高度プロフェッショナル制度の概要その3
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昔あった医学部生のドラマ『輝く季節の中で』。勉強についていけない中居君が、寝ずに勉強できるように覚醒剤に手を出してしまう、という話がありました。
覚醒剤は怖いけど、眠くならない薬があったらどんなにいいか、と思ったので今でもよく覚えているんですが、最近では、ロボットのように記憶できる脳みそがあったらどんなにいいか、と思うことが多いです。AI時代が私にも到来です。
でも、結局は、勉強や仕事そのものよりも、心身共に健康であることが人間として最も大切なんですよね。自分にできる範囲内で最大限のことをすればそれでいいのかもしれません。
高度プロフェッショナル制度で働く人たちは、能力が高い人たちなので、もしかするとAIばりに働くかもしれません。しかし、実体は生身の人間であることに変わりありません。
そこで、この制度の下で働く人たちの健康管理のための規制が設けられています。
その規制の1つに、労使委員会で決議するべき内容が定められていますが、一昨日と昨日のnoteに途中まで書きましたので、今日はその続きです。
働き過ぎを防止するための選択的措置
労使委員会で、対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずることを決めなければなりません(労働基準法41条の2第1項5号)。
イ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに11時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、午後10時から午前5時の間において労働させる回数を1箇月について4回以内とすること(労働基準法施行規則34条の2第9項、10項)。
ロ 健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた場合には、その超えた健康管理時間が1か月について100時間以内又は3か月について240時間以内とすること(労働基準法施行規則34条の2第11項)。
ハ 1年に1回以上の継続した2週間(労働者が請求した場合においては、1年に2回以上の継続した1週間)(使用者が当該期間において、第39条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。
ニ 1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1か月当たり80時間を超えた労働者又は申出があった労働者に対して臨時の健康診断(厚生労働省令で定める項目(※)を含むものに限る。)を実施すること。
※ 労働安全衛生法に基づく定期健康診断の項目であって脳・心臓疾患との関連が認められるもの及び当該労働者の勤務の状況、疲労の蓄積の状況その他心身の状況の確認。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断の項目で脳・心臓疾患との関連が認められるものとは、①既往歴及び業務歴の調査、②自覚症状及び他覚症状の有無の検査、③身⻑、体重、腹囲の検査、④血圧の測定、⑤血中脂質検査、⑥血糖検査、⑦尿検査、⑧心電図検査です。
健康・福祉確保措置
対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって、当該対象労働者に対する有給休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずることを決めなければなりません(労働基準法41条の2第1項6号)。
厚生労働省令で定めるものは、以下のものです(労働基準法施行規則34条の2第14条)。
一 働き過ぎを防止するための選択的措置(前述)のうち、決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずることとした措置以外のもの
二 健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法第66条の8の4第1項の規定による面接指導を除く。)を行うこと。
三 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
四 対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
五 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
六 産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
同意の撤回に関する手続
対象労働者の同意の撤回に関する手続を決議しなければなりません(労働基準法41条の2第1項7号)。
手続の決議は、撤回の申出先となる部署及び担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにする必要があります。
そもそも同意をしない労働者を不利益に取り扱ってはなりませんが、同意を撤回した時も同様に、同意の撤回を理由に不利益に取り扱うことはゆるされません。
本人同意の撤回を申し出た対象労働者については、その時点から高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じません。
苦情処理措置
対象労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が実施すること及びその具体的内容を決議しなければなりません(労働基準法41条の2第1項8号)。
不利益取扱いの禁止
同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを決議しなければなりません(労働基準法41条の2第1項9号)。
その他の決議事項
以上の他、労働基準法施行規則で定める以下の事項についても決議をする必要があります。
① 決議の有効期間の定め及び当該決議は再度決議をしない限り更新されないこと。
決議の有効期間は1年とすることが望ましい、とされています。
② 労使委員会の開催頻度及び開催時期
少なくとも6か月に1回、労働基準監督署⻑への定期報告を行う時期に開催することが必要です。
③ 常時50人未満の事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること。
④ 労働者の同意及びその撤回、合意に基づき定められた職務の内容、支払われると見込まれる賃金の額、健康管理時間の状況、休日確保措置、選択的措置、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の実施状況に関する対象労働者ごとの記録並びに③の選任に関する記録を①の決議の有効期間中及びその満了後3年間保存すること。
以上の決議が終わったら、その決議を管轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
高度プロフェッショナル労働者が、心身ともに健康で楽しく、実力をいかんなく発揮できる職場になるといいですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?