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医師が商店街の空き店舗に小さな図書館を作った理由。ケアをまわすエコシステム「だいかい文庫」とはなにか。


2020年12月、家庭医療専攻医である僕は、豊岡市の空き店舗に小さな図書館を作った。だいかい文庫と名付けた図書館は、おかげさまでオープン4ヶ月で400冊程度借りられている賑わう図書館となっている。

この図書館は、「シェア型図書館」である。市立や大学の図書館のような公立ではなく、民間のシェア型図書館だ。まちに暮らす人たちが一口2400円/月から共同出資し、一箱本棚オーナーとなり、自分のおすすめする本を図書館に置いて、交互にお店番をする仕組みである。現在、一箱本棚オーナーさんは50組を超えている。一個人、企業など多様な方に借りていただいている。うち15人程度の一箱本棚オーナーさんが交互にお店番をしている。

僕も週1回お店番をしている。一方でフルタイムで病院の総合診療科の医師として働いている。(まだまだ見習いの域だが、、、)

どうして医師がシェア型図書館を作るに至ったのか。図書館はどう活用されているのか。なぜ図書館は持続可能な形で続いているのか。オープン5ヶ月目の現状を等身大で書き綴りたいと思う。


●ケアとまちづくりの時代に

ケアの現状から、振り返ってみたいと思う。少子高齢化と言われて久しい日本社会。高齢化と医療技術の進歩により、これまで手術をしたり、入院すれば全回復していた病気が、治らなくなった。心不全や嚥下障害、生活習慣病は治すものではなく、付き合っていくものに変化していった。キュアからケアへ。治すから支えるへ医療の役割も変わりつつある。そうした時代において、地域で病気を持ちながらも暮らしている人たちをどう支えていくか。

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厚労省は行く先を提示している。ひとつが地域包括ケアシステム。これは病院から出て地域で暮らしていく人を住み慣れた地域で最期まで暮らせるように、医療介護生活支援等の観点からサービスを受けられるようにすることだ。

そして、そのより上位の位置付けとして、「地域共生社会」を示している。厚生労働省のページは以下のような記載がある。

地域共生社会は、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を指しています1)。

つまり、障害を持ったり、病気をもったりしていても、だれも支えたり支えられたりしながら、地域社会の中で生きがいを持って生きられる社会のことだ。地域共生社会の実現のためには、誰もが自分に合った「居場所」があり、そこで「役割」を持ち、「生きがい」を感じることができるようにする必要がある。例えば、孤独はタバコ15本分の死亡リスクという研究結果も出ている2)。居場所、役割、生きがいを持てるような場所を作っていくこともケアの役割になってきているのだ。

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一方で、過疎化が進行する地方では、空き家が増え、都市のスポンジ化が進んでいる3)。地方の駅前が空き店舗だらけ、山間部の集落の住民が減り限界集落化しているなどが具体的な例だ。スポンジのように行政サービスや人との関係性が空洞化していくのである。スポンジ化する地域では、医療や行政の公助、地域住民の互助が行き届かない事態がありうる。また人と人との関係性が疎になる恐れがあり、ますます孤立が進行する可能性がある。そういったスポンジ化する地域において、小規模多機能な場をつくる取り組みが広がっている。団地の空き部屋を団地住民が集う図書館にするなどの取り組みである。こういった取り組みの核を医療福祉とし、デザインやアートを組み合わせた小規模多機能な公共空間を作ることで、医療福祉のみならず、居場所づくりや役割づくりを含めたその人らしい暮らしを編み直すことができるはずだ。医療従事者がまちに出て、まちづくりを行っている人と共同し、小規模多機能な公共空間を作ることで地域共生的な居場所作りが可能となる。

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これが医療者がまちに出ていく意義であり、「ケアとまちづくり」の活動を継続的に行っていく意義だと思っている4)。


●一人しか来なかった健康教室から始まった僕らの第一歩

僕の出身地のお隣のまちであり、いまも僕のケアとまちづくり活動の拠点としている豊岡市。そんな豊岡市に関わりだしたのは2015年だった。まずは地域の課題と資源を見つけようと10人程度の医療系学生と地域診断をはじめた。フィールドワークやヒアリング、統計データから地域の健康課題を見つけ出す保健師が行っている手法である。そうして見つかった課題のひとつが、一部の住民が我慢して救急車を呼ぶのが遅れる傾向があるということであった。そこで、僕たち医療系学生が医療教室を行うと決めた。地元の新聞社に宣伝記事を書いてもらって、さぞや人がくるに違いないと思ったところ、参加者たったの一人だった。日曜日のお昼に正しい医療の情報を伝えようと思っても、来る人は限られていたのである。僕らは、健康の押し売りのようなことをしていたのだ。

