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感度の鈍り

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単身で訪問 17時過ぎ

到着すると、食堂のフロアを歩いている母の姿が目に入る。
スタッフさんに両手を引かれ、のそのそと歩いている。 

お母さん! 今日は歩けている!

たちまち嬉しくなる。

スタッフさんに代わり、わたしがピタリと横に付き一緒に歩く。

母はエントランスの方へ自然と足を向け、外を眺める。
前回転倒した場所だ。

尚子「もうすぐ桜が咲くからね、そしたらさぁ、向かいの公園にね、お花見に行こう。」
母 「あぁ、そう。」
尚子「お花見。」
母 「うん。ふぅ~ん。」
尚子「一緒にみんなで公園行こうね! 尚子だ!」 
母 「うん。尚ちゃーん。アハハハ。」
尚子「ここ窓だからね。今まだ閉まってるからね。」

エントランスの自動ドアのガラス戸に手を伸ばし、一生懸命開けようとしている。
やはり外に出たいのかな。

その時、ハッとする。

そうだ、外に出れば良いのか!

慣れとは怖いもので、わたし自身、母の外出を完全に無きものにしていたことに愕然とする。

こうして何とか歩けるのだから、外に出れるじゃないか。

一番身近にいるわたしが、ただでさえ狭き母の生活圏を更に狭めてどうする。

自分の感度の鈍りに憤りを感じる。

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