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親世代の愛知県の進学校(30年前)と子世代の首都圏の進学校(現在)の学力レベル比較

前回の続きです。

愛知県出身で東京在住の私には「首都圏の高校の名前を聞いても、どれくらいの学力レベルの高校なのか感覚的にわからない」ということで、試行錯誤して分析してきた愛知県と首都圏の進学校の学力レベルの比較を、前回に記事にしました。

ただ、前回行ったのは、現在の愛知県の進学校現在の首都圏の進学校の比較です。具体的には、2020−2024年度平均の難関大学進学率の推定値を比較しています。

一方、私たち親世代の高校の感覚は30年くらい前のものです。そのため、愛知県出身の親世代(30年前の感覚)が子世代(現在)の首都圏の進学校を見る時には、「30年前の愛知県の進学校の学力レベル」と「現在の首都圏の進学校の学力レベル」の比較が必要になります。

そこで、今回はこのような時間差のある学力レベルの比較に挑戦してみます。

0. まとめ

  • 過去30年間で少子化のスピードよりも、難関大学の定員削減のスピードは遅く、この30年間で、首都圏と愛知県の進学校における難関大学進学率は14〜17%上がっていると推定できる。これは、少子化の影響で難関大学の進学率が30年前の1.5〜1.6倍となっていることを意味する。

  • このマクロ変化を元に、1990年代前半の愛知県の進学校の学力レベルが現在(2020年代前半)の首都圏の進学校のどのあたりに位置するかをシミュレーションすると、現在のポジションよりも上がる高校が多い。

  • 特に、旭丘・岡崎・東海の3トップは、親世代においては、現在の首都圏の公立トップ校を上回っており、その中でも旭丘・東海は現在の私立・新御三家と同等レベルであったと推測される。

  • 別の見方をすれば、この30年間で、愛知県の進学校は東京の進学校より、相対的に学力レベルが落ちたことになる。

  • 愛知県出身の親世代が自分の高校時代の感覚で、現在の首都圏の進学校の学力レベル(合格実績)を見る場合には、少し注意が必要である。

グラフ1
グラフ2

1.  分析対象と比較指標

愛知県の高校、首都圏の高校、集計対象の大学、比較指標としての進学率のいずれも前回と同じです。以下にポイントを再掲しますが、選定の考え方は前回記事(上記のリンク)を参照ください。

①比較対象(愛知県の高校)

<旧制中学のナンバースクール>
旭丘、岡崎、時習館、瑞陵、一宮、半田、刈谷、菊里、向陽

<その他>
明和、東海、滝

②比較対象(首都圏の高校)

  • 東京都立の進学指導重点校/進学指導特別推進校
    日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川、小山台、駒場、新宿、国分寺

  • 東京都立の中高一貫高
    小石川、都立武蔵、三鷹中教

  • 東京の国立附属高校
    学芸大附属、お茶大附属、筑波大附属、筑波大駒場

  • 首都圏の私立進学校
    <高校募集あり>
    開成、桐朋、城北、巣鴨、國學院久我山、東京農大第一、渋谷幕張、市川
    <高校募集なし>
    駒場東邦、海城、武蔵、芝、世田谷学園、本郷、桜蔭、女子学院、豊島岡女子、吉祥女子、頌栄女子、聖光学院、浅野

  • 別枠

③分析対象(大学)

東京大、京都大、一橋大、東工大、国公立医学部医学科(国医)、地方旧帝国大(地帝=北海道・東北・名古屋・大阪・九州)、早稲田大、慶應大への進学者を分析対象とします。集計対象は国公立は前期入試、早慶は一般入試のみです。なお、地帝の医学部医学科は国医にカウントします。

④比較指標

難関大学への進学者数を卒業数で割った進学率で比較します。集計期間は1990〜1994年度入試の5年間平均、2020〜2024年度入試の5年間平均です。データを集められなかった場合は、欠損値として扱うため、平均値には含まれません。

進学者数は国公立大については、合格者数=進学者数として扱います。数名の辞退者は出るようですが、進学率に与える影響は1%未満なので無視します。早慶の進学者数は、前回記載の優先順位で推定します。あくまで推定値であり、誤差を含みます。

