「正倉院のしごと」(西川明彦、中央公論新社)
読了日: 2024/4/25
正倉院については教科書レベルでしか知らなかった(今秋の正倉院展に行かねならない。いまだに行ったことがない…)。
本書は、正倉院の全貌または、宝物、御物(収蔵品)を紹介する趣旨のものではなく、そこで行われる”しごと”(いわゆるバックヤード的なしごと)に焦点を当てている。著者は長年にわたり当該業務に携わってきた方です。
正倉院とは主に収蔵宝物の保守・管理・調査を行う組織(ところ)で、公開を担う部門はないらしい。「正倉院展」は奈良国立博物館が展示、運営などを担い、宮内庁正倉院事務所は宝物を担当学芸員に引き渡すまでを担う。
1200年以上経っているため劣化との相談が主務になっているようだ(絹は一般に800年で自然分解するとのこと...!)。辛櫃(からびつ)に収められた写真が掲載せている(p.92 図39)。クズクズになっている…。これらの仕事は想像しきれない。
「正倉院展」など公開(ほかは皇室の慶事にあわせて東京国立博物館で公開されることがまれにある)に耐えうる宝物は一部で、染織品では塵芥(クズクズ)しているものも結構あるそうだ。ゆえに輸送などもってのほかだることが本書からよくわかる。(現代での)最善を尽くした保存環境でも劣化していくのだから、展示どころではない。
染織品がこれほど長期間保存されている例はほかにはないらしい。また、ガラス品の古物はほとんどが発掘によって入手されたもので、地中で変質したものが殆どだと、何かのテレビ(または書物)で見聞きした記憶がある。
たまに見聞きするのは、美術館とは作品を広く一般に公開することが(も)主だった役割ではないか、方や館運営側では文化庁のガイドラインを過大解釈して保存・研究するための施設で公開はオマケとの認識の隔たりがあるというものがある。(美術館、博物館の役割の区別はさておき)美術品の保存・研究 / 公開は大いに議論されるべきだが、正倉院とは後世への伝承のために保存を第一義に置くとする著者に共感する。
比較的短時間で読める新書で、内容も興味深くおススメできる1冊だと思います。