アローバース 第6期 感想
クロスオーバー・イベント『クライシス・オン・アースX』を実施した第6期のアローバースの各作品感想。
『ARROW / アロー〈シーズン6〉』感想
お気に入り度:★★★・・ 3 / 5
シーズン6は、オリバーの5年前を描いた過去編がなくなった分、オリバー以外の登場人物に割かれる尺が若干増えたように感じる。メインヴィランも複数登場し、前半ではサイバーテロリストのケイデン・ジェームズが、後半ではスター・シティを影で支配するリカルド・ディアスが立ちはだかる。
ケイデンとディアスが過去の宿敵たちと違うのは、オリバーを市長の面から追い詰めている点だ。ケイデンは街自体を人質にオリバーに無理難題をふっかけ、ディアスは警察などの国家権力を手駒にオリバーを失脚に追い込む。
そういうわけでケイデンもディアスも個性はあったし、殴るだけでは事態の解決にならない強敵でもあった。オリバーとの過去の因縁が薄い点は、チーム・アロー全体の敵だと思えば妥当だ。しかし、派手な特技があるわけじゃないので、悪の弓使いや闇の魔法使いに続く敵として地味なのは否めない。
シーズン6は他に、チーム・アローが内部分裂を起こし、『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』さながらの状態となる展開も特徴的。背後でヒーロー規制法の話も動いているので、結構なかなか『シビル・ウォー』である。しかも、ウィンター・ソルジャー枠の人物までいる。
仲間割れはただでさえ鬱積しやすいネタなのに、話が他作品と似通っているのが何ともだが、チーム・アローのメンバーがオリバーの下僕などではなく、オリバーと対等な人間であることは印象付けられた。
オリバーの父親としての話は、ウィリアムの出番が少ない故に今ひとつ心に残らない。一方で、ディグルが正式なグリーンアローとなる話は新鮮味があったし、長らく出番のなかったスレイドやテア&ロイに焦点を合わせた話には盛り上がった。シビル・ウォー展開も、たった一つの街で複数のヒーローチームが活動しているという状況そのものは普通に面白かった。
『アロー〈シーズン6〉』は敵を倒し切れずに終わるが故に、次シーズンへの繋ぎに終始したような趣がある。けれど、オリバーがリーダーとして、父親として、罪人として、相応の責任を果たす物語ではあったように思う。
『THE FLASH / フラッシュ〈シーズン4〉』感想
お気に入り度:★★★★・ 4 / 5
シーズン4はとにかく、誰か一人でも欠けたら話が成り立たなくなるくらいに、主要人物全員が活躍しているのが良い。シーズン3でウォリーやジュリアンの出番が途中からなくなり、最終決戦でも大した活躍がなかったことを歯痒く感じていた自分にとって、これほど嬉しいことはない。
チーム・フラッシュに新たに加わるゴム人間のエロンゲイテッドマンことラルフ・ディブニーは、シーズン4において準主人公と云える人物だ。バリーに活躍を奪われることもなく十二分に活躍し、駄目人間からヒーローへと成長していくのが熱い。また、ゴム人間の超能力は、フラッシュの超スピードの迫力に負けない見応えがある。
一方のメインヴィランは、「地上最高の頭脳」を持つザ・シンカーことクリフォード・デヴォー。番組史上初の非スピードスターのメインヴィランだ。力を得るためにイオバード・ソーンの粒子加速器事故を逆に利用したという凄い経歴も持っている。先の先まで見通すデヴォーは確かな強敵である。
デヴォーは前シーズンで未来人の口から将来倒されることが語られてはいるものの、歴史がしょっちゅう改変される『フラッシュ』ではそんなこと当てにならない。デヴォーへの恐怖はしかと感じられた。