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そういった挫折経験があり、僕らはまちに出ていこうと決めた。無関心層にリーチするために、医療機関を飛び出した。家庭医の孫大輔先生、密山要用先生(当時東京大学)がされているモバイル屋台de健康カフェの活動を豊岡市でもはじめた。医師が移動式屋台を引いてまち出ていき、コーヒーを片手にカジュアルに健康的な対話を行っていく活動である。本家が年に1回のお祭りに参加しリサーチを目的にしていたのに対し、豊岡では月に1回以上継続的に行ってきた。また、ナッジ理論(行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチ)に基づいて、より面白そう、楽しそう、美味しそうといった"YATAI CAFE"とカジュアルな名前に変え、多くの人の集客につなげた。コロナ禍で中断することはあったにせよ、4年以上同じ地域で屋台を引くことで見えてきた役割が多くあった。

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カジュアルに健康相談することができること、地域住民の井戸端会議の場になること、人と人をつなぐ拠点になること、医療者が地域と関わる学びの場になること、コーヒーを入れる役割が生まれること。といった多様な役割をもった小規模多機能な公共空間になっていたのだ。時に受診をおすすめしたり、誰か紹介したり、コミュニティを処方したりする場合もある。4年間の活動を通じて、YATAI CAFEは、様々な地域の人や場所とつながり、相談支援、社会参加支援、地域づくりをする場になっている。そういった取り組みが認められ、医療福祉の研究者や厚労省の方も視察に来ていただいている。(詳しくは以下のnoteに記載)

また、地域の映画館「豊岡劇場」と在宅医療に関するドキュメンタリー映画上映にあたって、人生会議(Advanced care planning)について考えるイベントを行った。いざというときに備えて、どこで最期を迎えたいのか、どういった医療を受けたいのか、みんなで考えるという会議だ。地域の拠点とともに企画運営することで、医療教室のときとは異なり、40名以上の参加者がいるイベントとなった。

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●いかに地域にケアを浸透させるか

そうして行ってきたYATAI CAFEの取り組みも限界を迎えてきた。やはり月に1回しかやっていないことで、とりこぼししている人たちがいるのではないかと思ったことだ。地域の多様なコミュニティとともに、多層的なネットワークを作ってきたものの、オープン時間という制約があった。YATAI CAFEはお金を介さないゆるい活動だからこそ、週何回もオープンすることはできない。

筆者が共同著者として書いた「ケアとまちづくり、ときどきアート4)」の中で、神奈川県川崎市で緩和ケア医で暮らしの保健室を営む西智弘先生は、地域住民を網羅的にカバーするには「行く、呼ぶ、在る」という3つの企画があるという。YATAI CAFEでまちに出て「行き」、地域の映画館とイベントをして人を「呼び」こんだ。次は、地域にあり続けるケアとの接点を作ろうと考えた。

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僕らは、まちの商店街の空き店舗を探し、そこに「在り」続ける場所を作ろうと考えた。これが、シェア型図書館、本と暮らしのあるところ だいかい文庫の始まりである。


●なぜ今回、本なのか。

"みんなが集まれる場所など存在しない"と僕は考えている。「誰もが集う場所」とうたう場所でも、なにかの軸で切り取られているからだ。医療教室は、”医療に関心がある人”という軸でくる人たちであるし、地域のコミュニティカフェは、"コミュ二ティでわいわいしたい人”もしくは”コミュニティの中心にいる人が好きで来ている人”という軸である。僕らの活動はどうか。YATAI CAFEは、コーヒーと移動式屋台という軸だった。移動式屋台という物珍しさとコーヒーというカジュアルな切り口で人が集まってきていた。そこにきている方と健康生成的な話をしていき、必要に応じて誰かを紹介したり、サービスにつなげたり、コミュニティを処方したりする。

