『くさのねフェスの灯りを消さない』ライブレポート
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9月9日。本来であれば、千葉県佐倉市、草ぶえの丘で『くさのねフェス』が開催されるはずだった。運営陣は台風の影響で開催判断を強いられ、前日のお昼というギリギリの状況まで、粘って、悩んで、最後まで開催を信じて準備していた。無情にも台風の威力は避難要請が出るほど強く、断腸の思いで中止の決断を下した。
くさのねフェスへ来場予定だった人、出演予定のアーティスト、実行委員やボランティアスタッフ、多くの人がこのフェスの中止をとても悲しんでいた。
そんな状況下でも”何かしたい!”という想いから、くさのねフェスティバル実行委員会会長である、シラハタ ノブユキさん(以下、シラハタさん)が店長を務めるSound Stream Sakura(以下、サンスト)にて、6バンドによるライブイベント『くさのねフェスの灯りを消さない』が急遽開催されることになった。
今まで何度か訪れたことのある、サンストだが、その中でも最も多くの観客がライブハウスに入っていたと思う。急な開催にも関わらず、協力する人がたくさんいること、足を運ぶ人が多いことからも、『くさのねフェス』がどれだけ愛されているかが伝わってくる。
自分もクラウドファンディングに参加して開催を心待ちにしていた観客の一人。今日を何もない日にしないでくれたことを覚えておきたくて、くさのねフェスへの想いを込めて、この記事を書きたいと思った。
※9月16日23時59分まで、『くさのねフェスの灯りを消さない』のライブ配信チケットが買えます!!!!!なんと贅沢な内容にもかかわらず、500円です・・・(なんで)映像や音質のクオリティも高品質ですので、ぜひ!!
may in film BANDSET
落ち着いたブルーの照明の中、バンドメンバーに続いて、may in filmの冬野ななせ、伊波すい、小槙しゅか、成瀬まい の4名が登場。"may in filmはじめます。"の一言から始まったライブは、身体を大きく使ったダンスや隊列移動で迫力満点。貴重なバンドセットによる生演奏も加わって、さらに熱量がダイレクトに伝わる。その勢いに呼応するように、観客も、振り付けや手拍子、ペンライトなど自由に楽しんでいた。MCでは”バンドに囲まれて緊張している”と語っていたが、終始堂々たるパフォーマンス。「エンディング・ストーリー」の曲中で、”フェスは中心になっちゃったけど、この佐倉の地でライブができてmay in filmは幸せです!アイドルだって音楽への熱い気持ちは変わりません!”と、くさのねフェスと音楽への愛を叫び、ラストの「スペクタクル」まで勢いよく駆け抜け、トップバッターとして充分すぎるほどの役目を果たした。
may in film セットリスト
01.ファンファーレ
02.エソラ
03.ノンフィクション
04.エンディング・ストーリー
05.スペクタクル
KAKASHI
”中止が発表されて、悲しかったり、何とも言えない気持ちになったり、そういうの全部今日は俺たちが引き受けます!”という堀越颯太(Gt,Vo )の頼もしいMCから「本当の事」でライブスタート。イントロでは、斎藤雅弘(Gt,Cho)と中屋敷智裕(Ba,Cho)がステージ前方で頭を振りながら演奏し、歌い始めから観客のクラップが鳴り響き、サビでも多くの観客の拳が突き上げられた。この爆発力、KAKASHIが今日このステージに立ってくれて良かったと誰もが思っただろう。だが、”今日は自分から連絡したんじゃなくて、声をかけてもらった”と、ものすごく正直に、今日の出演のいきさつを語るところが、人間味があって、泥臭くて、KAKASHIらしい。繊細かつ力強い関佑介(Dr,Cho)のドラムから始められた、6曲目の「られる」では、<どうしようもなくなったなら/抱きしめた誰かが/抱きしめてくれる>と歌った後、”今日がまさにそう!”と一言添えていた。お互い支え合っていくことの大切さが詰まったこの歌は、今日を楽しみにしていた全員の胸に深く響いただろう。バンドが大変な状況の時に救ってくれたシラハタさんの言葉を借りて、”なんとかすることで、なんとかなるなら、がんばろうぜ!”とフロアに叫ぶ熱意に魂を揺さぶられる。気持ちのこもった一声から放たれた「違うんじゃないか」から続けて、ラストの「ドラマチック」では、来場していたメメタァのサンライズ太陽をステージに呼ぶ場面もあり、情熱的な演奏と歌に、観客も両手を上げ、会場のテンションは最高潮をみせた。KAKASHIがいれば、なんだか大丈夫だと思える、心に勇気をもらえる30分間だった。
