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BLUE
マンションを探していた時、不動産屋さんに紹介された一つが、ここだった。
時刻はお昼過ぎ。何で目の前の景色が、交通量の多い道路の部屋を紹介されたのか、私には全く理解が出来ず、もしかして人気がなくて借りてが見つからない部屋なのではないだろうか?
そんな考えも頭をかすめた。
訝しげな顔をしている私を見て、不動産屋さんの、まだ30くらいの若い男性は、こう云った。
「お客様、今晩8時に、お時間は取れますでしょうか」
「そんな時間に、何の用が?」
「弊社は22時まで営業してます。それは昼間と夜の、物件周りの『顔』の違いを実際に、お客様に感じて欲しいからなのです」
「『顔』の違い」
「はい。昼間来た時は、とても気に入ってくださったお客様が、実際に住んでみたら夜中になると、酔った人たちが大声で騒いで歩くので、睡眠不足で仕事に支障が出るからと、早々に越されたこともありまして」
「なるほど」と、私は思った。
似たような経験は私にもあったから。
「窓ガラスは防音になっておりますので、
車の騒音の心配はございません。
いかがでしょうか、夜にもう一度、見にこられませんか」
「分かりました。大丈夫です」
「ありがとうございます。8時前に弊社に来て頂ければ、車でお連れ致します」
「はい。ではそうしますね」
若い男性は、ニッコリとして丁寧にお辞儀をした。
いま住んでる部屋に、ゆっくり歩いて向かう。
決して嫌いな住まいではない。
ただ、住むのが辛いから、引っ越すことを決めた。
7年間、恋人と暮らしたところ。
けれど、彼は出て行った。
〈ごめん、好きな人が出来たから〉
そう云って。
【結婚を前提に僕と付き合ってください】
真夏の陽射しを浴びながら、彼はそう云った。
けれど、現実は全く違ってた。
【別れることも、じゅうぶん有り得る僕と付き合ってください】
だった。
恋人同士とは、常に危うくて、確かに別れと背中合わせだ。
「それなら、結婚とか云うな!バカヤロー!」
大声を出したのは、周りに人が居ないのを確認したからだ。だが……。
ポツン
「あ、降って来た」
そう云って、空を見上げたら、電柱に工事中の男性が居た。
その人は、仕事に集中していた。
死に物狂いで熱中していた。
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