⑤データソース

合格者数(進学者数)と卒業生数は次のサイトからのデータを用いています。優先順は1>2>3>4です。

  1. 対象高校のホームページ

  2. 進学校データ名鑑

  3. EduA 早慶上理現役進学率(2022年度)、早稲田大現役進学率(2024年度)、慶應大現役進学率(2024年度)

  4. インターエデュ、それ以外の情報提供サイト

2. 過去30年間のマクロ変化

それでは、時間差のある学力レベルを比較するために、過去30年間の難関大学進学率のマクロな変化を分析します。

上記①②の比較対象の高校のうち、1990−1994年の合格実績のデータをある程度の精度で入手できた41校について、30年前(1990年代前半)と現在(2020年代前半)の進学者数の推定値を比較すると、この表のようになります。なお、早慶進学者数は現在の本命率の推定値を、30年前にも当てはめて概算しています。

表1

まずは左の卒業数ですが、この30年間で大きく減っていることがわかります。下段の41校合計(オレンジ)で▲3,505人です。学校にも寄りますが、定員が2割減って、30年前の0.79倍になったようです。

これに対して、難関大学進学者数は過去30年間で減るどころか増えています。右から4列目の合計欄の一番下のサンプル合計を見ると、+1,395人となっています。これによって、サンプル合計の難関大学進学率は1990年代前半の26.2%から、2020年代前半には43.7%に16.7%上昇しています(右から3列目)。

また、表をよく見ると、国立医学部が大きく増えていることがわかります。医学部人気で上位進学校の医学部進学者が増えていることも考えられますが、国立医学部は1990年代前半のデータに欠損も多く、正確性が弱い可能性もあります。そのため、国立医学部を除外して集計したのが右端2列です。これを見ても、難関大学進学者数は+897人、進学率は+13.5%で、トレンドは変わらないことがわかります。

あくまでサンプル41校での分析ですが、それなりの高校を抽出しているので、首都圏と愛知県の進学校における難関大学進学数・率は過去30年間で上昇していると推測できます。この要因としては、少子化による高校の定員削減幅よりも、難関大学の定員削減幅が小さく、相対的に難関大学への進学数・率が上昇したのだと考えられます。

親世代が今の高校の合格実績を見る場合には、過去30年間で難関大学進学率が+13〜17%(+0.125〜0.166)となり、難関大学には1.5〜1.6倍ほど合格しやすくなっていることを念頭に置く必要があります

なお、私の過去の分析では、このマクロ変化の逆効果で東大に優秀層が集中し、30年前と現在で、東大の相対的な難易度は変わらないという結果が出ています。一方、玉突き効果は京大以下で発生しており、偏差値が下がるほど易化の度合いが大きいようです。今回のマクロ傾向のデータ分析は、過去に作った分析モデルと同じ傾向を示しており、それほど悪くない印象です。

3. 親世代の愛知県の進学校の現在の首都圏でのポジションのシミュレーション

それでは、上記のマクロ変化を頭に入れながら、親世代の愛知県の進学校(30年前)の学力レベルが、今の首都圏だとどれくらいのポジションになるのかを分析・考察していきます。

まずは、おさらいで前回の記事に載せた現在(2020−2024年度)の難関大学進学率を見てみます。右からトップ校、2番手校、3番手校で概ね3階層になっています。

グラル3

続いて、30年前の1990年代前半(1990-1994年度の5年平均)の愛知県の進学校の難関大学進学率を見てみます。

グラフ4

現在の難関大学進学率(グラフ3)と比較すると、全体的に進学率が低いことがわかります。また、順位変動もあり、一宮と向陽が3番手グループから2番手グループに上がり、菊里と半田が2番手グループから3番手グループに落ちてます。

順位の変動は個別事情ですが、全体的に進学率が低かったのは上記のマクロ変化影響(18歳人口に対する難関大学定員)です。そのため、この影響を除外して、1990年代前半の学力レベルを現在の学力レベルに変換するシミュレーションを行います。具体的には以下の計算を行います。

  1. 東大・京大、一橋・東工大、地帝5大学、早稲田・慶応の1990年代前半の進学数に対して、表1のサンプル合計の倍率をそれぞれ乗ずる。例えば、東大・京大なら1.09倍、早稲田・慶應なら1.46倍する。

