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出勤停止期間中の賃金控除の仕方
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
服務規律違反があって、その制裁として出勤停止処分を下した時、出勤停止期間中の賃金の支払いはどうすればいいのでしょうか。
今日は、これに関する裁判例、パワーテクノロジー事件(東京地方裁判所平成15年7月25日判決)を紹介します。
事案の概要
1 原告は、平成元年9月10日、コンピューターソフトの設計、開発等を業とする被告に雇用され(本件契約)、平成4年4月に事業推進部の部長に就任しましたが、平成9年4月11日解雇されました(平成9年解雇)。原告は、東京地方裁判所に対し、解雇を無効とし、労働契約上の地位確認及び解雇後の賃金の支払を求める訴訟を提起し、平成11年12月28日、同庁は、原告の請求を認容する判決を言い渡し、同判決は確定しました。
原告は、被告の社員に対し、当該社員が被告の違法な解雇に加担していたとして損害賠償を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起し、平成13年4月26日、同庁は、原告の請求を一部認容する判決を言い渡しました。
原告は、平成12年1月25日職場に復帰し、被告が請け負ったり、受託されたソフト開発業務に従事し、そのような仕事がないときは、被告事業所において研修をしていました。
2 2月25日ころ、被告は、b社との間で、被告がb社の注文する開発業務を受託する旨の基本契約を締結しました。b社は、基本契約に基づいて、同月28日ころ、被告に対し、d製薬の情報系のデータベース構築業務を注文し、被告はこれを承諾しました(本件個別契約)。本件個別契約の被告の営業担当者はB課長でした。本件個別契約の対象となった上記業務は、d製薬がユーザー兼注文者であり、請負業者がc総研、孫請業者がb社で、b社が被告に「業務委託契約」との形式でその一部の開発業務を有償で委託するという関係でした。
本件個別契約に先だって、b社は、被告に対し、本件個別契約の条件として作業者はソフトの基本設計ができること等を要求し、被告は、同月26日、原告を、c総研及びb社の担当者と面談させ、原告を作業者とすることを前提として、本件個別契約を締結していました。
前記面談の際、原告は、b社及びc総研の担当者から、本件個別契約により被告の作業者が従事する作業はd製薬の情報系のデータベース構築であること、作業に従事する場所は、東京都世田谷区三軒茶屋所在のc総研の事業所(三軒茶屋の作業場)か、東京都新宿区高田馬場所在のd製薬の事業所(高田馬場の作業場)となる見込みであること、作業の期間は3月上旬から9月末までを予定していること等を告げられました。
本件個別契約に際しb社が作成した注文書には、件名は「AFLAC向け契約集信システム」、受託期間は「平成14年3月1日から平成15年2月28日」、受託金額「月額68万円」、特約事項「受託者:原告、休日、休暇、就業時間はすべて客先と同一とする。1か月の基本実働時間を160時間とし、±20時間は清算しない。」とするほか、作業時間作業日数に応じて、報酬を増減する旨の定めが記載されていました。
3 被告は、原告に対し、2月28日、3月1日からb社に派遣することとし、c総研が受注したd製薬の情報系のデータベースの構築作業を命じました。作業内容は、基本設計、詳細設計、プログラム製造、テストでした。なお、作業形態は、客先常駐型の派遣とし、指示命令に関しては、現場担当者及び当社のB課長の指示に従うこととされました。
4 原告は、本件業務命令に基づいて、3月1日から、b社から指定された高田馬場の作業場(d製薬の事業所)で開発業務に従事し始めました。
しかし、作業環境が悪く、体調が悪くなったため、取引先担当者に直接、自宅での作業を申し出、取引先担当者から業務の継続か中止かの意見を求められた際に、中止したい旨を告げるなどして、被告に損害を与えました。
5 出勤停止処分
被告は、原告に対し、平成14年5月24日、原告は就業規則54条の11「業務上の指揮命令に違反した時」に該当するから、55条3項に定める懲戒処分として、同月27日から6月4日まで原告を出勤停止処分とし、その間の賃金を支払わない旨通知しました(本件処分)。本件処分の際、原告に交付された出勤停止命令書には、本件処分の理由として、概略、以下の記載がありました。
