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【童話 #32】たっくん家の小人さん ~小人さんの見た夢(シリーズ最終話) ~

※子ども向け(小学生低学年)の作品になります

ポカポカとした昼下がりです。この日はお日様の色がまぶしいほどにギラギラとかがやいています。

壁(かべ)の穴から小人さんは部屋の中へ入ってきました。

辺りをキョロキョロと見渡しました。たっくんもたっくんのママもいないようです。しーんとした部屋の中を小走りにキッチンへ向かいました。

途中で大きな壁(かべ)が立ちはだかります。キッチンへつながるドアです。ほんのわずかな隙間(すきま)ですが体をうまくよじらせて通り抜け、小人さんはパントリーまでたどり着きました。

小人さんは小袋に入った大好きな”ハッピーターン”を見つけます。静かな部屋でカサカサと袋を開ける音がします。カサカサという音の後に「パリっ、ムシャムシャ」と音がします。しばらくしてから、またカサカサ、パリっ、ムシャムシャの音がします。

このような同じ音が繰り返されました。

どれくらい時間がたったのでしょうか。しばらくすると音はしなくなりました。「何かあったのでしょうか?」、いや、その心配は必要なさそうです。

どうやら小人さんはお腹いっぱいになってお昼寝してしまったようです。


ここからは小人さんのゆめの中を覗いてみましょう。

たっくんのママがサクランボの形をした柔らかそうなクッションで体を休めています。サクランボが大きいのか、ママが小さくなったのか、どちらなのかは分かりません。けれどもサクランボのクッションの上でママがスヤスヤと飲み物を片手に気持ち良さそうにしている姿です。テレビでも見ながら1人の時間を楽しんでいるのかもしれません。

そう思った小人さんは、ママの近くに様子を見にいくのをやめました。

たっくんはどこにいるのでしょうか?
お友達の家に遊びに行っているのかもしれません。

しばらくすると何やら親子と思われる足音が近づいてくるではありませんか。時より笑い声も聞こえます。

「カチャ」と鍵(かぎ)をあける音がして、「バタン」と玄関のドアが閉まる音がしました。

小人さんはその音でハッとします。
夢から覚めたのです。短い短い夢でした。

たっくんとママが帰ってきたことに気づき、小人さんは壁(かべ)の穴に向けて全力で走りました。来たときに体をよじらせて通り抜けたドアも難(なん)なく通り抜けます。
無事(ぶじ)に穴の中に入った小人さんは真っ暗な中から部屋をのぞきこみました。


エコバッグから買った物を取り出す二人の様子が見てとれます。

たっくんは卵のパックをそっと優しく取り出しました。食パンも丁寧に扱っています。たっくんは新しく買ったボールペンを取り出したときに笑顔になりました。お絵描きするのが楽しみなのかもしれません。

たっくんとママの二人は買った物を全部取り出して、あっという間に片付けを終わらせました。

「洗濯物(せんたくもの)が乾いているか見てくるね」とたっくんは言いました。どうやら洗濯物(せんたくもの)は乾いていたようです。

たっくんは両手で抱えきれないくらいの洗濯物(せんたくもの)を部屋の中央まで持ってきました。その後、ていねいにたたみ始めたのです。

たっくんはお手伝いが好きなのでしょう。一つひとつ、ていねいにたたみ終えると片付けを始めました。

「洗濯物(せんたくもの)を片付けてくれてありがとう」とママはたっくんに向かって言います。
「いいよ~。片付けするの大好きだもん。」とたっくんは返しました。

小人さんはなんだかほほえましいやり取りを見ながら、たっくん家からはそろそろ引っ越ししても大丈夫そうかなと思いました。

「たっくん、宿題が残ってるよね?」とママが言います。
たっくんはゆっくりした動きでランドセルを取りに行きました。その中から漢字と算数のドリルを取り出しました。なんだか先ほどまでのキビキビした動きとは違(ちが)います。

「お勉強するのは気がすすまないのかな?」と小人さんは思いました。

たっくんはドリルを広げるとこう言いました。
「じゃーん。宿題は終わらせてるよ。」

ママはたっくんを見て少し驚(おどろ)いた様子で言いました。
「宿題は終わらせたの?と言われなくてもできるようになったんだね。」

ママの驚(おどろ)いた表情が微笑(ほほえ)みに変わりました。少しだけ安心したときの表情にちかい感じです。

そしてママは言いました。
「たっくん、明日は学校だから忘れ物がないように準備してね。」

「明日の準備も終わらせてる~。時間割表を見ながらチェックしたから大丈夫。」とたっくんは言いました。

こんな二人のやり取りを見ていた小人さんは、「もう引っ越ししても大丈夫だな」と確信(かくしん)しました。

たっくんの成長を壁(かべ)の穴から見守ってきた小人さんは壁(かべ)の穴にある小さなトビラを閉め、灯りをつけました。
ぼんやりと浮かびあがった小人さんの荷物をまとめると引っ越しの準備(じゅんび)を始めました。

サクランボのクッションで気持ち良さそうにしているママの姿は夢の中の出来事(できごと)ではなさそうです。

小人さんの引っ越し先はどこになったのでしょう。皆さんの身近なところに引っ越してきているかもしれません。見えないちょっとした優しさに触れたとき、それは気づかれないように登場した小人さんの影(かげ)のお仕事かもしれません。

【終わり】


~~~~~~~~~エピローグ~~~~~~~~~

(小人さんシリーズを読んで頂いた方へ)

たっくん家で活躍した小人さんはたっくんの成長を見守りながら、まだまだ引っ越しが出来ないと思っていました。たっくんがママのことを気遣うことが出来るように成長した様子を見て、ようやく引っ越しが出来るようになりました。

これまで壁の穴の中に住んでいる小人さんが気づかれないようにそっと助けてくれる内容にほっこりされた方もいるかもしれません。

現実の世界に小人さんがいるわけではありませんが、小人さんのような存在をどこかで感じることが出来れば、日常の暮らしの中で穏やかな時間が過ごせるかもしれません。

小人さんの引っ越し先はどこになって、これからどんな世界が待っているのでしょうか。引っ越し先が決まり、また皆さまとお会い出来ることを楽しみにしています。

これまでの小人さんシリーズを楽しみに読んで頂いた皆さまには本当に感謝いたします。ありがとうございました。



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東田純平
ありがとうございます。気持ちだけを頂いておきます。

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