時季変更権の行使と代替要員の確保
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
ほとんど見ることのなかったオリンピックが、昨夜幕を下ろしました。
閉会式には宝塚歌劇団の皆さんが出るらしいという噂を聞いたのでテレビにかじり付いて見ていました。○○歌謡祭のように最後まで引っ張られて途中で眠ってしまった時のために録画までしていましたが、閉会式の開会直後にすんなり出てきてくれて助かりました。
せめて閉会式の雰囲気を味わいたいと、多くの人が閉会式の会場に押し寄せたようなので、みんな欲求不満のまま閉会してしまったということかもしれません。
もし今回のオリンピックが観客を入れて普通に行われていたなら、たくさんの人が有休休暇を取って見に行ったんでしょうね。
ということで、今日は、オリンピックの閉会式について・・・ではなく、有給休暇の時季変更権における代替要員の確保について書きます。
年次有給休暇の時季変更権
労働者は、年休権(年次有給休暇をとる権利)を具体的にするための時季指定権を持っています。
労働基準法には、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」と定められています(39条5項)。
そして、労働者が、権利として持っている休暇日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に「事業の正常な運営を妨げる場合」(労働基準法39条5項但書)に該当するとして使用者が時期変更権を行使しないかぎり、年次有給休暇が成立します。
この「事業の正常な運営を妨げる場合」といえるには、年休を取ろうとしている労働者の年休指定日の労働がその労働者の担当業務を含む相当な単位の業務の運営にとって不可欠であり、かつ、代わりに業務に当たってくれる人(代替要員)の確保が困難であることが必要です。
つまり、業務に不可欠な時季に、業務に不可欠な人が年休を取得しようとしている時であっても、その人の代わりに業務に当たってくれる人がいる場合には時季変更権を行使することができない、ということです。
代替要員の確保
代替要員の確保は、単位となる業務の組織およびそれと密接に関連する業務組織の範囲で努力されなければなりません。
使用者が通常の配慮をしても代替勤務者を確保することが客観的に可能な状態になかったかどうかが争われた裁判例があります(電電公社関東電気通信局事件(最高裁判所第三小法廷平成元年7月4日判決)。
この裁判において最高裁判所は、年休請求者の代替勤務者の確保は、使用者が通常の配慮をすれば客観的に可能な状態にある場合に必要となるとしました。
そして、そのような状態にあるかどうかについては、勤務割変更の方法・実情、年休請求に対する使用者の従前の対応の仕方、当該労働者の作業の内容・性質(他の人に替わってもらうことは容易か)、欠務補充人員の作業の繁閑(替わってもらうのに適任な人がいるとしても、その人はその時期に忙しくないか)、年休請求の時期(替わりの人を確保するために十分な時間的余裕があるか)、週休制の運用の仕方(週休日の人を代替要員とすることが必要か)などを検討して判断すべきである、としました。
問題となったケースでは、これらの諸点を検討した結果、使用者として通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保することは客観的に可能な状況にはなかった、と判断されました。
恒常的に人手不足な場合
最近は、人手不足に悩む会社が多いと聞きます。採用しても定着せず、すぐに辞めてしまう・・・
そんな会社では、従業員一人一人の役割が大きく重く、容易に有給休暇を取らせることができないかもしれませんし、代替要員を確保することが難しいかもしれません。
しかし、裁判例は、恒常的な人手不足を理由に、代替勤務者を確保する配慮を尽くさないまま多数回にわたって時季変更権を行使したのを違法としたものがありますので、注意が必要です(西日本ジェイアールバス事件(名古屋高等裁判所金沢支部平成10年3月16日判決)。
まずは人手不足を解消することから始めなければなりませんが、仮に人手不足だとしても有給休暇の取得を妨げるようなことはできないということです。
人手不足の解消
従業員が年休の権利を行使するについても、会社の人員体制が整っていないと、互いにしんどい状況に追い込まれてしまいます。
従業員を魅了して離さない会社になること。
従業員が個人的に大きな悩みを抱えていないこと。
優秀な人材を確保できるのに十分な魅力を発信すること。
この3点をクリアしていけば(クリアすることが大変なんですが・・・)、会社の人手不足は解消することができるでしょう。
報酬を高くても離職率が高い会社はありますし、反対に報酬額に関係なく従業員が定着している会社もあります。
ご自身の会社は、従業員の皆さんとどんな関係を築けていますか。
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