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目標となる人

前回紹介した『おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係』について他にも参考になることがたくさんあったので、もう少し話をさせてください。

回のコラムで、本書の主張のひとつとして「顧客努力は足し算の時代から引き算の時代へと突入している」という指摘があることを説明しました。

実はこれ、現場スタッフに対しても同様で、現場担当者がしなさいと命じられることを増やすのではなく、減らすことによって本当にお客様が求めていることに集中できると言い換えることもできます。

*★*

お客様はお店なり商品を選ぶさいに、情報を手がかりとしています。

しかし、たとえ自分のほしいもの(目的)が決まっていたとしても、目の前に障害物があるとなかなかアクセスできず苦労しますよね。

そんな困っているお客様に対してあなたなら何をしてあげますか?

正解ルート(目的)に向かう情報を増やしたり、直接出向いて案内したりしますか?

それはひとつの解決方法ですし実行すれば一定の成果があがるでしょう。

たしかに目の前に困ったお客様がいればすぐさま駆けつけるべきです。

でもそれをずっと続けられる余裕はありますか?

お客様を目的地まで丁重にエスコートするためには、案内係を配置するよりも障害物を減らしたほうがより有益なのではないでしょうか。

この場合、お客様が自力で容易に正解(目的)にたどり着くルートを作ってあげること、そしてそれを直感的に理解できるレベルまでもっていくことが最適解だとわたしは思います。

曲がりくねったアマゾン川を上流から下流に向かうよりもストレートなナイル川をそうするほうがずっと楽なのです。

「このまままっすぐ進んでください」という看板がひとつあれば済みますからね。

お客様の目線に立って体脂肪率が低い筋肉質な環境を作りましょう。

余計な情報(贅肉)を削ぎ落とせばおのずと重要な情報(筋肉)が際立ってきます。

さらに筋肉の質(分かりやすさ、検索しやすさ、比較しやすさ、信頼感)を上げればよりスマートな体制が完成する。

目的をはっきりさせ、そこに向けた最短ルートを実践する。

お客様の求めていないルートを混ぜ込まず、それを削除するのです。

*★*

人手不足が社会問題となっている昨今、現場スタッフの教育に心を砕いている方は多いことでしょう。

・教える時間を捻出することができない。
・教えなければならない決まりごとが多い。
・何度教えても覚えてくれない。
・教える(学ぶ)教材がない。
・ルールがコロコロ変わって複雑化している。
・伝えた、いや聞いてない、の応酬

などなど、要因はいくらでも思いつきますね。

だいたい東京ドーム3つ分くらいでしょうか。

贅肉を落とすこと、できませんか?

筋肉をつける努力と贅肉を落とす努力では圧倒的に贅肉を落とす方がラクです。贅肉は単純な計算だけで落とせます。

覚悟さえあれば。

難しい順番で並べると「筋肉をつける>贅肉を落とす>贅肉をつける」。

左の方ほど頭を使いますし時間がかかるから思考放棄しているひとほどごく自然に贅肉をつける道を選ぶのです。

目的がはっきりしていなかったり、時代の流れに無頓着だと余計なものまで過剰に摂取してしまいます。

10年前に作った「新しい取り決め」や「最先端の技術」は果たして現在の価値観と照らし合わせても正解(筋肉)なのか、それとも足を引っ張る贅肉なのか。しっかり健康診断したほうがよいでしょう。

*★*

ではどうやったら従業員の努力を減らしベストパフォーマンスを出力できるようになるのか。

これに対し『おもてなし幻想』の著者は次のように述べています。

”努力軽減のパイロット計画を立ててそれに着手するうえで、あなたの組織が最優先にするべきことがたったひとつしかないとしたら、それはコーチングでなければならない。”

これは従業員教育における重要要素「トレーニング」と「コーチング」の比較において明示された一文です。

トレーニング=きちんと計画された一対大勢の指導。研修や授業など。
コーチング=成果管理型の指導方法。上司やメンターによる直接的な個人教育。

トレーニングを重視しすぎる企業は成果の低い担当者が多くなる傾向があり、逆にコーチングを重視している企業はスタッフの成果が高くなる傾向があります。

トレーニングはあくまで新しいアイデアや新しいサービスアプローチを短期的に理解させるための手段であり、コーチングとはトレーニングで学んだことを現場実践を通じで定着させていくものなので後者に集中することこそが従業員の努力を減らす最短距離です。

またコーチングには2つのタイプがあり、どちらを選ぶかによってこれまた成果が異なってきます。

1つは「計画的なコーチング」で、ほとんどのコーチングはこれに該当します。「計画的なコーチング」とは予定された時間に担当者と監督者が参加し、成果について話し合い改善策を講じる、というものです。このコーチングはあまり有益ではありません。ほぼ例外なく、本質的には能力開発というより罰則的な特徴があるからです。

定期ミーティングみたいな反省会的イメージですかね。

一方でもう一つのタイプのコーチングである「総合的なコーチング」は成果を著しく引き上げます。これは改善を目指す具体的な顧客の状況を想定して設計されたもので、OJT(On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で実施される二人三脚的な手法です。本当に優れた監督者は75%を総合的コーチング、残りの25%を計画的なコーチングに充てているそうです。

これらの研究結果を踏まえると、最も効果が大きい教育方法は「身近に目標となる人物がいる」ことに他ならないのではないかとわたしは思います。教科書が目の前に開かれていて、現場担当者はその人のマネをしながら学び、監督者は常に身近に寄り添いながらタイムリーに改善策を講じ続ける。

こう書き連ねながら、私自身は果たして「目標となる人物」足りえているのかと考えあぐねてしまいます。目標となる人物像って、輝いている人、注目されている人、成果を上げている人、ってイメージがありますもんね。自分が教えられる側であれば、そういった人に教えてもらった方が嬉しいです。きっとみんなそうでしょう。

でも同時に、あまり理想を高く持ちすぎるのもいかがなものかとも思います。

同じ目的や目標を持った仲間のうちでちょっと前を進んでいる人がすぐ後ろの人に手を差し伸べ、後ろの人がその手をしっかり握って、と手をつないでいけばチームワークが高まっておのずパフォーマンスが上がっていくのは容易にイメージできるからです。

コーチングとひとことにいっても様々な意味があります。

興味がある方は検索してみてください

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