アローバース 第7期 感想
来期の展開にも直接関わるクロスオーバー・イベント『エルスワールド』を実施した第7期のアローバースの各作品感想。
『ARROW / アロー〈シーズン7〉』感想
お気に入り度:★★★★★ 5 / 5
『ARROW / アロー』はこれまでに「贖罪」と「意志の継承」の物語を描いてきた。シーズン7はその集大成と云える内容だ。シーズン前半ではオリバーが刑務所という正に贖罪の為の場所にいて、シーズン後半ではオリバーが自らも当事者である暴力の連鎖を断ち切るという使命を帯びる。また、オリバーの意志を継いだ子供たちが主役の「未来編」が並行して描かれていく。
序盤の街の状況は、番組初期のようにヒーローの姿はなく、警察は十分に機能しておらず、悪が勢いをつけている。そんな街に突如として現れた新グリーンアローは紛れもない希望の光。ただし、視聴者からしてもその正体は不明である。劇中の市民目線でヒーローの活躍を見られるのが面白い。
リカルド・ディアスはシーズン6から引き続き、シーズン前半のメインヴィランに。暗殺者トリオのロングボウ・ハンターズを引き連れて以前より強力になった……と思いきや、シーズン6とは異なり一致団結しているチームアローに総出でボコボコにされる。ラスボスの中では格下だが、ラスボスだけあって頑丈なので、サンドバッグに丁度いいのかもしれない。愉快。
ロングボウ・ハンターズに関しては、もっと活躍を見たかった。棘付き・刃付きの盾で戦うコディアック! ナノパワーのダーツを装備したレッドダーツ! 音波を制御し周辺を無音状態にするサイレンサー! ヒーローチームに対するヴィランチームだ。あのリーグ・オブ・アサシンも恐れた伝説の暗殺者という設定も含めてコミック的で実に良い。
一方のシーズン後半のメインヴィランは、ロバート・クイーンに命を救われたオリバーとは反対に、ロバート・クイーンのせいで悪に堕ちた人物だ。スレイド・ウィルソン並の復讐鬼で、マルコム・マーリンによるクイーン・ガンビット号の沈没計画を後押した過去があり、ラーズ・アル・グールのように暗殺者軍団を率いている。歴代メインヴィランの設定盛り合わせだ。
とは云え、本質的には「反抗期の不幸な子供」のキャラクターで、大物の悪役といった感じはない。だが、今シーズンのオリバーが果たすべきことは、自らの過去を贖い、そして悪人に心を改めさせること。オリバーが倒しづらい、そもそも力でねじ伏せてはいけないキャラクターは、シーズン7におけるオリバーの最大の敵としてこの上なく相応しい。
シーズン前半と後半に呼び分けたが、ディアスとの戦いが終わってから今シーズン最大の敵との戦いが始まるまでには暫く間があり、その間にはここ何シーズンか欠けていた一話完結で様々なヴィランと戦う話が行なわれた。特に通算150話記念の第12話は、演出といい、展開といい、アクションといい、悪役といい、盛り上がりに盛り上がった。
未来編は最高だった。現在編と並行して別の時系列の物語を描くというのが『アロー』らしいし、主役が次世代のヒーローたちというのも「意志の継承」が主題の『アロー』らしい。それに、未来編のダークでSFな世界観は、幼い頃に『バットマン・ザ・フューチャー』が好きだったので、興奮せざるを得ない。
「意志の継承」と云えば、ローレルの遺言から始まった新たなブラックキャナリーを探す物語に決着がついたことも印象深い。シーズン5から始まったこの物語では、ヒーローだが悪人を容赦なく殺せるダイナと、ローレルと同じ顔だが冷酷な犯罪者であるアース2のローレルが登場した。二人とも人殺しではなかったローレルの後任にはあまりそぐわない人物だった。
しかし、シーズン7でのダイナとアース2ローレルのドラマには、二人をローレルの後任として認めるに足る説得力と熱さがあった。思い返せば、代替わりをしながら本人たちも含めて様々な人を救ってきたキャナリーは、主人公のアロー以上に『アロー』という作品を象徴していると云えよう。
