
② 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

 「労働時間の全部又は一部」と書かれているように、職務内容が事業場外での労働を前提としている新聞記者や外勤営業社員だけでなく、外回りや出張などの臨時の事業場外労働も対象です。

「労働時間を算定し難いとき」ってどんなとき?

 「労働時間を算定し難い」という条件を満たす場合、実際の労働時間ではなく「所定労働時間労働したもの」とみなされます。

 では、どんなときが「労働時間を算定し難い」ときでしょうか。

 これについては、いくつかの裁判例がありますが、「労働時間を算定し難いとき」に該当しないとした裁判例と該当するとした裁判例を1つずつ紹介します。

【阪急トラベル・サポート事件】
(国内ツアーについて東京高判平23・9・14、海外ツアーについて最二小判平26・1・24、国内・海外ツアーについて東京高判平24.3.7)

 阪急トラベル・サポートの国内・海外ツアー添乗員の各添乗業務について、裁判所は、以下のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、旅行会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すると、本件添乗業務については、添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法第38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」には当たらない、としました。

① 本件添乗業務は、旅行日程により、あらかじめ業務内容が具体的に確定していて、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及び決定できる選択の幅は限られていた。
② ツアーの実施中も、旅行会社は添乗員に対して、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、旅行日程の変更が必要となる場合は旅行会社に報告して指示を受けるよう求めていた。
③ ツアーの終了後に、旅行会社は添乗員に対して、添乗日報により、業務の遂行状況の詳細で正確な報告をさせていた。
④ ツアー参加者のアンケートを参照したり関係者に問い合わせをすることによって、業務の遂行状況を報告する日報の正確性を確認することができる。

【ヒロセ電機(残業代請求)事件】
(東京地判平25・5・22)

 旅費規程において所定労働時間労働したものとみなす旨の規定のある会社において、出張と直行直帰をしていた従業員が残業代を請求した事件において、裁判所は以下の理由で、原告が出張・直行直帰している場合の事業場外労働には被告の具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできず、「労働時間を算定し難いとき」に当たるとしました。

① 時間管理をする者が同行しているわけでもなく、労働時間を把握することはできない。
② 直属上司が原告に具体的な指示命令を出している事実もなく、事後に何時から何時までどのような業務を行っていたか、具体的な報告をさせているわけでもない。
③ 原告自身、出張時のスケジュールが決まっておらず概ね1人で出張先に行き、業務遂行も自身の判断で行っていることを認めている

 裁判例は事案によってその判断は分かれるのですが、携帯電話やPCやリモートワーク体制が日々進化している現代社会において、労働時間を算定し難いといえる状況はだんだん減ってきています。

 労働時間の把握ができたかどうかを争われると、会社には厳しい結果になる時代が到来しているといえるでしょう。

労使協定を締結する場合

 労使協定で事業場外労働のみなし制度の協定を締結する場合は、労働協約の場合を除いて、有効期間の定めをしなければなりません(労基則24条の2第2項)。

 協定で定めるみなし時間が8時間を超える場合には、所定の様式で労基署に届け出なければならず、これをしないと罰則(30万円以下の罰金)があります(労基法38条の2第3項、労基則24条の2第3項、労基法120条1項)。

テレワークで気をつけること

 テレワークについては、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に詳しい記載があります。

 そこでは、テレワークが「事業場外労働みなし制」の対象となるための要件を以下のように説明しています。

① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと

② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと(ただし、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項の指示や、こられの基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない)

 そして、事業主は、労働者の健康確保の観点から、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務を有し、実態に合ったみなし時間となっているか確認し、実態に合わせて労使協定を見直すことが求められるとしています。

 テレワークについては、公私の区別がつきにくいため、うまくサボる人がいる反面、働きすぎてしまう人もいます。
 どちらも会社にとってはよくない事象ですので、適切に運用するようにしましょう。

 また、裁判所は、事業場外労働のみなし制が認められる場面を厳しく見る傾向にありますので、その観点からも注意が必要です。

 

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