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扉に邪魔をされない暮らし ~開き戸を引き戸にする方法 ①
室内の開き戸が引き戸であればいいのに、と思うのは、何も障害や高齢に伴って発生する話だけではない。というわけで、12年ほど前に越してきた、我が家の話である。
現在築55年ほどになる我が家だが、どうしても使いにくかったのが、階段降りて正面の、廊下を挟んだところにある居間の開き戸だった。その階段は玄関の隣に降りてくるし、居間はダイニングと仕切りなくつながっているので、いわば我が家の主動線なのだ。
それは室内側に開く扉だったのだが、まず通風の調整が困難なことが気になった。階段は風の通り道でもあるので、居間に風を通したいときにちょうどよい感じにしたいのに、開き戸はその点、閉まっているか開いているか、どちらかしか選べないので不便なのだ。あと1階の生活音が2階の寝室等に響くなどの、音の調整問題も出てくるだろうしね。
そして、もちろん人が通るにあたっての使い勝手の問題もある。居間側に扉幅を半径とした半円を描く形で開閉するわけだから、その部分での人の動きやモノの配置に影響を与える。家具を置かないにしても、なんとなく死んでいるスペースになるのだ。それが気持ち悪い。
また、既存の開き扉に窓がなかったのもダメ押しだった。閉めると廊下が薄暗いのである。居間は耐震性をガッツリ犠牲にしている代わりに明るいので、そのギャップが目に痛い。困る。高齢になってもその明暗差はきついはずだ。
そして、何より我が家にようやく迎えた猫、せんべいである。猫である彼が通るくらいだけ少し開けておく、ということができないと、冬寒いし困る。
そして引き戸なら、彼らが勝手に開け閉め出来るようになるかも知れない。
(結論から言うと、なった。そして加齢とともにやらなくなった。)
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というわけで、古い扉を外して、居間側に引き戸を新たに造ることにした。
こういった場合、扉を設置するラインは、廊下か居間か、どちらかにはみ出てつくることになる。これをアウトセット引き戸と呼ぶ。
そして、レールをどうするかでも選択肢が出てくる。引き戸は直線的に動くので、上で吊る方法と、下にレールを設置する方法が選べるのだ。
上吊りは、レールが床面にないので、躓かないフラットな床に出来るのが利点。だが、床側の振れ止めが一箇所しか設置できないため、扉がなんとなくブラブラしたりする。なので施錠が必要な場合などは不向きである。
今回はあえて床にレールが付いたタイプを選定した。上吊りは、風通しがあるところだと動くかな、というのが気になったのと、レールがどの程度移動の妨げになるかがわかれば、今後仕事でお勧めする際の資料になるかな、と思ったのである。
せっかくなら格好の良いやつを、と考えて、こちらの金具を選定し、扉は新たに建具屋さんにお願いして作り直した。小窓を片側に寄せて配置した、どちら側が開くかわかりやすくした形状で。
これ、上がスッキリなのだ。先程の、上吊り戸の振れ止めと同じ理屈の位置に、倒れ止めをつけるのだ。
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そして全景はこんな感じ。
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このレールシステム、ひとつポイントがあって、実は扉の上のレール隠しに隠れているところが重要なのだ。その両端に、調整式の摩擦ブレーキが配置できるようになっているので、扉をすーっ、と走らせても、バーーン!!と心臓に悪い大きな音を立てないように出来る。シュッ、という感じで程よく止まってくれるのである。
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足元はこんな感じ。上吊り引き戸とも、そこまで遜色はないんじゃないかな、と思える。自走の車いすか、4輪歩行器だとちょっと気になるかも知れません。
ただし、既存の扉を再利用するとなると、加工が多いのでちょっと大変だと思う。なので扉はつくりなおすことをお勧めしたい。
ちなみに、コストを省いて開き戸を引き戸にしたいが、扉そのものも再利用したい、そんなときは上吊りへの変更のほうがアドバンテージがある。既存の扉再利用キットが出ているからだ(その話は次回に)。
※6/20追記。書きました。
だが、一例だけ再利用したケース、ありました。
そこのご利用者さんの居間の扉、なんと楽器メーカーのヤマハ製の、稀に見るごっつい無垢の扉だったのです。
いまは防音ドアだけしかつくっていない様子ですが、
「伝統ある高級ヤマハドアの技術はそのままに」と出だしで書いているところ、プライドを感じます。
そう、楽器製造で鍛えられた、木工技術を活かして、最高級品の木製ドアなどの生産も一時期やっていたんですね。主に玄関ドアかな。
ちなみにヤマハさん、住宅設備はヤマハリビングテックからトクラス(株)さんに引き継がれた様子ですが、木製扉はやめちゃったみたいです。そもそもあんな材料もう手に入らないよね、って代物ですからね。
そんなツワモノが、いらっしゃいましたのです。
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これを引き戸にしてほしい、と言われて、頭を抱えることになります。だって一枚30kgじゃきかない重さだったと思います。エレキギターと同じくらいの厚みだから、そのボディが8本くらい取れる大きさで32kg、そんなもんよね。そんなの上から吊れない。
そこで思い出したのが、上記ATOMの金物 DW-250でした。そしてこの扉は無垢材なので、戸車を仕込んだり、いろいろ加工ができる。大変だけど。
なので、建具屋さんを拝み倒して、手間のかかる仕事をお願いし、このようになりました。
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扉はオモテウラをひっくり返しております。もともとあったハンドルの穴を隠さなきゃならないからですね。他にもいろいろ加工しているけど見えないので割愛。
正直、これでも重たいのだけど、指はさみだけケアする工夫も行って、なんとか納めることができました。
なんでも、一度実験しておくと、いろいろ後で必要になったときに知恵がでてくるものです。ただこの金物の場合は扉を選ぶので、それ以降の扉再利用の事例はないのですが。
幸い、まだこの金物は現役なので、いつかまた綺麗に納めてみたいな、と思っております。
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