思いもしないような新しい展開を見せつつ、主要キャラクターを満遍なく活躍させ、更には懐かしいキャラクターまでをも登場させた『アロー〈シーズン7〉』は、とても満足できるシーズンだった。惜しいのは、内容に密度がありすぎたが故に、最終回が駆け足で、折角のあの人との共闘も尺が少なかったことか。今シーズンに限って22話しかないのが恨めしい。
意志の継承……ジョンの言葉を借りて言い換えれば「ヒーローの連鎖」。ジョンは本当に良いことを云う。
『THE FLASH / フラッシュ〈シーズン5〉』感想
お気に入り度:★★★★・ 4 / 5
シーズン5ではフラッシュの娘で、その能力を受け継いでいるノラが仲間に加わり、第二の主人公的な活躍を見せる。しかし、ノラが背後には、過去にチーム・フラッシュを散々欺き苦しめたウェルズの顔のイオバード・ソーンが……。やはりリバース・フラッシュは傑作的なキャラクターだ。
メインヴィランのシカーダは「メタヒューマンを無力化できる単純に強い怪人物」といった感じで、壮大な計画を持っていたこれまでのメインヴィランたちと比べると格は下がる。けれど、ノラが未来人ということもあって、物語そのものは時空を股にかけた壮大なものとなっていた。シーズン4も好きだが、時空を股にかけた物語であった方がこの番組らしい。
ノラの浅はかさについては、彼女が20代後半の大人であることを思うと厳しいものがある。ただ、ノラの「親に認められたい少女」というキャラクター自体は、同じ新米ヒーローでもシーズン3のウォリーやシーズン4のラルフとは違った個性になっていて良かったと思う。
メタヒューマンの電子機器版、通称「メタテク」は面白い要素だった。ウェザーワンドやミラーガンといった実写化を避けられていたコミックのトンデモなアイテムが次々と実写化される様は、見ていて壮快ですらある。
全エピソード中、特筆したいのは第15話「キング・シャーク VS ゴリラ・グロッド」。サメ人間と高知能ゴリラの殴り合いはひたすら大迫力だし、キング・シャークにまつわる人間ドラマはただただ胸を打つ。これを作ってくれた製作陣には感謝しかない。
『フラッシュ〈シーズン5〉』の結末は、オリバーが息子を救った代わりに仲間たちが全滅させてしまった『アロー〈シーズン5〉』の結末の対照なのだろうか。なんともやりきれない話だ。
『レジェンド・オブ・トゥモロー〈シーズン4〉』感想
お気に入り度:★★★★・ 4 / 5
シーズン4は怪物たちの登場もあって、だいぶ賑やか……というか、かなりコメディになった。全16話、とりわけ第8話がイカれていたが、楽しさで云えばどれも甲乙付け難い。まあ、ギャグが増したことで雑さも増してはいるのだが。最終回は「希望の力は奇跡を起こす」という都合良さげな話だが、夢に溢れたシーズン4ならではのものではあるだろう。
ミノタウロスやチュパカブラなど怪物たちの姿は見ているだけでも楽しい。ただその反面、元より低いDCコミックス感が更に低くなってしまってもいる。もっとDCコミックスの換骨奪胎を観たいところだ。
アトムの出番が少ないのも残念。「ジャイアント・アトム 対 大怪獣」とかやってほしかったし、メインヴィランのネロンには悪のアトムとして暴れてほしかった。レイ自身は活躍してるのだけれどね。サベッジとも打ち解けるとは恐れ入った。
恋するザリの姿は、相手がネイトだからかなり何とも云えない。ただ、すごく可愛かったとは思う。
『SUPERGIRL / スーパーガール〈シーズン4〉』感想
お気に入り度:★★★★★ 5 / 5
移民排斥や外国人嫌悪など、シーズン4はこれまで以上に社会問題に切り込んだ。カーラがマスコミ業界で働いているという設定も存分に活かされている。マスメディアを利用して人々の不安や憎悪を煽るエージェント・リバティは、カーラとは正反対の人物で、実に現実味のある嫌な悪人だ。
暴力の連鎖やその虚しさを描きつつも、『レッドサン』『パブリック・エネミー』『VS エリート』などのスーパーマンの有名作に由来する展開も盛り込んで、楽しさも確保しているのがお見事。「女性の独立を描いた作品が、男性キャラクター作品のネタに依存していいのか」と思いもしたが、楽しかったことには違いないし、そもそも4シーズン目なので、別にいいのだろう。
