見出し画像

「針の上で歌う」(著:南口綾瀬)を読んで・・・

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これは、特定の場面や状況で話すことが極端に難しくなる症状のことです。不安障害の一種とも言われており、意図的な行動ではありません。例えば、家では普通に家族と話せるのに、学校や公共の場では全く話せなくなる、といった状況が代表的なのだそう。

南口綾瀬さんの「針の上で歌う」は、この「場面緘黙症」を抱えた高校生アヤの物語。

「音なんてなくなればいい。そうすれば私は誰の目にも止まらない、空気みたいな存在になれるのに」

「針の上で歌う: 場面緘黙症の女の子の成長物語」, 南口 綾瀬, 一般社団法人日本電子書籍技術普及協会, 2021年

ストーリーをちょこっと紹介

※ここでは、本書のストーリーに触れています。内容を読みたくない方は次の見出しにスキップしてください。

―――――――

物語は、前述した場面緘黙症を抱えた高校生アヤが一人でカラオケボックスに入り、ネットにアップするための動画を撮ろうとするシーンからはじまります。

「AYAです。私の声を聴いてください」

「針の上で歌う: 場面緘黙症の女の子の成長物語」, 南口 綾瀬, 一般社団法人日本電子書籍技術普及協会, 2021年

顔出しはしないもののオリジナル曲「キンモクセイ」を、キーボード演奏にのせながら歌っている動画録画しネットで配信します。

小さい頃から場面緘黙症で、ただその日その日、その場面その場面を乗り切ることで精一杯だった小学校・中学校時代を送ってきたアヤ。

場面緘黙症を抱えながら、不安、孤独、時に現れる小さな希望、友情、恋、家族と彼女の過去を取り巻いてきたいろいろな出来事や思い出に思いを馳せながら、アヤは静かに歩きはじめていきます。

場面緘黙症を抱える自分だけが自立できていないと思っていたアヤですが、彼女の周りの人たちも、状況や立場は違えど自立するために実は迷ったり、苦しんだり、悩んだり、壁にぶちあったっていることを少しずつ理解しはじめます。

いま困難に立ち向かい、克服しようとしている人や、そんな物語を読んで勇気をもらいたい人におすすめです。

幼馴染のエリナちゃん

本書ではじめて「場面緘黙症」という言葉を知った私は、幼馴染のことを思い出しました。

彼女の名前はエリナちゃん(仮名)。

私とエリナちゃんは同じ団地に住んでいて、幼稚園に入園する前から気がついたら友達でした。いつも仲良く遊んでいたのですが、エリナちゃんの様子に変化が見られたのは幼稚園入園時。まさに物語のアヤと同じだったのではないかと、今思えば感じます。

エリナちゃんは幼稚園の前まで来ると石のように固まってしまい、動けなくなります。エリナちゃんのママや先生たちが引っ張って園に入れるも、全く言葉を発しませんでした。

園が終わってプライベートの空間になると、いつも私の家へ「遊ぼ!」とやってきて普通に遊べます。公園で遊んだり砂場で遊んだり、時には秘密基地を作ったり、お絵かきや塗り絵をしたりと他の子と同じような遊びを他のこと同じようにし、私にとってはエリナちゃんが「人と変わっている」とは全く感じませんでした。

私の親は「エリナちゃんのお母さんは大変ね」と言うことがありました。その度に私は「エリナちゃんは幼稚園ではママと離れて寂しいか、緊張しているだけなんだ」と思っていました。

小学校へ入学してもエリナちゃんの学校での様子は幼稚園の時と変わらず。時に先生たちが違うクラスの私の元へやってきて「エリナちゃんが動かないから、一緒に運動場へ歩いてくれない?」と頼まれることもありました。私が「エリナちゃん、運動場行こ?」と手を繋いで歩き始めると、エリナちゃんは言葉を発さないけれど、ゆっくりと私と歩きはじめます。

エリナちゃんは小学2年の時に他県に引っ越してしまったけれど、もし多くの人が場面緘黙症について知っていたら。より多くの人が「こういう子もいるんだ」と理解し違いを受け入れることができていたら、あの頃のエリナちゃんはもっと彼女らしく子供時代を送ることができていたのかも・・・なんて思いながら、この本を読みました。

誰かを受け入れ、寄り添えるきっかけになる一冊

作者の南口綾瀬さんは自身も場面緘黙症であることを公表しています。
作者の体験に基づいているせいか、作品の中で声を出せない苦しみを抱えるアヤの心は具体的で鮮明な表現で書かれていて、その苦しみや葛藤、不安、孤独感がかなり現実味を帯びています。

ダイバーシティ・インクルージョンが進むいまの時代は場面緘黙症も個性で済まされるかもしれません。個性として受け入れるその姿勢も大切だと思うのですが、そこからまた一歩進んで、そんな苦しんでいる人がいることを知り、思いやりの心を持って接することもとても大切なんだと感じました。そうすることで、苦しんでいる人の心を支える一助になる気がします。

また個人的には思春期の子どもの葛藤や苦しみなんかも感じ、子どもを持つ親目線でも「子どもの心に寄り添う」「苦しんでいる子どもにどう寄り添うべきなのか」なんてことを考えさせられました。

また本書は現在 Prime Reading で無料!プライム会員だったらKindleアプリから無料で読むことができます。(他にも配送特典・Prime Reading対象の書籍が読み放題・Prime Video対象の動画が見放題とたくさんの特典付き。)

※Amazonのアソシエイトとして、みっちー:Webライターは適格販売により収入を得ています。

この記事が参加している募集