今回、だいかい文庫は、「本」が切り口である。なぜ本にしたのか。東京都高円寺にある小杉湯の平松さんが、「銭湯は中距離コミュニケーションの場」と言っていた。銭湯は熱心に会話をする場所ではない。一方で、銭湯は、このくらいの時間に来ると常連の〇〇さんに出会って挨拶を交わすなぁとか、番台さんとお金を払う際にちょっと会話するとかそういう日常的な動線上にある人と関わる接点である。そういった近距離ではなくとも、誰かとのつながりを感じることができる場として、中距離コミュニケーションという言葉を使われた5)。これは、本屋や図書館といった本のある場所にも共通するのではないかと思った。司書さんとの何気ない会話、いつも同じ時間に本を読んでいる人の存在はまさしく中距離コミュニケーションなのではないかと思った。中距離コミュニケーションであれば、人との会話が苦手な人、イベントごとが苦手な人でもくることができるのではないかと思った。もしその司書さんが医療者で困りごとを相談できたら?たまたま来ていた人の関係性から自分のコミュニティを見つけられたら? そういう想いで本のある場を作ることとした。本の文化とケアの文化の間に、役割や居場所などの地域共生社会としてのケアとまちづくり活動があるのではないかと考えた。

そうしてやってきた方向けに、毎月数回、居場所の相談所を作った。医療福祉関係者が健康相談や居場所の相談にのる場所である。YATAI CAFEで培った地域とのつながりを生かしながら、人と人、人と場をつなげていく。

まちで暮らしている中で、家族を亡くして孤独だなと感じたり、同じ趣味の知り合いがいないと寂しく感じたり、こんなサポートが欲しいのにと思ったりすることがあると思います。居場所の相談所では、だいかい文庫に関わる医療福祉の専門家が健康相談や居場所に関する相談にのります。(だいかい文庫WEBサイトより)

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●だいかい文庫の仕組みについて

本と暮らしのあるところ だいかい文庫は、シェア型図書館である。この取り組みは、大阪市のみつばち古書部さん、武蔵野市のブックマンションさんなどのシェア型本屋の取り組みにアレンジを加えたもので、静岡県沼津市のみんなの図書館さんかくさんなどが行っている取り組みである。

一箱本棚オーナーとなる住民が月々定額の料金で本棚をレンタルし、本を並べ、利用者はその本を無料で借りることができるシェア型図書館システムである。お店番は交互に行っている。まただいかい文庫の場合は、地域に人文学系、福祉系の本を取り扱う本屋がなかったため、新刊書籍の販売を行っている。また深夜に空いているカフェもなかったため、営業許可をとっているYATAI CAFEでカフェ営業も行っている。一箱本棚オーナーについてはみんなの図書館さんかくさんのnoteに詳しく記載されている。さんかくの土肥潤也さんにはだいかい文庫の設立にあたってもご助言いただいた。

シェア型図書館がメインではあるものの、一部新刊書店でもあり、カフェでもあり、そして週2回の居場所の相談所を開いているというのが、本と暮らしのあるところ だいかい文庫である。

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●ケアの場で、お金をまわす仕組みを作る

福祉、医療の取り組みはその公益性から利益を生み出すことに抵抗感がある。「講演に謝礼があまり払われない」「いいことなんだから無償でノウハウを提供するべきだ」といったものだ。拝金主義にはしるのは、いかかがかと思うが、一方で持続可能な仕組みを作るためにもきちんとお金がまわるエコシステムは構築した方がいい。

暮らしの保健室の民間の相談スペースはまさに善意でまわされている例が少なくない。暮らしの保健室とは、医療施設や行政機関ではない場所に健康相談の窓口を作り、気軽に相談できる場所のことである。2011年に訪問看護ステーションを運営されていた看護師の秋山正子さんによって、新宿の団地の一階に作られたのがはじまりである。その後、地域ケアの高まりから、暮らしの保健室を設けるケースが増えたが、その運営資金は、本業である訪問看護ステーションの利益から補填されるケースも少なくない。また地域の医療者が集まって、ボランティアによって運営されているケースもある。

専門性を発揮する場合には金銭が発生するべきではないかという想いのもと、だいかい文庫では、シェア型図書館の司書、書店員としての役割をこなしつつ、居場所の相談員として相談業務に勤めるスタッフには、給与を発生させている。

だいかい文庫の利益の多くは一箱本棚オーナーさんからである。クラウドファンディング、リノベーションワークショップ、メディアの取材など、複数の入り口を設計し、オープン前にはオーナーさんが40組程度集まった。そのため、オープン前から、居場所の相談員を週2回ペースで雇っても回るような仕組みが作ることができた。