ジミーが裏の顔も表の顔もガーディアンになり、ジョンが私立探偵に転職し、アレックスがカーラがスーパーガールであることを忘れてしまうという古参キャラクターの立ち位置の一新は、物語をより新鮮なものにしていた。加えて、ジミーがガーディアンであることの意義が強くなり、ジョンがシーズン1の頃のような「頼れるパパ」感を取り戻すという恩恵もあった。
カーラに恋愛をさせず、いつものような恋愛脳な話をやらないで物語を紡いでいたのも好印象。アローバースは往々にして恋愛脳な話をやりがちだが、カーラの恋愛に至っては引っ張ったわりには破局しがちで、今までかったるく思っていた。
中盤からは、スーパーマン最大の敵であるレックス・ルーサーが遂に登場。「スーパーマンがいなければ、自分こそがヒーローなのに~」というスーパーマンへのコンプレックス全開マンな上に、デザインも装着シーンもかっこいい緑色のアーマーを頻繁に着てくれるんだから、もう気に入るしかない。理想的レックス・ルーサーだ。髭ヅラは慣れた。
ヘイトクライムで最愛の人を殺され、差別主義者や排外主義者に復讐を誓ったマンチェスター・ブラックも良いキャラクターだった。同じような過去を持つジョンジョンと、魂と拳の交流をするというのも良い。もっと出番がほしかったくらいだ。
スーパーガールの超能力アクションは、迫力はあるものの、若干見飽きた感じがする。どちらかといえば、カーラがスーパーガールに変身せずにすっとぼけた顔で力を行使するアクションや、ブレイニーのやたら優雅なアクションの方が面白い。
『スーパーガール〈シーズン4〉』は、説教臭い面もあるものの、テーマ性もエンタメ性も高くて、充実感のあるシーズンだった。惜しいのは、内容に密度がありすぎたが故に、最終回が駆け足で、折角のあの人との共闘も尺が少なかったことか。今シーズンに限って22話しかないのが恨めしい。
それにしても、怪力で空を飛んだり、他人の思考を覗いたり、他人に化けたりできる存在との共存は、なかなかに困難が伴いそうだ。予知夢のパワーでついでにビームも撃てるとかちょっとズルい。
クロスオーバー・イベント『エルスワールド』感想
お気に入り度:★★★★★ 5 / 5
ド直球のヒーロー大集合物だった前期の『クライシス・オン・アースX』とは打って変わって、変化球の内容が楽しいクロスオーバー・イベント。フラッシュ姿のオリバーは強烈で、この強烈さを実現する為に今期のフラッシュの衣装を顎カバーのない全身タイツにデザインしたんじゃないかと疑う。
『エルスワールド』では、来期から始まる主役作に先駆けて、二代目ダークナイトとしてゴッサム・シティを守護するバットウーマンが登場した。初代のバットマンは『インベージョン!』が起こるより前に失踪したらしい。どうりで今まで世界的な危機でも姿を現さなかったわけだ。
グリーンアロー、フラッシュ、スーパーガール、そしてクロスオーバー・イベントに初参戦のスーパーマンが、超人の能力を模倣できるスーパーロボットのアマゾと戦うシーンは物凄い迫力だった。アクションは年々凄くなってきているが、これはもはや映画以上に凄かった。撹乱のフラッシュ、ぶちのめしのスーパー、とどめのアローという適材適所な役割分担も良い。
当然ながら、脚本はオリバーの扱いを手慣れている。自分が元祖ヴィジランテであることに拘ったり、スーパーマンに張り合ったり、バリーに『フラッシュ VS アロー』の時の仕返しをされてブチギレたり。面白ネタばかりやらされていると思ったら、彼の善人コンプレックスとでも云うべき自己犠牲精神が描かれたり……。
オリバーとバリーの入れ替わりに、スーパーマン&ロイスの登場、ゴッサム・シティの解禁、超音速ヒーロー ザ・フラッシュの復活、そして来期のクロスオーバー・イベントに向けた布石まで。DCコミックスらしい想像力と面白さに満ちた物語だった。
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