言葉の宝箱 1007【夢みる力は才能なんだ。夢を見るのは無条件に正しさを信じることができる者だけに許された特権だ】
『鍵のない夢は見ない』辻村深月(文春文庫2015/7/10)
どこにでもある町に住む、盗癖のあるよそ者の女、婚期を逃した女の焦り、育児に悩む若い母親、彼女たちの疲れた心を待つ落とし穴。
心に射し込む影と、ひと筋の希望の光を描く5話傑作短編集。
第147回直木賞受賞作。
『仁志野町の泥棒』
誰も家に鍵をかけない平和で閉鎖的な町にやって来た
転校生の母親には千円、二千円をかすめる盗癖がある。
『石蕗南地区の放火』
田舎で婚期を逃した女の焦りと、
いい年をして青年団のやり甲斐にしがみ付く男の見栄が交錯する。
『美弥谷団地の逃亡者』
ご近所出会い系サイトで出会った彼氏との
リゾート地への逃避行の末に待つ、取り返しのつかないある事実。
『芹葉大学の夢と殺人』【推理作家協会賞短編部門候補作】
大学で出会い、霞のような夢ばかり語る男。
でも別れる決定的な理由もないから一緒にいる。
そんな関係を成就するために彼女が選んだ唯一の手段とは。
『君本家の誘拐』
念願の赤ちゃんだけど、どうして私ばかり大変なの?
一瞬の心の隙をついてベビーカーは消えた。
・図々しい物言いに腹が立ったが、
これからも仕事で関わることを考えたら、無下にもできない(略)
ここにいる限り、いつまたどんなことで相手と関わるかわからない P66
・人の言葉や誘いに誠意のない対応ができないのは、礼儀の問題だ。
私はごく常識の範囲で相手に応えているに過ぎない。
おかしいのは、そこにつけ込もうとする礼儀知らずの輩たちの方だ P67
・モテない男たちは何故、犬だの猫だのの写真を送ってくるのだろう。
女はすべて、小動物や子供を見たら
無条件に「かわいい」と言わなければならないのだろうか P73
・幸せは、いつも自分の心が決める。
私は自分を不幸かもしれないと思っていたけど、
その基準は誰によって決められたものなのだろう。
そうか、自分が決めるというのもありなんだ。
私が今が幸せって決めたら、それには誰も口を挟ませない。
もっと素直になっていいのかもしれない P111
・一度夢を叶えた人って、
これから先何をするにしても
明確に自分がそれを叶えるビジョンが持てるでしょ? P139
・やりたいことがあるなら、働きながら目指しなさいよ。
現実的に夢を見なさい P163
・つらかった。
まるでタイプではないのに、仕事に疲れた心が、時折ではあるけど、
ただ弱っているという理由だけで揺れるのが情けなかった P166
・夢みる力は、才能なんだ。
夢を見るのは、無条件に正しさを信じることができる者だけに許された
特権だ。疑いなく、正しさを信じること。
その正しさを自分に強いることだ P178
・明確に言いたいことがあると思ったら、
その主人公に自分の主張をただ投影していくだけではだめなんだ P263