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ミクロの鉄滓痕 〜やらかしの記録 ①
「浴槽に模様がついちゃったんだけど」
というクレームのお話である。
ユニットバス、それも最近のものはパネル表面に化粧鋼板が張ってある話は以前に書いた。
なので、手すりを設置するときには、そこに小さいながらも下穴を開ける。そしてその際に鉄の切り屑が出る。
こちらは、工事の時に汚れを振りまかないように、かつ掃除が簡単になるように、床にシートを引いた上で、壁にはポリマスカーという養生用品を使う。
この品、30年くらい前に、養生フィルムを貼るのに四苦八苦している塗装屋さんを眺めていた、主婦の方が発明したみたいな話を聞きかじったことがあるが、真偽は不明である。
でも、これがあるおかげで、壁の養生は以前より格段に速くできるようになっているはずである。
ちなみにコロナ放電処理という細工が施されており、静電気の力で細かいホコリを吸いつけるという優れものでもあるのだ。
話を戻そう。
我が社、お風呂の手すりを設置するときには、お風呂の浴槽の水を抜いてもらうかどうかは、先方に選んでいただくようにしている。ただし蓋があれば、だが。
一人暮らしだと、毎日お風呂の水を換えているとは限らないし、洗濯や非常用として、常にお風呂に水を張っている方も多い。
そういった暮らしも尊重できればと思って、こちらはお風呂の蓋を敷いた上で、例のポリマスカーをパチっと貼り、切り屑がその上に落ちるようにしている。
ちなみに施工姿勢は無理目になるので、皆様にはおすすめできない。
そのお宅も、ロールの風呂ふたの上で施工したはずで、少なくとも水を張った状態であったはずだから、仮にそこに落ちた鉄粉があったとしても、栓を抜けば流れていくので、そうそう問題を起こすことはなかろう、という計算である。
そこでどういう状況だったかを、恐る恐る尋ねてみると、
「風呂洗った後で、うちは蓋を丸めて浴槽の中に立てるんだ」
てことは、浴槽が湿った状態で、マスカーを外れて蓋に残っていた切り子がまとまって悪さをしたということである。
良かれと思ってやったことでも、何事もこちらの想像を超える事はあるものだ。そもそも蓋を洗い忘れた自分が悪い。
で、この鉄の屑が何をやらかしたかというと、「もらい錆」というやつである。
鉄は濡れると容易に酸化するが、赤く錆びるとその色が他のものに移るのだ。
ここの現場は、人造大理石と呼ばれる硬めのアクリル樹脂製の浴槽だったが、ロールの蓋を立てたとおぼしきところに、鉄サビ模様が斑点状に残ってしまったのだった。
速やかに、なんとかせねばなるまい。
クレームにはスピード、客商売の鉄則である。
ということで、今回は重曹と、オキシクリーンという酸素系漂白剤的な洗剤を準備して速やかに現地に赴き、復旧にトライした。
重曹は難溶性微粒子のクレンザー効果による物理攻撃、オキシは酸素系の漂白効果による魔法化学攻撃狙いである。
ちなみに塩素系は使ってはダメですよ、浴槽には。
後学のため、それぞれ錆模様と対戦させてみたが、今回の判定は物理攻撃の勝ち。やっぱり物理一択であった。
なお、お客様へのお詫びの品として、オキシクリーンは彼の地に抑留された。彼の実力を発揮できる舞台がその後に与えられたことを祈りたい。
というわけで、浴室まわりでの、備品や汚れからの鉄錆には要注意、ヘアピン放置とかね。そして、物理攻撃は最強であった、という教訓を記して筆を置くものである。
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