東工大 vs 一橋大(学年上位0.1%の進学先の統計分析⑥)
趣味の統計シリーズです。共通テストリサーチのデータを用いて、大学・学部の学力レベルを統計分析しています。その第6回目です。今回は「東工大 vs 一橋大」です。
前回の記事で、文系vs理系の分析をしたところ、東工大と一橋大の間に学力レベルの格差が出る結果となりました。そこで、今回は東工大と一橋大に焦点を当てて、学力レベルの差の詳細分析を行います。ただし、一橋大では、社会学部が共通テスト5教科の配点で理科基礎が高いことを踏まえて、社会学部は対象外として除外しています。
この分析では、学力レベルは模試のボーダー偏差値ではなく、学力上位○%に入る学生が定員に占める構成比(定員占有率)で見ています。ボーダー偏差値が、大学・学部の下半分〜下限の学力を示す指標に対して、定員占有率は大学・学部の上位層の学力の構成を示す指標となります。
なお、共通テストリサーチのデータを用いた統計分析の考え方・前提は、過去の記事をご参照ください(文末に転記します)。また、学力上位○%のランク分けは、イブリースさんの定義を活用させていただいています。
0. まとめ
東工大と一橋の中位〜下位(ボーダー付近)の学力はほぼ同等だが、上位では一橋大の方が東工大よりも学力レベルが高い
これは、理系起点で見ると、理系東大・京大の次のレベルの学生には、東工大以外に国公立医学部医学科(難関〜中堅レベル)の選択肢があり、そうした学生が東工大と国公立医医に分散することが要因と考えられる
また、文系起点で見ると、現役志向の学生や進振を忌避する最優秀層の学生が東大ではなく、一橋に進学しているのではないかと推察される
1. 前回のおさらい
前回は文系と理系の学力レベルの比較を行いました。その中で、大学ごとの文系/理系/医医の対比を行っていますが、東京の難関大である一橋大、東工大、医科歯科大医医は、それぞれ専科大学なので、並べて対比しています。
これを見ると、一橋大と東工大の間に、学力上位1%(グレーの上の数字)で大きなギャップがあります。この分析が今回のテーマです。
2. 東工大と一橋大の学力レベル比較
まずは東工大と一橋大の学部別に、学力レベルを一覧してみます。参考指標として、東大理二と東大文三を入れています。グラフは学力上位1%の定員構成比の順番に並べています。また、下段の駿台偏差値は、駿台全国模試の合格目標ライン(A判定80%相当・2023年7月調査)です。
グラフを見ると、一橋の学部が左半分に収まっており、学力レベルは基本的には一橋大>東工大です。ただ、一橋大・ソーシャル〜東工大・工は、学力上位1%の定員占有率が63%±10%にあり、東工大が総合得点における共通テストの配点がゼロで下振れすると想定されるため、この辺りは同等の学力レベルと言えそうです。
一橋大の学部の学力レベルは大きな差は見られませんが、法学部と商学部の学力レベルは、他より少し高いようです。
東工大では情報理工が頭一つ抜けており、一橋大の大半の学部の学力レベルを上回っています。ただし、東大・理二には大きく及んでいません。東大・理一はさらにその上なので、さらにギャップがあります。
駿台偏差値は学力レベルにほぼ相関しています。前回の通り、母集団要因で「文系偏差値=理系偏差値+2」となります。このことから、一橋の63は東工大の61と同等と見なせるため、それぞれの大学の下位層(ボーダー付近)の学力レベルは大差ないことになります。
総じて言えば、一橋大と東工大は中位〜下位層はほぼ同等だが、上位層は一橋が上という感じです。
3. 理系の学力レベルの分析
それでは、東工大の上位層が一橋より低い要因を探るために、理系の学力レベルを改めて並べて見てみます。並び順はこの後のパレート図の順番になるので、何パターンかやってみて、最適な並び順を決定したいと思います。
まず、旧帝大、東工大、国公立医医の定員占有率を、学力上位0.3%(青の三角)の順に並べてみます。理系学部は「理系」として集約しているため、東工大は一つになります。
これを見ると、東工大は中央値あたりに存在し、京大との間に国公立医医が入り込んでいることがわかります。ただ、このグラフだと学力上位1%(グレーの上端)の凸凹が目立ちます。
次に、同じデータを学力上位1%の順番に並び替えるとこうなります。
この場合、旧帝大の理系と東工大は総じて右にシフトし、国公立医医が上位(左側)を寡占化しています。前々回の分析を踏まえると、京大理系のポジションが右に寄りすぎているように感じます。
また、このグラフでは、グレーの上端は綺麗に並ぶのですが、左半分を見ると、学力上位0.3%(青)や学力上位0.1%(黄色)などが、かなり凸凹しています。おそらく、この並び順では、最優秀層の学力レベルを正しく反映できていません。
ここで、最初のグラフ(グラフ3)をよく見ると、学力上位0.3%(青の三角)が、広島大医医12%から次の岐阜大医医7%で▲5%下落してますが、その後の下落幅はコンマ数%に落ち着きます。。学力上位0.3%の定員占有率10%に何からかの壁がある可能性があります。
