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旅行エッセイ【夜行の船旅】⑥天神橋筋六丁目の路上ライブ(沖縄三線の店、大阪市)

 会社が北浜にあって、ちょうど天神橋筋商店街の南の端に近いので、帰り道に北の端まで散歩することが多い。ご存知の通りここは日本で一番長い商店街で地下鉄でいうと天満橋駅から天神橋筋6丁目駅まで地下鉄3駅分まるまる歩くことになる。

 40分近く歩き続けて「やっと通り抜けた」と、周囲を見渡すと、オープンスペースの琉球三線(さんしん)の店を見かけた。店頭には琉球音楽のCDや楽譜が並んでいる。新品なのだがどことなく古本屋の風情が漂う。映画「ナビィの恋」で静かな父親役を演じた登川誠仁(のぼりかわ・せいじん)さんは三線の早弾きで有名だったが、ここでも一番人気だ。

 何より違和感を覚えたのが三線がずらりと売られているだけでなく、背広姿のサラリーマンが何人か爪弾いていて、何人かは人でごったがえす交差点のガードに足をかけて陶酔していることだ。

「うちがやっている三線教室が信号向こうで始まるのでみんな予習をしてはるんですぅ」と店の方が笑う。ここは文句なしのビジネス街。他の都市なら「ジャマだなー」白い目を向けられたり「ここで弾くんじゃない」と物陰にひそんでいた「三線警察」が注意しそうなシチュエーション。ここ大阪では「別に好きにしたらええやん」とスルー。なんてステキなんだ、大阪 !

 三線というのはニシキヘビの皮を張った楽器。中国福建省から渡来して日本の三味線のルーツとなった楽器だ。山内盛彬氏によると福建語ではSamhienというので「三味線」の音はここから来たという。

 津軽三味線を触ったことがあるので試しに弾かせてもらう。楽譜は工工四(クンクンシー、福建語読み)という縦書き漢字表記のもので、一音一音に対応する漢字が決まっている。手ではなく一部に出っ張りのある黒い塊で弾いて弾く。三味線は太竿と細竿があって音域は同じでも音の強さが違う。津軽三味線は太竿だが、三線は中竿のように弦の張り方が弱々しい。

 楽譜は「安里屋ユンタ」。「えーと、この音は2番目の弦だっけ」と行ったり来たりする。「優しく弾いてください」と言われる。陽気に弾いているイメージしかなかったが一音一音、心静かに大切に弾くんだな。

 店頭にひっきりなしに客が来るので、先生も「練習しておいてください」と席をはずすことも多くなってくる。なんかトラックを乗り付けてニコニコ顔で太鼓を何台も買っていく人がいる。聞くと沖縄ルーツの方で東成区の方で子供向けに琉球音楽のサークルを作っているという。「楽器を安く処分すると聞いたんでね、ええ機会やな、と買い付けに来たんですわ」。単に楽器を買いに来ただけなのに、「〇〇ちゃんのお母さん今度出るの?」「いやあ、そろそろ選手交代やわ」と雑談が終わらない。

 大阪には沖縄人が多い。これは戦前から就職者を運ぶフェリーが行き来していたからで、戦前には道頓堀で琉球語による劇団が発足、戦後間もなく心斎橋で琉球語によるレコード会社が立ち上がったという記録がある。前述の登川誠仁さんも沖縄生まれだが大阪西部の四貫島で育った。沖縄の音楽関係者に他に大阪と縁のある人が多い。

 ビジネス街の交差点で、きょうも琉球三線の音が響く。

(2023年6月12日記)

(後日、同店舗は周囲の再開発もあり7月いっぱいで閉鎖された。教室は大阪駅まえほかで続いている)

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