KAKASHI セットリスト
01.本当の事
02.やめろよ
03.エターナルフォースブリザード
04.グッドバイ
05.ドブネズミ
06.られる
07.違うんじゃないか
08.ドラマチック
toybee
ロックなバンド演奏に合わせて、冨塚大地(Gt,Vo)が、くさのねフェスのTシャツを着て登場。”やれるか、くさのねー!”登場するなり非常に高いテンションで観客へ呼びかけ、会場を盛り上げる。2曲目の「Super Imagination」に入る前のMCで”ここには空があり!丘があり!みんながいる!”と言ったり、曲中でも”まるでここは草ぶえの丘さ”と歌詞を変えたりと、ポジティブな言葉とごきげんなミュージック、そして富塚の伸びやかな歌声によって明るい空気を作り上げていく。鍔本淳(Gt)の惚れ惚れするような音色のギターソロは、虹色の照明も相まって、さらに明るいムードに華を添えた。曲の中盤では、メンバ紹介も兼ねたソロ回しがあり、藤盛太一(Ba)の一瞬の軽快な指弾きが光っていた。実は、Red Gymという一番大きなステージに出ることへの強い想いを持っていたtoybee。”くさのねフェスができなかった今日を、黒歴史にするんじゃなくて、真っ黒を背負ったまま、伝説を作るための夜にしたい。一緒に泥まみれのまま進みませんか!真っ黒のまま行こうぜ!「Teenage Black」!”堪らなく悔しい気持ちを抱えながらも、未来を向いている姿はかっこいい。最後は、来年また必ず会えるようにという想いを込めた「それゆけ!夢みるゾンビーズ!!」のパワフルなパフォーマンスで幕を閉じた。
toybee セットリスト
01.惑星ダブリス
02.Super Imagination
03.ワンタイムラヴァー
04.Teenage Black
05.それゆけ!夢みるゾンビーズ!!
Varrentia
偶然にも今日がバンドの2歳の誕生日というVarrentia。壮大な広がりを感じるサウンドの「Dead End Holy Land」「RAINBOW'S END」を2曲続けて披露し、序盤からVarrentiaの世界へ観客を誘う。”当日の以前を今日は全部前夜祭って呼ぶことにしてさ。今日はくさのねフェス2024の前夜祭だろ。それでいいよなぁ!” 今日を来年の前夜祭にしてしまう渡井翔汰の斬新なアイデアにくよくよした気持ちが晴れていった。Varrentiaという物語のはじまりの歌「NEW DAWN」では、切ない感情の込められた渡井の歌声と、サポートメンバーによって激しく奏でられる音が融合し、その気迫に圧倒された。終盤のMCでは、新たなバンドを始めてから2年間、人が怖いと思ってしまう中でも、まっすぐ今の自分と向き合ってくれたとシラハタさんへの感謝を告げた。”シラハタさんからもらった灯りをあんたに分けてやりたいんだ。”5曲目の「オルター」は、<世界や誰かではなくて/君自身を生きられますように>と一人ひとりのお守りになるように、渡井の優しく願いを込めるような歌で届けられた。最後は、かなり雰囲気を変えて、アップテンポでロックなナンバーの「SPACE BOY MEET GIRL」を投下。アウトロで渡井は、ステージ上に寝転んでギターをかき鳴らし、全てを出し切っているようだった(眼鏡が飛んで行ってしまった模様)。次のくさのねフェスへの物語のはじまりを告げるVarrentiaのライブは、忘れられない時間となった。
Varrentia セットリスト
01.Dead End Holy Land
02.RAINBOW'S END
03.NEWDAWN
04.失楽園
05.オルター
06.SPACE BOY MEET GIRL
Organic Call
