怒涛の読書週間
11月17日に「火車」宮部みゆき著を読了して以来、たて続けに本を読んでいます。
基本的に、【その時やりたいことをやる】精神で生きておりますので、ハマるときにはそればかり…というのが常ではありますが、この一週間は怒涛の読書週間でした。
「火車」
初・宮部みゆきさん!大変著名な作家さんですから、何かしら読んでいるかと思いきや、初めてでした。
奥付を見るに、1992年刊行とありますから、30年以上前に刊行された本です。言われてみれば、電話帳やら番号案内(どちらも近々廃止になるそうです)やら、携帯電話が普及した現在とは乖離している部分もあります。
しかしながら、この物語の中で繰り広げられる悲劇は、今現在でも他人ごとではないと思われます。
「火車」は、一人の女性が失踪してしまったところから物語が始まります。親戚から頼まれ、失踪した女性を探すのは、休職中の刑事・本間。彼の執念で、少しずつ失踪の背景が判明していくのですが、こんな人生があっていいのか、と暗澹たる気持ちになりました。
ラストシーンは、本間が、ひたすら探し求めた女性に近づくところで終わるのですが、正直、見つけたところでどうなるのか、と。
他人を犠牲にし、自らも犠牲になりながら懸命に生きている彼女を"本来の彼女"に戻したところで、そこに幸せはあるのか、と。
様々な思いに駆られる本です。
未読の方は是非。
「殺人症候群」
貫井徳郎著。何たる凡ミス。これ、シリーズ3作目でした。
貫井さんは大好きな作家さんなので、未読の本を見つけると買ってしまいます。しかし、このシリーズの1・2作目、未読でした。探して読みます。
裏表紙に『怒涛のノンストップ1100枚!』と書いてあります。分厚い本です。字も細かいです。それだけに、こちらも深く考えさせられる本でした。
冒頭、若い母親と幼い娘が通り魔に襲われ命を落とします。
彼女らには、もちろん家族がいました。
続いて、ある中学生が、上級生らからリンチを受け死亡する悲惨な事件が起こります。
それから、母一人子一人で懸命に生きている親子。
息子は、重い心臓病で心臓移植の順番待ちをしています。
カップルでデート中に、未成年の男たちに襲われるというひどい事件に巻き込まれた女性。
誰からも好かれる男子大学生が、事故に見せかけて殺される事件。
とにかく「殺人症候群」と題するだけあって、悲惨な殺人事件がたくさん起こります。
こちらの神経もくたくたです。
殺人事件には、被害者と加害者がいて、それからその両方に家族がいます。
『大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?』
そんな重いテーマを携えて、物語は幾層にも展開します。読むのがつらいシーンもありますが、ページをめくる手は止まらないでしょう。罪と罰というのは、画一的に判断できるものではないのだと、改めて思う次第です。
未読の方は是非。
「向田理髪店」
奥田英朗著。この流れでは、閑話休題といえそうな本。かつて炭鉱で栄えた北海道の過疎の町を舞台にした連作。
これは非常に私的な目線が入る感想になってしまうかもしれません。
私自身、小学校に上がる年に、両親の生まれ故郷である田舎町に引っ越し、中学を卒業するまで過ごしました。小学校は1~2クラスしかなく、町の人間はみんな知り合い…のような環境が息苦しく、高校入学時に越境受験をし、町を出ました。
この本に出てくる町は、そんな私とは相容れない人々が住んでいる町です。
けれど、この本で私は、そういう町に住み続ける人々の気持ちを初めて知りました。
そして読み終わった今、心の真ん中にぽっと温かい灯が灯っているような心地です。
田舎を懐かしむような気持ちは湧いてこないけれど、田舎に住むことを"選んだ"人々の視点で語られる心情を読み、非常に驚くとともに、感じ入るものがありました。
ぜひ、連続ドラマで観たい!と思ったら、映画化されていますね。
未読の方は是非。
「沈黙のパレード」
東野圭吾著。ガリレオシリーズの長編です。前述の「殺人症候群」にも似て『大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?』というテーマが根底にあると思います。
犯人(のちの被害者)に対しては、腹を立てない人間はいないのでは?と思うほど怒りを覚えました。いくら法治国家とはいえ、法が裁いてくれないどころか、無罪の太鼓判を押す…それも一度ならず二度までも。そんな犯人を無罪にせざるを得ない司法にも腹が立ちました。
この物語の肝となる事件は、この【2人も殺しておいて無罪放免になった男】が殺される事件です。男に復讐したい人々の復讐劇…なのですが、事件の真相が判明した後もなぜかそこそこの分量のページ数が残っています。
そうなんです。さらにここからもうひとひねり。
ガリレオこと湯川教授が、皆が少しずつしか知りえていない事実をつなぎ合わせ、本当の真相にたどり着きます。
けれど、彼もアメリカ行きなどを経て成長し、あの名作「容疑者Xの献身」を苦い教訓として、この事件を収めます。
暴く者から寄り添う者へ。
年を取るというのはこういうことなのではないでしょうか。
未読の方は是非。
「あなたが消えた夜に」
中村文則著。個人的に、当たりはずれのある作家さんです。当たればノンストップで入り込めるのですが、「教団X」だけは挫折してしまいました。いつかリベンジしたいと思っています。
さて今回の物語は…。通り魔を装い私怨を晴らすという展開はよく見ますが、登場人物たちが闇を抱えすぎていて、一筋縄ではいかない展開になっています。
三部構成になっていて、第一部で通り魔事件の謎を解き、第二部は第一部で取りこぼした謎を解き、第三部は叙述もの…というか、犯人の手記で始まります。
とにかく、違う本を読んでいるのか、と思うくらいに変貌していく一冊です。
簡単に感想を語れるような本ではありません。
本筋には関係ありませんが、非常に納得した言葉を引用。
『家庭の核は夫婦仲ですよ。これが最も肝心なんです。それさえできていれば、親を見ていて子供は勝手に健やかに育つ。』
これを言うのが、決して真っ当ではなさそうな男だというのがまた。
未読の方は是非。
今回は、長い記事になってしまいました。
まだまだ読書熱が続くのか、私にもわかりません。
【その時やりたいことをやる】精神で。