マガジンのカバー画像

小説

45
小説
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

習作 #1

私は海を眺めながら、生活について考えていた。海に行けば現実から逃れられると思ったが、むし…

やぐま
1年前
2

習作 #2

画家というのは職業ではない。銀行が金を貸したがらない仕事を私は職業だとは思わない。では何…

やぐま
1年前

習作 #3

湯船に浸かって天井を見る。夏のあたたまった身体の中にも冷えはあって、はいの底から空気の塊…

やぐま
1年前

習作 #4

平和は貧乏くさい。物語で描かれる戦争は決まって夏で、タンクトップに坊主頭の少年が木造家屋…

やぐま
1年前
1

習作 #5

戦争体験が忘れられていく程度で価値が見失われていくのであれば、平和など大した価値もないだ…

やぐま
1年前
1

習作 #6

後者の前を通る道路は交通量が多く、敷地に沿って曲がる緩やかなカーブからは常に騒音が届く。…

やぐま
1年前
1

習作 #7

美術室は校舎の中庭に面していて、一日の半分以上は日陰に甘んじる位置にある。窓のある壁には大型のシンクが設置されていて、乾かしたバケツや筆が雑然と置かれていた。窓から吹き込んだ風が室内を周り、排水の匂いを室内に広げる。 室内には4人掛けの机の「島」が12個配置されていて、下には真四角の椅子が収められている。机の表面はペンやカッターで傷ついていて、目を凝らすと相合傘や先生の名前といった、中傷ともいえない鉛筆跡が浮かんでくる。 黒板の隣にある扉は6畳ほどの小さな部屋に繋がる。「

習作 #8

文学や、それに隣接する例えば批評や哲学の界隈というのは、言葉を厳格に、弾力的に、しなやか…

やぐま
1年前
1

習作 #9

太っているというのはあくまで比較によって決まる相対的な状態であって、絶対的に自分自身が太…

やぐま
1年前
1

習作 #10

近頃、見ず知らずの人間に注意されることが増えた。相手は決まって50〜60代の男性で、どちらか…

やぐま
1年前
3

習作 #11

酒を飲んで、我を失うほど酔って、理性を失い、身体に力が入らなくなって、裸にされ、軽蔑され…

やぐま
1年前
2

習作 #12

何を言っても響かない目の前の男を正論できりきり追い込みながら、今ここで彼が自殺すれば私の…

やぐま
1年前
1

習作 #13

無人島に行くために、男は死んだ。生きたまま行けば、島は無人島ではなくなる。だから男は人間…

やぐま
1年前
1

習作 #14

無人島に行くために私は死んだ。生きたままで行けば島は無人島ではなくなる。だから私は人間であることを辞めた。もしくは、人間を辞めたから、無人島を目指したのかもしれない。 中途半端な仕事を片付けて、引き継ぎのためメモをPCに保存した。冷蔵庫の食材を食べ切り、定期購読の契約を一覧にまとめた。二軍の服と粗大ゴミを処分し、部屋中をひと通り拭いた。新しい洋服を着て、トラに食べられて死んだ。 葬式は全然人が来なくて恥ずかしかった。母は気を利かせてLINEの履歴に上から連絡をしていってく