日和ちゃんのお願いは絶対
岬鷲宮×堀泉インコ 電撃文庫
概要(電撃文庫公式サイトから引用)
まるで、世界が終わりたがっているみたい――それは。最後の恋物語。「――わたしのお願いは、絶対なの」
どんな「お願い」でも叶えられる葉群日和。始まるはずじゃなかった彼女との恋は、俺の人生を、世界すべてを、決定的に変えていく――。
ほんわかしていて、かわいくて、どこかちょっと流されがちで。
それなのに、聞いてしまえば誰も逆らう気になどなれない「お願い」の力を持つ日和と、ただの一般人なのにその運命に付き添うことになってしまった俺。
「――でも、もう忘れてください」
世界なんて案外簡単に壊れてしまうのに、俺たちの恋だけが、どうしても終わってくれない――。
これは終われないセカイの、もしかして、最後の恋物語。
ネタバレあり
感想
本作はライトノベルでありながら、
新型コロナウイルスや台湾問題、日本の外交問題など、
現実世界の生々しい世界情勢がしっかりと作品の中心に盛り込まれているので、
考えさせられることも多々あり、
私としてもしっかりと腰を据えて読み進める思いでした。
この作品の魅力はなんといっても強い「引き」にあるのではないかと、
極めて主観的に思っています。
普通のラブコメかと思いきや、
普通に人は死ぬし、
スケールがまじもんの世界だし、
そして何より日和ちゃんのお願いは本当の意味
で「絶対」という設定が持つシリアスさに出だしから一気に引き込まれます。
作中のウイルスによる致死率は非常に高く、
ひとつの島の住民が全滅してしまうというショッキングな出来事も起こります。
加えて、資源不足による世界情勢の悪化も現実世界よりシビアな状況にあります。
日和ちゃんは「お願い」を使って世界的に影響力を持つシンクタンクを介して
そういった大きな問題を解決しようと奮闘している、そういった背景があります。
わたし自身、先生の匠の演出により緊張と緩和の波に気づけば取りつかれていました。
加えて、こういった本作の特徴である「引き」は世界観だけではなく、キャラたちからも醸成されているように感じます。
メインヒロインの日和ちゃん、
そして主人公の頃橋くん、
この二人から生ずる妙な違和感に時折立ち止まって眉を顰めることが多々ありました。
日和ちゃんは天命評議会という世界的に有数のシンクタンクの創設者です。
最初の内は、
世の中をよくしようという純粋な思いから始めたことでしたが、流されやすい性格のせいもあり、
次第に天命評議会は肥大化していった、とあります。
しかしながら、流されやすいとは言え、
スケールが大きくなって人が大勢死んでいる事実を踏まえると、
天命評議会での日和ちゃんの行動には違和感を感じ得ません。人の死という大きな罪にもかかわらず、
彼女は自分のやったことを自覚していないように感じられるのです。
「私のせいで……」と苦悩するそぶりは見せますが、お願いを日常的に使うことに対する意識的ハードルの低さや、
世界情勢についてよく考えもしていない様子から、
「お願い」を使って世界に影響を与える責任をちゃんと自覚しているようには思えません。
これは頃橋くんにも言えます。
日和ちゃんは政治的な「お願い」は勿論、
家族にも「お願い」を使って強制的ないわゆる命令の能力を行使しています。
しかし、頃橋くんは日和ちゃんの身勝手な命令がなす様々な事象に対して疎外感を覚えてはいても、
それ自体には違和感を感じていません。
以上いろいろとキャラの悪口のようになってしまいましたが、私は批判したいわけではありません。
というのも、彼女らは、
終始全くの偽善者というわけではなく、
ほとんどの場面では自らの運命に真摯に向き合う少年少女の姿を見せているからです。
しっかりした二人、
だからこそ時折見せる矛盾した行動、
その背景に垣間見える何か、に強い違和感を感じずにはいられません。
こういったキャラの実態の不透明性がもう一つの強い引きとなって読者を惹きつけます。
ツイッターで先生がおっしゃっていましたが、この作品のテーマの一つは「不条理」、だそうです。
これは、病気や戦争などの人間を襲う暴力的不合理に対抗する意味合いがあるとも仰っていました。
しかし、私にはもう一つの不条理、
人間の中に潜み蝕んでいく不合理、
というのもこの作品が描き出す「不合理」なのではないかと、
本当に勝ってながら考えてみた次第です。
以上、強い「引き」に気づけば夢中になって読み切ってしまう力をもった作品だと思います。
ぜひぜひ、おすすめです。
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