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そら豆は父の靴下のかほり
お酒を飲むようになって食の好みが変わった。
ビフォア飲兵衛時代は、納豆やチーズは香りが苦手であったし、トマトや漬けものの酸味、魚の肝や山菜の苦味、ピーマンや葉物の青々しさ、お豆など毛ほども興味を持てず、ごぼう等の根菜類の土臭さも不得意であった。
一体何を食べて暮らしていたのか。思えば牛丼ばっかり食べていた気がする。あとコンビニごはん。栄養が偏っていたのだなあと振り返る。
ところで肉ばかり食べていると体臭がキツくなるのは本当だろうか。だからモテなかったのだろうか。いや、開高健さんによれば体臭がなさすぎると異性としての魅力を感じられないこともあるとかないとか。
最終的に「食」も「性」も「臭み」の境地へと辿り着き、くさい関係こそ一つの到達地点であるとか、、、。
臭と美食と非モテの関係については趣向性も強くセンシティヴな問題なのでここではこれ以上触れないことにしよう。
さて、そんな僕の食生活はお酒の味を知るようになると、苦手なものが手のひらを返したようにどれも好物になった。チーズや漬物の発酵系の旨味、青々しい野菜たち清々しさ、魚の肝や山菜の苦味はいのちの力強さをしみじみと感じさせてくれる。命を食み、ありがたいと感じられるようになった。
「人生のフルコースを深く味わうためのいくつものスパイス」だなあ、と。朝からMr.Childrenを聴きながら(脳内iPodで)きゅうりを齧るのである。
先日のこと、新物の「そら豆」の塩茹でをいただいた。そら豆もお酒を飲み始めてから好きになった食べ物のひとつだ。まだ小ぶりで皮も柔らかいためそのまま皮ごとパクリといただける。実に旨い。
ふくよかな独特の香味が日本酒を誘う。塩がきちっと効いてるのがまた良い。(パルミジャーノなど削りかけた日には、シャンパーニュが止まらない。ぜひ試して欲しい。)
そして平らげた皿を眺めながら、亡き父の靴下について思いを巡らせるのである。