  2. 国公立医医については、1990年代前半の数字の精度があまり高くなさそうなので、2020年代前半の進学者数をそのまま採用する。

  3. これらを2020年代前半の卒業生数で割り算することで、1990年代前半の学力レベルが平均的に慎重した場合の、その高校の現在の難関大学進学率のシミュレーション値を得る。

このシミュレーションを行うと、愛知県の進学校の難関大学進学率はこのようになります。

グラフ5

それぞれの高校ごとに、左('90s前半 親世代)が1990-1994年平均の実際の難関大学進学率の推定値です。中央('20s前半 親世代)は1990年代前半の学力レベルで、その高校が現在に大学受験した場合の難関大学進学率のシミュレーション値です。右('20s前半 子世代)は2020-2024年平均の実際の難関大学進学率の推定値です。

中央('20s前半 親世代)と右('20s前半 子世代)を比較すると、多くの高校では右下がりであり、難関大学進学率が相対的に下がっていると推測できます。中央の数字は首都圏と愛知県のマクロ変化からシミュレーションしているため、現在の愛知県の進学校は首都圏の進学校と比べると、学力レベルが相対的に下がっていると解釈できます。

それでは、親世代の愛知県の進学校は、現在の首都圏の進学校の中では、どのあたりに位置するのかを見ていきます。

①30年前の愛知県の進学校 vs 現在の首都圏の公立校

まず、こちらが前回に掲載した現在の愛知県と首都圏の進学校の難関大学進学率の比較です。愛知県の公立進学校は、都立の進学指導重点校とほぼ同じ階層にいることがわかります。

グラフ6

続いて、ここに親世代の愛知県の進学校のシミュレーション値を位置づけてみます。

グラフ1(再掲)

全体的に右にシフトしていることが見て取れますが、特に旭丘・岡崎・東海の3トップは、難関高校進学率では現在の日比谷を抜いて右端に移っています。30年前の愛知県の3トップは、現在の首都圏の公立トップ校よりも学力レベルが高かったと推察できます。

②30年前の愛知県の進学校 vs 現在の首都圏の私立・国立校

次に首都圏の私立・国立校と比較します。同様に、最初に現在の比較を改めて見てみます。愛知県の3トップでも首都圏の私立2番手クラス(右から2つ目のブロック)であり、愛知県の進学校の多くは首都圏の私立3番手クラス(右から3つ目=左から2つ目のブロック)にいることがわかります。

グラフ7

では、30年前の親世代の学力レベルを現在に当てはめたらどうなるか見てみます。愛知県の進学校にこれまでと同様のシミュレーションをしています。

グラフ2(再掲)

こちらも全体的に右にシフトした印象ですが、特に大きな変化は、右端の最難関私立校のゾーンに、旭丘と東海が入っていることです。親世代の旭丘・東海の学力レベルは、現在の首都圏の私立進学校と比較すると、新御三家と言われる海城・駒場東邦に相当するようです。なお、海城の1990年代前半の難関大学進学率は43%であり、当時の旭丘(45%)・岡崎(46%)より少し下でした。そう考えると、このシミュレーションもそんなに悪い感じではなさそうです。

4. 最後に

愛知県出身で東京在住の私には「首都圏の高校の名前を聞いても、どれくらいの学力レベルの高校なのか感覚的にわからない」という状況の解消のために、前回と今回の2回に渡って、愛知県と首都圏の進学校の学力レベルの比較を行ってきました。

少しややこしいのですが、前回は「現在の愛知県の進学校と現在の首都圏の進学校の比較」、今回は「親世代(30年前)の愛知県の進学校と現在の首都圏の進学校の比較」です。単純に現在の高校同士の比較なら前回の分析になります。そうではなく、愛知県出身の親世代が自分の高校時代(高校受験)の感覚を元に、現在の首都圏の高校の学力レベルを推し量りたい場合は今回の分析になります。

いずれにしても、そもそもの難関大進学率(特に早慶)が推定値ですし、親世代の学力レベルを現在に当てはめるのは完全にシミュレーションです。細かい数字でどっちが上か下ではなく、なんとなくこんな感じなんだなぁ、という参考値レベルで眺めてもらえれば有り難いです。


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