そこで、学力上位0.3%の定員占有率10%を境目に、2つのグラフを組み合わせてみます。それがこのグラフです。
学力上位1%ライン(グレーの上端)には多少の凸凹はありますが、左側は学力上位0.3%ライン(青の三角)で右肩下がりになり、途中から学力上位1%ラインで右肩下がりになるので、印象としては悪くありません。
大学名を見ても、左側から、東大・京大、地帝医、国公立医医・難関、国公立医医・中堅、東工大、国公立医医・一般、地帝医となっており、そんなに違和感ない感じがします。
この並び順を理系・医医の学力レベル順として、定員のパレート図を作成するとこうなります。母数は旧帝・東工大・国公立医医の定員合計の13,653人で、難関国公立・理系定員と呼ぶことにします。グラフの数字は、この難関国公立・理系定員に占める累積定員の比率となります。
今回のテーマである東工大は中央に位置し、学力レベルが東工大以上の大学・学科で、難関国公立・理系定員の50%となります。
同じ理系の一つ上の京都大は32%なので、ギャップが18%あります。この18%の理系学生が東工大に入学するかというとそうではなく、学力上位の学生には地帝医医や国公立医医という選択肢があることがわかります。
もし、難関国公立・理系の学生13,659人が、この大学・学科の順番に進学していくと、東工大に進学するのは上位43〜50%の7%の学生となります。実際には、この順番で進学することはなく、志望学部や立地によって進学先を選ぶので、重なり合う部分が発生します。
ただ、東大・京大の次のレベルの学生が、地帝医医、国公立医医、東工大に分散し、東工大は上位の厚みが薄くなるメカニズムがこのグラフから読み取れます。
4. 文系の学力レベルの分析
同様に文系の学力レベルも分析します。こちらは数が少ないので、シンプルです。定員充足率グラフとパレート図を並べて掲載します。パレート図の母数は、旧帝・一橋大の定員合計の5,686人で、難関国公立・文系定員と呼ぶことにします。
定員充足率のグラフでは、一橋大と大阪大・文系に大きなギャップがあるように見えます。ただ、パレート図ではほぼ直線となっています。
パレート図から、一橋大以上の学力レベルの大学の累計定員は、難関国公立・文系定員の47%であることがわかります。東工大が49%でしたので、ほぼ同数です。
理系パレート図の違いとしては、一つ上の京大文系との間に、国公立医医に相当する大学がないことです。つまり、理系と違って、東大・京大の次のレベルの学生が
一橋大に集中しやすくなると推察できます。
5. 文系における一橋大と理系における東工大の比較
この2つのパレート図の数字を抜き出して、表にまとめました。黄色は5%以上のギャップがある順位です。一橋大と東工大は今回のテーマなので、緑色・オレンジ枠にしています。
まず母数は、文系の5,686人に対して、理系は13,653人と倍以上います。文系:理系=30:70です。前回の記事の通り、学力上位1%の優秀層(1万人)がこの定員の半数で、文系:理系=30:70です。更に上の学力上位0.1〜0.3%の最優秀層だと、文系:理系=25:75です。理系の方が優秀層の競争が激しいことがわかります。
東大までの累積定員は、文系22%、理系15%です。数字だけ見ると、文系の方が東大に入りやすいと言えます。他に5%以上のギャップがある順位を見ると、4位(大阪大文系ー東北大理系)です。
本題の東工大 vs 一橋大ですが、母数に対する累積定員は一橋大45%、東工大50%やや一橋の方が間口が狭いです。ただ、一橋大では社会学部(約200名)が集計対象外となっており、この数字を分母・分子に加えると、一橋大は47%となり、東工大に近づきます。
一つ上の順位の京大も文系34%、理系32%とほぼ同じです。旧帝7大学、一橋大、東工大の8校の比較なら、一橋大と東工大の学力レベルはほぼ同じになるはずです。
ただ、これまで分析してきた通り、理系には京大と東工大の間に国公立医医がいくつか存在します。先のパレート図やこの表を見ると、東工大の一つ上の浜松医大は累積定員43%であり、京大〜東工大の間のレベルの上位層の大半は、医学部に流れていると考えられます。
この国公立医医の存在が、最優秀層の進学先について、東工大・国公立医医への分散(理系)と一橋大への集中(文系)の違いを生み、東工大と一橋大の学力レベルの差に繋がったと考えられます。
6 最後に
今回の分析は以上となります。
なお、定員のパレート図を作るために大学・学科の序列を定義しましたが、この順番で大学・学科の優劣を語る意図はありません。あくまでも、統計分析のための順序規程と理解いただければと思います。
<参考>
共通テストリサーチを用いた学力レベル分析の総括記事
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