ア 貴殿は、平成14年2月28日付けの業務命令書で平成14年3月1日から派遣先をb社とし、c総研が受注したd製薬の情報系のデータベース構築作業を客先常駐型の派遣作業にて従事していたが、自身の判断で上長の許可なく顧客との契約を無視して作業を終了させた。
イ 当社の今までの調査で、貴殿は客先常駐型の契約であるのに自身の判断で、体調を理由に持ち帰って作業をしたい旨直接顧客と交渉した。
ウ 当社は事前に対策が講じられず、顧客との契約が不履行となり、多大なる損害が生じた。
6 出勤停止処分による賃金の減額
本件契約の賃金は、毎月末日締め当月25日払でした。
被告は、原告に対し、本件処分当時、本件契約に基づいて、月額賃金として別紙給与計算表の「基本給」欄及び「交通費」欄の金員を支給していたところ、出勤停止に伴う欠勤控除として平成14年6月分について16万7857円、同年7月分については7万0500円を控除した残額を支給しました。
7 就業規則等の定め
本件処分時、被告の就業規則には以下の定めがありました。
ア 第3章、第3節 異動及び出向・派遣
第24条 会社は業務の都合により、従業員に対して転勤、配置転換、職種変更、その他の人事異動を命ずることがある。その場合には正当な理由がなくしてこれを拒むことができない。
第25条
(1)会社は業務の都合により、従業員を社外の事業所に出向・派遣を命ずることがある。
(2)出向・派遣者の労働条件、その他については、その都度定めるものとする。
(3)出向・派遣先構内で勤務する場合は、その出向・派遣先の諸規則、達示事項及び指示に従わなければならない。
イ 第9章 表彰・制裁
第54条 従業員が次の各号の1つに該当する時は、次条の規定により制裁を行う。
・・・11 業務上の指揮命令に違反した時・・・
第55条 制裁は、その情状により次の区分により行う。
・・・3 出勤停止 7日以内出勤を停止し、その期間中の賃金は支払わない
ウ 第6章 賃金・退職金及び旅費
第45条 従業員の賃金は、別に定める賃金規定により支給する。
エ 賃金規定
第3条 賃金は月単位で支給するも、特に指定するものを除き、欠勤・遅刻・早退など勤務しない日数及び時間に応じて減額する。
賃金締切期間の中途において入社又は退職した者に対する当該締切期間における賃金は、次の算式により支給するものとする。〈省略〉
争点
この裁判においては、主に本件処分(出勤停止処分とその間の賃金を支払わない処分)の有効性が問題となりました。
判決
大阪地方裁判所は、懲戒処分としての出勤停止処分は合理的で相当な処分であるとしました。
そして、出勤停止期間中の賃金控除については、以下のように述べて、控除される金額の計算方法が労働契約及び労働基準法24条に照らし合理的なものであればよい、としました。
期間中の賃金を支払わない出勤停止の場合の賃金控除は、労務の提供を受領しつつその賃金を減額するものではないから、それが懲戒処分としてなされる場合でも労働基準法91条(※1)の適用はなく、控除される金額の計算方法が労働契約及び労働基準法24条(※2)に照らし合理的なものであればよい。被告の賃金規定9条は、欠勤、中途退職等の場合の賃金の減額の方法について、月ごとに支払われる賃金を欠勤控除する場合には、月ごとの賃金額を各月の所定労働日数で除して、欠勤日数を乗じる方法によるべきであるとしており・・・、被告がした・・・出勤停止期間中の賃金の算定方法はこれに沿うものであって、合理的である。また、出勤停止の場合の賃金控除について、平均賃金(労働基準法12条(※3))によるべきとする強行法規はないから、原告の主張・・・は採用できない。
※1 (制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
※2(賃金の支払)
第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
※3
第12条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下ってはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
〈以下省略〉
控除賃金の計算方法も就業規則で
出勤停止期間中の賃金控除は、その計算方法が合理的であれば有効とされます。
もし、就業規則等で定めていなければ、この判例の原告の主張するように、労働基準法12条にいう平均賃金で計算することになる可能性がありますので、それが嫌であれば就業規則で合理的な計算方法を定めておくことをお勧めします。
また、そもそも、出勤停止期間中には賃金を支払わないことについても、就業規則で明確にしておくと、余計な争いが起こらなくていいですね。