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地域の方々に声をかけ、行ったリノベーションワークショップは、コロナ禍のため、人数制限はしたものの、多くの方と一緒に行った。3週間のうち、高校生、医師、看護師、介護職員、住職さん、まちづくり関係者、医療系学生など多様な職種の人が、ケアと本の拠点づくりという場作りのために集まっていただいた。YATAI CAFEに来られる方もリノベーションワークショップに参加いただき、6年以上にわたる活動の結果がこんなところにも現れた。

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●オープン5ヶ月。なぜ持続可能なエコシステムなのか。

2020年12月にオープンしただいかい文庫は、オープンから5ヶ月で57棚の一箱本棚オーナーさん、122名以上の図書カード登録者、370冊以上の書籍の貸し出し160冊以上の新刊書籍の売り上げがある。居場所の相談所にも少しずつ相談が寄せられている。オープン日もオーナーさんの中でお店番をする方が徐々に増え、スタッフが開けている日と合わせて、4月は延べ25日もオープンしている。ふらっと入ってきてくれる方、instagram等をみてきてくれる方、本を借りに来る方、居場所の相談に来られる方がいる。

”本の文化の場であり、ケアの場でもある”

そんなだいかい文庫のコンセプトに合うような方々が来ている。順調なすべりだ。

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●表現する場としての一箱本棚オーナー

そんなだいかい文庫を持続可能な形にしている一箱本棚オーナーさんたちは、なぜ続けるのか。自分の本を誰かに読んでもらうという行為のために、2400円を毎月払ってくれている。ひとつはやはり表現をする場というのがあるのではないかと思う。これはみんなの図書館さんかくを運営するコミュニティファシリテーターの土肥潤也さんもnote内で言及している。シェア型図書館は表現の場なのである。ある人は、自分の趣味を知って欲しいとコケシと関連する本を並べる人がいる。ある人は自分の所属する企業と地域の人の接点を作りたいと自社に関連する本を並べている。お店は持てないけど自分が作った本を読んで欲しいと自作エッセイを並べる人もいる。みんな、なにか表現する場を求めている。お店を持っている人のみならず、行政職員や学校の先生、医療職など公の機関に所属している人が多いのも、大きなタグでは表現できない自分の気持ちや想いを、手触り感のある範囲でだれか共有したいという想いからなのではないかとオーナーさんと話していて感じることだ。

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●人との偶然の出会いがあるWell-beingな場

オープン2ヶ月時点でオーナーさんにアンケートを行った。オーナーになって良かったこととして、人との出会い、本との出会いが最も多かった。

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中距離コミュニケーションと上述したが、だいかい文庫のでの人との関わり方がグラデーションがある。じっくり相談したい人は居場所の相談所に来るし、気になるオーナーさんがお店番をしているときに少し話すこともできる。その場にいる人同士がまちや本の話を始めることもある。一方でただ入って、本を借りていくだけでもいい。そのグラデーションがだいかい文庫への関わりやすさにつながっているのではないか。関わりしろを増やすことで、本とケアに関心がある人が自分の心地よい関わり方でだいかい文庫に関わることができるのだ。

コロナ禍であり、アクティブなイベントはできない。それでもだいかい文庫に本を借りに来るという行為の途中で人と出会う。そんな日常生活の中での人との出会いがだいかい文庫で行われている。

また一箱本棚オーナー同士がすでにコミュニティになってきている。月額2400円払って、自分の本棚を持ち、お店番もする人たちである。もちろんマジョリティではない。本棚を通じた自己表現、本を通じたコミュニケーション、ちょっとしたパブリックやまちづくりへの意識など、一箱本棚オーナーさん同士に共通する部分は多い。小さい街でも出会わなかった人たちが一箱本棚オーナーを通じて、コミュニティになりつつある。彼らにとってのサードプレイスになりつつある。

アンケート結果にあるオーナーになってよかったこととして、誰かの役に立てている、自分を知ってもらえる、人との出会いなどは、Well-beingに通じている。Seligmanが提唱したwell-beingの構成要素6)として、PERMAがあげられる。

Positive emotion(ポジティブ感情)
 Engagement(没頭) 
 Relationship(関係性) 
 Meaning(生きる意味付け) 
 Accomplishment(達成感)

だいかい文庫で本棚を作ることに没頭し、人と出会い関係性を築き、達成感に綱がう。それが誰かの役に立てるという意味付けがされるという一箱本棚オーナーの一連の行為はwell-beingにつながっているのではないかと思う。


