親を施設に預けるという選択#2〜介護者が自分自身の人生を生きるために〜
前回の記事では、母がグループホームに入居するまでの経緯を書かせて頂きました。
親を施設に預けるという選択#1〜母をグループホームに預けた時のこと〜
https://note.com/yo_ssy/n/n7d4c6c21f0c1
今日は、そこに至るまでの私自身の葛藤と、いま現在の思いを書いてみようと思います。
母の認知症によるトラブルが多発するようになり、早晩24時間の見守りが必要になると感じざるを得なくなってるにつれ、私たち兄妹三人は何度も話し合いを持ちました。
私は元々結婚する時に母を置いて家を出ることが心配だったので、新居で母と同居する、あるいは実家の近くに住むことはできないかと夫に相談しましたが、夫は決して了承しませんでした。私達家族への介護負担が重くなり、これから赤ちゃんを迎える新婚家族の生活が困難になることを恐れていたようです。当時は夫のことを「なんて冷たい人だろう」と思い、恨んだりもしましたが、今思うと夫の判断が正しかったと思います。乳幼児の育児と認知症の介護を両立するのは困難の極みだということが、母のその後の経過をみて、育児も経験した今だからこそ分かります。夫は医療従事者で認知症の専門知識もあったので、余計にその大変さが容易に想像できたのでしょう。
その一方で兄達は、母を施設に入れたくないという思いがとても強かったので、なんとか実家で母をみてあげられないかと考えていました。そうは言っても次兄は結婚して別のところに住んでいるし、同居している長兄は平日は遅くまで仕事があるので、介護にはほぼ関わることができません。
そこで次兄が出してきた案は、私と義姉が半年くらいの交代制で、母と実家で同居して介護する、というものでした。次兄としては考えに考えた苦肉の策だったのかもしれませんが、それは私が新婚間もない自分の家庭を半分放棄し、出産後もなんとか続けていた仕事にも行けなくなるであろう事を意味していました。
当然夫はこの案を拒絶しましたし、私自身も、夫と離れて一人で育児と介護を抱え込み、仕事も辞めるという生活は考えられなかったので、それはできないと伝えました。私が母より自分のことを優先していると感じたのでしょうか、次兄は激怒し、何ヶ月も険悪な状態になりました。
私自身も大いに悩みましたが、しかしこの一件があって、気付かされたことがあります。
それは、【(元気だった時の)母本人の視点に立ってみることの大切さ】です。
確かに母は実家にいることを望んでいましたし、家族が常に一緒にいて世話をしてくれれば安心感があるでしょう。それでも。
いつどんな時も私のことを応援し、励ましてくれた母が、自分のために娘が頑張ってきた仕事を諦めることを望むでしょうか。
昔から心配症で、私の結婚がようやく決まった時に誰よりも喜んでくれた母が、自分のために娘の家庭がバラバラになることを望むでしょうか。
子供の人生は、親の人生よりもずっと長く続いていくのです。
それを考えると、私は自分のためにも母のためにも、自分自身の人生を生きなくてはいけない、と思えました。
私達夫婦の考えを次兄に伝え、あらためて話し合ったところ、次兄は自分の受け取り方に誤解があったことを謝ってくれ、和解することができました。そして、母が施設に入ってからも兄妹三人で結束し、大事な場面ではお互いに納得がいくまで話し合う事ができるようになりました。
母に対して充分なことをしてあげられなかったという思いが全くないわけではありませんが、それでは「母を施設に預けたことを後悔しているか」と問われれば、後悔はないと答えるでしょう。
その理由は二つあります。
一つは、多くの温かい施設スタッフの方々に恵まれ、介護のプロにケアして頂いたことは、母本人にとっても良かったと思えるからです。母が今も施設で元気にしているのは、今まで母に関わってくださった全てのスタッフさん達のお陰です。さらに今の特養では、介護スタッフの方々をはじめ、主治医の先生、看護師さん、栄養士さん、作業療法士さん、訪問歯科の先生など、本当に沢山の職種の方々が関わってくださっていて、とても心強く、有り難く感じています。
もう一つの理由は、施設に入所しても、家族としてしてあげられること、必要とされることは、まだまだあるからです。以前施設の職員さんが、「介護は私達でもできるけど、面会に来て喜ばせてあげることは、家族にしかできない」と仰っていました。今はコロナ禍で面会ができませんが、コロナが終息したらまた母のところに通い、一緒に大切な時間を過ごしたいと思っています。そして、これからも母のことで大事な選択を求められる時が来たら、可能な限り兄妹で話し合い、母にとって良いと思える選択をしていきたいと考えています。
私たちのケースは、あくまで一つの例でしかありません。いま現在、大変な思いをしながら在宅で介護なさっている多くのご家族の尊さを否定するものでは全くありません。
介護には正解はないのです。介護者ご本人が望んで介護に身を捧げ、やり甲斐や充実感を感じられるならば、それはそれで素晴らしいことです。
でももし、介護者ご本人がつらいと感じるなら、それは周りの助けを借りるべき時ではないでしょうか。幸い今は介護保険という制度によって、様々なサービスを受けられることができますし、その中の一つとして施設という選択肢があります。それを利用することは、恥じるような事では全くないということを、知っておいて頂きたいと思います。
この記事が、今悩んでいる誰かにとって少しでもヒントになれば嬉しいです。今回も最後までお読み頂いてありがとうございました。
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