就業規則に反する労使慣行の効力
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昨日は母の日でした。
思いがけず家族に焼き肉ランチに連れて行ってもらって、楽しく過ごすことができました。
さて、今日は、就業規則や労働協約の内容に抵触する労使慣行があった場合に、就業規則等の存在にもかかわらずその労使慣行が効力を持つかどうか争われた裁判例を紹介します。
労使慣行
労使慣行とは、雇用主と労働者との間の労働関係において、長期間にわたって反復継続されてきた扱いのことです。
就業規則は定めているものの、そこに規定された内容を運用していない会社もたくさんあると思います。
ルールはルールとして決めているけど実際そのとおりにはできません、とか、そもそも、就業規則の内容をきちんと把握していませんでした、というようなケースもあります。
従業員にとっても、会社の長年の慣行を会社の正規のルールと信じていることは少なくありません。
労使慣行がルールになるのはどんなとき
商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(大阪高等裁判所平成5年6月25日判決)で問題となった会社では、長年、労使協約や就業規則の定めに反して、①特定休日が祝祭日の場合には特定休日を翌日に振り替えて同日に出勤したときには休日手当を支給(労使協約では、特定休日が祭日と重なった場合、特定休日の振替えは行わないものとされていました)、②夏期特別休暇・年末年始特別休暇について能率手当を支給(就業規則では、能率手当は稼働時間に対して支払われるものとされていました)、という扱いがされていました。
あるとき、会社から従業員に対して、これらの扱いを、労使協約と就業規則どおりに実施することが告げられました。
そこで、従業員らから会社に対し、これまでの労使慣行に従って、休日手当と能率手当等の支払いを求める訴訟が提起されました。
大阪高等裁判所は、民法92条(事実たる慣習)によって労使慣行が法的拘束力をもちうることを指摘し、その法的拘束力の要件として、以下の3つを挙げました。
本件では、①と②のいずれの慣行についても、労使双方の明確な規範意識があったとは認められないとして、労使慣行の法的拘束力を否定し、原告ら従業員の請求を認めませんでした。
就業規則や労使協定の内容の再確認を
このような紛争が起きる原因は、やはり、就業規則や労使協定の内容をしっかり把握しないまま慣習に従って会社運営をしていることにあります。
経営者は、再度就業規則や労使協定の内容を確認し、一本化されたルールの下、会社運営をするようにしましょう。
ただし、これまで長年に亘って実施されてきた慣行がある場合には、それをひっくり返して就業規則等の定めたとおりに戻そうとすると従業員からの反発があるでしょうから、場合によっては就業規則や労使協定の方を改訂する必要があるかもしれません。
会社のルールを整理することは面倒で、時に痛みを伴うこともありますが、一度整理しておけば将来の紛争の予防になります。
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