●そして、社会的処方がはじまる場へ

病気を持っていたり、障害を持っていたり、なにか孤独感や生きづらさを抱えていたりする人もだいかい文庫に訪れている。そこで誰かと出会ったり、背中を押してくれる本に出会ったり、誰かと話したりする中で、回復している人たちがいる。医療福祉関係者が運営している安心感もあるのだろう。他の地域の場よりもなにか生きづらさを抱えている人が多いように思う。

その中から本当に困っている人は、居場所の相談所を訪ねてくる。公的な支援があるのにつながれていない人もいるし、カジュアルにコミュニティの相談に来る人もいる。相談所でもあり図書館でもあるという空間で、相談員でもあり司書でもある人とお話しするという少し曖昧な関係性から始まるからこそ、そこに訪れてくれている人もいるのだと思う。

もちろん公的な支援やサービスにつながっていない人はまずはつなげるところからだ。多くの公的支援やサービス、行政が支援する自助コミュニティも存在する。ただそこに音楽好きな人には音楽サークルを、芸術が好きな人には芸術教室を、本が好きな人は読書会を紹介する。そういったインフォーマルなコミュニティを紹介するケアとまちの中間領域的なよさがだいかい文庫にはある。それは、コミュニティを処方するイギリスの社会的処方のリンクワーカーの役割ともいえる。だいかい文庫の一箱本棚オーナーさんやYATAI CAFEやイベントでお世話になった人々が居場所に悩む人の処方先になりうる。医療機関が起点になるのはあくまでもイギリスの話。医師以外もコミュニティを処方する形があってもいいのではないだろうか。医療機関を受診するのは抵抗感があっても、「本屋なら行ける」「映画館なら行ける」という人もいるだろう。そんなだいかい文庫を起点として、地域全体のステークホルダーを巻き込んだ社会的処方のモデルを作っていければいいと思っている。

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●まちに飛び出していく医療福祉関係者へ

シェア型図書館の運営までしなくても、屋台を引いてまちに飛び出すだけでもいい、自分の家の前にベンチを置いてみて座った人と話してみるのもいい。そういった医師ー患者関係ではない関係性から始まる地域ケアの形があるのではないろうか。地域共生社会の一助として、まちへ飛び出し、小規模多機能な公共空間を作ったり、手伝ったりする人が増えていくと少しずつ社会はよくなっていくのではないかと考えている。まちへ飛び出す医療従事者の皆さんには、西智弘先生と藤岡聡子さんと書いたこちらの弊書がはじめの一歩としておすすめ。少し高いですが、読んでみて欲しい。寺山修司は、「書を捨てよ町へ出よう」と言った。今回は、この書を持って、街に出てみてほしい。


●だいかい文庫との関わり方

ここまで読んでいただいて、だいかい文庫に関わってみたいと思った方へ。

オーナーになる
だいかい文庫では、現在、一箱本棚オーナーを募集しています。本棚については、現在ほぼいっぱいの状況ではありますが、角の本箱はまだいくつか空きがあります。それでもよければ、以下のサイトよりお申し込みいただければ幸いです。

寄付する
皆様からの寄付があれば、よりだいかい文庫の活動から発展させ、社会的処方の実現のため、活動できると考えています。遠方で本棚は設置できないけど、僕たちに近いところでだいかい文庫の発展を見届けたいという想いを持っていただいている方と仲間になって、ケアするまちを一緒に作っていければ嬉しいです。よろしくお願いします。

視察する
本と暮らしのあるところだいかい文庫では、視察対応を受け入れています。3名以上で1人3000円で承っております。運営方法やケアとの接点の作り方、関わり方等を含めて、お話ししておりますので、ご希望の方は日時を明記の上、info@carekura.comまでご連絡ください。


●参考文献

1)厚生労働省.地域共生社会のポータルサイト.2021-04.URL<https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/>
2)Julianna Holt-Luntad et al. Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review.Plos medicine.2010
3)饗庭伸.都市をたたむ.花伝社.2015
4)西智弘.守本陽一.藤岡聡子.ケアとまちづくりときどきアート.中外医学社.2020
5)加藤優一.平松佑介.街の銭湯からこれからの「ご近所」について考える.遅いインターネット
6)Seligman, M. E. P. Flourish. New York, NY: Simon & Schuster.2011


守本陽一
一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事
公立豊岡病院組合立出石医療センター総合診療科医員
1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。家庭医。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、シェア型図書館、本と暮らしのあるところだいかい文庫をオープンし、運営している。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)」「社会的処方(学芸出版社)」など。

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