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ひと駅分の物語。 「落花流水」

物語詩

まえがき
 時の経過とともにたくさんの思い出の財産が蓄積されます。良くも悪くも。大切な思い出を失いたくない、他の誰にも触ってほしくない記憶もあります。思いの中で映像化しカタチになった記憶や思い出のそれぞれの未来を案じた物語詩です。



 「落花流水」眉間の物言い


時の流れは
すべて
カタチとなって現れ

そう時の流れは
すべてカタチとなり
流れ流れて…

やがて
やわらかさに姿を変え
人々の心に積もる記憶の遊糸(かげろう)

強烈な痛みを伴う裏切りも
流れ流れて
角が無くなり、匂いも消え
受け入れやすく、呑み込みやすく

夜々の呻吟も長きを経て、か細く
音にもならず
血に燃えた若き肉体は
襤褸(らんる)するブルカ

手に負えない星数の狂恋さえ
流れ流れて
清々しい池の、その池の
葦の茂みに微睡(まどろ)み揺蕩(たゆた)う

五月の様な顔をしていた男らも
今となっては勇ましさも枯れ果て
街角の隅で
踏みにじられた濡れ落ち葉

カタチは、
時の流れが作った琥珀、いや残骸か。

はしくはかないカタチらの湿度は低く
計るほどの重さもない
手土産にもならぬカタチらは
酒の肴で日の目を浴びる

過ぎ去った、もう
触れるのを嫌がっているカタチらを
揺り起こしては引っ張り出すと
俯いた表情の中から眉間が物を言う

迷惑千万!

その眉間はまるで
喉が裂けた歪な割山椒だが
か黒い部分では夜咲きの睡蓮の様に
執着を手放せないでいるわたしを微笑みている

永遠の中、ほんのひとときをこのカラダに宿り
因果に冷やされ、辛苦を味わっている魂が徐々に昇華し
まるで白く立ち上るけあらしの様に、空に吸収されていく様に
ゆったりとした海の風に流れ流れて薄くなり、見えなくなって…

そしてカラダはだんだん眠くなって
夕焼け空が其所ら中の陽の光を引き連れて暮れて行くように、厳かに
手足の先から生命力(ちから)が抜け、いずれ
疑いもなく鼓動し続けた忠実な律動も、静かに、止まる。

流れ流れて

塒(ねぐら)を無くしたカタチらは
自らを一欠片も落とさずに失くさずに
次の世で留まる懐を探し求めて
銀河を、幾千年もの時空を

流れ流れて…




あとがき
「落花流水」には次のような意味が含まれるようです。
・春の景色、去り行く春の風情
・物事の衰えや、時間のむなしい流れ
・別離
・相思相愛の状態
・禅の悟りの境地
落ちた花が水に従って流れる意で、ゆく春の景色。転じて、物事の衰えゆくことのたとえ。時がむなしく過ぎ去るたとえ。別離のたとえ。

心に残る名言

傷あとを隠しちゃいけない。
その傷が君を君らしくしているんだ。

- フランク・シナトラ -

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