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☀️早朝の風景☀️

AM6:00 

スーパーの開店時間だ。

同時に目の前の公園ではラジオ体操をやる人がワラワラと集まって来る。

真冬の寒さの中でも減ることは無い。


「年配の人が多いけど、血圧とか大丈夫なのかなぁ」

と私は心配になる。

【健康の為なら死んでもいい】

そんな風にはならないで欲しい。


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この辺りにはコンビニが無い。

だから早朝から深夜まで営業しているスーパーは、ありがたい。

以前は24時間営業だったんだけど、光熱費や人件費などを考慮すると、赤字だったのかな、残念。


自分が早起きなのもあるが、朝の早い時間帯の方が、肉や魚の値引き品が残っている可能性が高い。

狙いは“半額”シール。

今朝も鶏の胸肉と塩サバに貼ってあるのが残っていた。


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ふっふっふ、半額ゲット、やった!

朝に買い物に来る人は案外いる。

中でも、お年寄りの姿が目立つ。

顔触れも、ほとんど同じことが多い。


その中で、私がついつい目がいく人がいる。

名前も知らない、お爺ちゃんだ。

直ぐ近くに一間だけの高層棟があるのだが、一人暮らしのお年寄率が高い。

このお爺ちゃんも、その建物からやってくる。


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歩くのは、かなり遅い。

私はいつも心の中で、「頑張れ!」と応援を送る。

レジで精算を終えて、バックに買った品を入れてると、狭いイートインで、そのお爺ちゃんは朝ご飯を食べている。


その時、必ず飲んでいるのが、黒酢ジュースだ。

それを見て私はお爺ちゃんのファンになった。

80近い一人暮らしのお年寄りが、しかも男性が自分の体を思い、キチンと栄養を取っていることに感動したのだった。


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大量に買い物をした人やお年寄りは、購入後にカゴをカートに乗せたまま、自宅まで運ぶ人がいる。

後で返すのならまだしも、どうも違うらしい。

お店側は仕方なく、自宅までカートを使う人用に場所を作りカートの台数を増やした。


お爺ちゃんもその一人で、カートを押して帰って行く。

一度、カゴの中を、チラっと見たことがある。そして私はますますファンになった!

2ℓの天然水を2本。その他カゴに入ってた品物は、ネギにひき肉、それからトマト他。


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お爺ちゃんは自炊をしているのだ。

私は感動してしまった。自分だけが食べる食事を、ちゃんと作っているんだ。

私なら多分、作らない。いや絶対に作ることはないと思う。


その時、笑い声が聞こえて来た。


最近は、定年退職世代のおじさんたちが、朝から公園で酒盛りをしているのだ。

雨の日以外には必ずと云ってもいいくらいの頻度で缶ビールやカップの日本酒片手に盛り上がっている。

以前から見かける人たちだけど、それは日曜日に限った光景だった。

私も「楽しそう」と思いながら見ていた。


それが今では毎日で、その人たちを見かけると、奥さんはどんな気持ちだろうと思う。

私なら、きっと悲しくなるだろうな……。

やるせないもの、そんな毎日……。


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ある日、インターホンが鳴ったので、ドアを開けて、ギョッとした。

仏壇を抱えた、お婆ちゃんが立っていたのだ。

私は恐る恐る尋ねた。

「どちら様でしょうか」


お婆ちゃんは、それには答えず話し出した。

「この仏壇を返しに来ました。主人が怒るんです『直ぐ返して来い』って。だから返に来ました」

「あの……どちらのお宅をお訪ねですか?」


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「伊東さんですが」

「家は伊東さんではありません。お間違えになっていますよ」

お婆ちゃんはポカンとした顔で立っている。

「だって……105号室」


「確かに105ですが、家では無いんです」

その時、私はもしかして、そう思い、

「伊東さんは何号棟かは、お分かりでしょうか」

「19の、105が伊東さんの……」

やっぱり。


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「19号棟なら、この前の棟です」

それを訊いたお婆ちゃんは、頭をさげて、

「間違えました」

そう云うと、仏壇を抱えて帰って行った。


「あ〜、驚いた」

思わず口をついて出た。

思い出したのだ。確か前の棟は伊東さんのお宅だったことに。

熱心な新興宗教の信者の女性で家にも何度か署名を頼みに来たことがあった。


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だが……1時間後。

 ピンポーン

「はい、アッ!」

「仏壇を返しに来ました。主人から怒られるんです」


「……」

私は直ぐ前に建つ19号棟の105号室、伊東さん宅までの道順を書いて、お婆ちゃんに渡した。

大丈夫だろうか。

すると数分後。


      