“今日出れなかったバンドもいると思う。でも、そいつらに申し訳ないなんて思ってやるライブなんてない!俺たちは今日選んでここに来た。東京都Organic Callです。よろしく!”ヒラタナオヤ(Gt,Vo)による攻めの姿勢のMCに、一曲目の「ハッピーエンドロール」から観客の手拍子やシンガロングも起こり、一体感が生まれている。勢いそのままに、疾走感のあるイントロから「愛おしき日々たちへ」になだれ込んだ。平田はギターを頭上に掲げ、前方に身を乗り出し、カワカミトモキ(Gt)もその勢いに負けじと、高速なギターを繰り出す。さらに、先日9月1日に正規加入が発表されたタカハシシモン(Ba)による深みのある音色のベースも追加され、超絶爆音のロックな「愛おしき日々たちへ」でさらに会場のボルテージは高まった。佐倉市どころか千葉出身のメンバーすらいない中でも、4回目の出場でようやくRed Gymステージのトリ前を任せてもらえることになった感謝を伝え、"うまくいくことばかりじゃない。分かっている。でも好きなもののためなら、好きな場所のためなら、俺たちはがんばれる。胸張ってかっこいいロックバンドだって言える!サンストが、くさのねフェスが、俺たちを選んでくれたならば!その愛、100パーセント以上、音楽で返しにきた!"というヒラタの魂こもったMCにグッと心を掴まれた。ラストは「最後の愛」「スターライト」の2曲の熱演で締めくくり、Organic Callからシラハタさん、サンスト、くさのねフェスへの強い愛を感じるステージだった。
Organic Call セットリスト
01.ハッピーエンドロール
02.愛おしき日々たちへ
03.Blue
04.Night Forever
05.最後の愛
06.スターライト
明くる夜の羊
”今日一日最高の日でしたね。私も私らしく、あなたにまっすぐ歌って帰ります!”カワノユイ(Gt,Vo)のMCから始まったのは、その言葉にぴったりの伝えたい、歌いたいという気持ちが詰まった「ロンリーナイト」。間髪入れずに、「リプレイ」と、アップテンポな曲を立て続けに届けていく。序盤から、ナツキ(Ba)とクラシマヒロミチ(Gt)が、ジャンプやヘドバンをしながら演奏し、観客も手を挙げ、笑顔で飛び跳ねていて、全員が心からライブを楽しんでいると確信できる光景が広がっていた。これまでの出演者と同じように、カワノもシラハタさんにお世話になったエピソードを語り、”ずっと自分が嫌いんだったけど、そうやって優しさをもらって、だから自分を伝えようって音楽ができてるんだと思う。あとは曲で、自分のありのままを伝えます。”カワノがポツポツとギターを弾き、儚い歌声で「主人公になれなかった」を届ける。最初は、少し不安げな歌い方だが、曲の終わりに近づくにつれ、カワノの芯のある力強い歌声にノグチアユム(Dr)の美しいコーラスが加わり、エールを送ってもらっているような気持ちになった。ラストを飾る曲は”この日、この時間に歌うための曲だと思った。”と本人も言っていたように、くさのねフェスの灯を消さない決意の日にぴったりの「燈した先に」。より想いを込めた熱い歌と4人の演奏に、目頭が熱くなる。<報われるその日まで/その涙が零れても/手を取っていこう/歌が燈したその先に>最後はカワノの先導で、観客が美しい"拳の花火"を打ち上げた。来年はきっと、明くる夜の羊の音楽に導かれて、1日の最後に、草ぶえの丘の夜空に大きな花火が打ちあがっていることだろう。
明くる夜の羊 セットリスト
01.ロンリーナイト
02.リプレイ
03.光の方へ
04.あの日の僕ら
05.主人公になれなかった
06.燈した先に
encore
07.春でまた、
シラハタさんのあいさつ
登場するなりBGMを止めて何をするかと思えば、花火の音を流すお茶目な様子からも人柄が伝わってくる。お知らせがギリギリになってしまったことへの謝罪やくさのねフェスがどうやって作られているフェスなのか、今回の中止判断の生々しい現場の様子など、リアルな言葉で語ってくれた。
”地元の出演者に力を借りたり、本当に草の根っていう。そこに意味を掛け合わせたわけではないけれど・・・”
”ステージが出来上がって、中止になって、30秒後にはバラシ始めるっていう、見たことのない光景が広がっていて・・・”
”来年またお会い出来たらと思いますし、僕は逃げる気全くありませんので、ついてきてください。”
コメントはぜひ、生の声を聴いてほしいので一部に留めておくが、『くさのねフェス』のことがもっと好きになると思うので、ぜひ、配信を観てほしい。
最後は本番用に、シラハタさんが精魂込めて作ったアナウンスを聴きながら、のお別れとなった。シャトルバスの案内に笑いが起きた様子からも、今日のサンストが非常にあたたかい空間となっていることがはっきりと分かる。
ここから1年、ライブハウス、職場、学校、それぞれの場所でがんばって、日々を過ごしたその先で。あの特別な「草ぶえの丘」でまた会えますように。
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