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「お子さんはどうしてるんですか!」

突然、外から女性の大声が聞こえた。

私は思わず外に出た。

見ると家の二軒隣りに住む奥さんが、仏壇を抱えたお婆ちゃんに叫ぶように云っていた。


お婆ちゃんは道で小さくなっていた。

奥さんは涙声だった。

「自分の親の状態を知ってて放っているの?」

そう云うと、奥さんは窓をピシャリと閉めた。


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奥さんの気持ちは私にも分かる。

分かるんだ、けれど……。

私は仏壇を抱えて震えているお婆ちゃんを、伊東さんのお宅まで連れ行った。


自宅に戻って時計を見たら、まだお昼にもなってない。

「なんだか疲れたなぁ」

私はソファーに、仰向けに寝転んだ。

「元気かな……典子ちゃん」


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会ったことは無いけど、私にはネットで知り会い友達になった関西に住む“典子ちゃん”と云う同世代の女性が居る。

独身の私と違い、典子ちゃんには三人の子供さんがいて、ご主人との五人家族だ。


三年前、典子ちゃんの実母は亡くなっている。

夫婦で暮らしていたので、典子ちゃんのお父さんは一人暮らしになった。


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「父がね、私たちと一緒に住みたいって云うのよ。けれど……」

ある日典子ちゃんはポツリと云った。

珍しいことだった。

彼女はいつも明るくて、悩みや愚痴など訊いたことが無かった。


お子さんは三人共、成人している。

長男さんが数ヶ月前に成人になり、二人の娘さんと典子ちゃん夫妻で家族写真を撮ったのを見せてくれた。

初めて見た典子ちゃんのご主人は、とてめ優しそうな人だ。


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長男さんは車椅子で、写真に収まっている。嬉しそうな表情。

彼は身体の障害と、知的障害を持って生まれた。

実は二人の娘さんも体が弱いので、入院することもある。


小さな体で典子ちゃんは、毎日が大忙しで、私も連絡は控えている。

「この前ね、駅の階段を私が一人で車椅子を持ち上げて、ゆっくり降りていたら、『何してるんですか!』って云いながら男性の方が一緒に持ってくれたの」


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「一人でって、それ無茶だよ、重いのに。危ないでしょう。落っこちたら大変だったよ。無謀なことは止めてよ。ホントに〜」

典子ちゃんは笑いながら、云うのだ。

「周りに人が居なかったし、駅員さんを呼ぶのも面倒だったから」


車椅子は30Kg有ると以前に訊いていた。

良かった。典子ちゃんを見つけてくれた男性がいて。

そして今、典子ちゃんのお父さんは入院している。

どこかを骨折したと訊いた。


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「父がね、入院前からボケて来てて、私の

名前も時々忘れるの。顔を見ても自分の娘だって分からなかったりね」

「……そうなんだ」

「うん。そしたら今の状況で、面会にも行けなくなってしまったでしょう?次に会った時、私のことを覚えてるかな、なんて思うの」


私には、典子ちゃんにかける言葉が見つからなかった。


季節は春真っ盛りになり、近くにたくさんある桜が満開になっていた。

私は今朝も、早朝からスーパーに向かう。

私がファンのお爺ちゃんも、立ち止まり、目を細めて桜を見ている。


「あ、あの時の」


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お年寄りの夫婦が並んでベンチに座っていた。

一人は、あの時仏壇を抱えて歩いていたお婆ちゃんだった。

夫婦で桜を見ているその表情は、うっすら微笑んで見えた。


私は初めて分かったんだけど、滲んで見える桜もまた、乙なものだと知ったんだ。


それから、しばらくして、メールが届いた。

《やっと面会の許可が出た日、父に会いに行って来た。

私が病室に入ったら、『おう、典子、久しぶりだな』


覚えてたよ、お父さん》


       (完)





















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