登場人物全員を活躍させるという脚本の試みが各回ゲストのメタヒューマンにも及び、ゲストがゲストながら本当に一回限りの役割ではなく、本筋にも関わるようになっている点にも感心した。それぞれのキャラクターがフラッシュにぶちのめされるような悪人一辺倒じゃないのも良い。
シーズン4のフラッシュは、周囲からヒーローであること背負わされていたシーズン4のアローとは対照的に、一人で背負おうとしたヒーローの責務を周囲も背負ってくれる存在だったと思う。「We are The Flash」とは、「I am The Green Arrow」と対の意味を持った言葉じゃないだろうか。
『レジェンド・オブ・トゥモロー〈シーズン3〉』感想
お気に入り度:★★★★★ 5 / 5
歴史をちゃんと守るべく設立された「時間管理局」が登場するシーズン3では、お役所的な時間管理局との対比によって、レジェンズの無法者っぷりがますます強調された。本当に無茶苦茶な連中だ。
物語には『VIXEN / ビクセン』の内容が大きく関わっている。21世紀の方のビクセンの宿敵 クアサや、ザンベジのトーテムなど、アローバースにおいては外伝的なアニメーション作品のネタまで拾うとは、流石は『レジェンド・オブ・トゥモロー』。
ダミアン・ダークはクアサ、グロッド、娘のノラという新たな仲間と共に、今シーズンもレジェンズと敵対する。娘との殺人的なコスプレ旅行を楽しむダミアン、レジェンズ随一に聖人なレイを気に入るダミアン、レジェンズ随一に軽率なネイトとはしゃぐダミアン……ゴリラとの絡みが全然なかったことは惜しいが、ダミアンの魅力満載の時間だった。
一方、レジェンズには、ザンベジの風のトーテムを持つザリと、『フラッシュ』で出番がなくなったウォリーが新たに加入。ぶっきらぼうだけど根は優しいザリは実に魅力的なキャラクターで、彼女が主役のエピソード「Here I Go Again」は間違いなく傑作回だ。
シーズン3で特筆すべきは、ダミアンのような悪役にも葛藤と成長の物語があること。悪人もヒーローと同様に人間だということを認識させられる。そういえばウォリーが『フラッシュ』に再登場した際、「レジェンズに入って自分は自分で良いと思えた」と話していた。その台詞通りに、『レジェンド・オブ・トゥモロー』は脇役が主役になれる作品だと思う。
最終決戦でアトムことレイが全然戦っていなかったのは少々残念だけれど、思えばレイはオリバーとは対照的な存在として描かれている人物、自らダミアン(だったもの)を殺しには行かず、苦難の人生の中にいるノラの傍にいるということに意味があったのかもしれない。
『SUPERGIRL / スーパーガール〈シーズン3〉』感想
お気に入り度:★★・・・ 2 / 5
シーズン3は、全体的に不気味な雰囲気が漂い、スーパーガールを神と崇めるカルト教団が出る他、ワールドキラーズという邪悪なクリプトンの魔女たちが造った生物兵器軍団が登場する。ごく普通の人間がエイリアンの怪物に変貌していく様は強烈だ。
ワールドキラーズは単体でスーパーガールを捻り潰せるくらい強い上に、悪のスーパーガール的な恰好をしているなど、これまでの敵より宿敵っぽくて良い。しかし、地球人の時とは別人格という設定で、人間性のないただの怪物なのは、キャラクターとしての面白みに欠いているように感じる。
子供の描写はかなり酷い。ルビーという12歳ほどの少女がしばしば出るが、このルビー、ヒーローたちの面倒事を増やしてばかりいる。「母親」が主題の話をやるためだけに設けられ、あとは話を保たすのに脚本に体よく利用されているような印象を受ける。
恋愛ドラマ面も結構酷い。モン=エルはタイムトラベル先で結婚していたかと思えば、嫁とカーラで二股をする。ウィンの宇宙人の彼女は何の説明もなく消えている。前シーズンで見せられたものは何だったのか。
ジミーのガーディアンとしての活動は全然なくなってしまった。ジミー自体も影が薄い。けれど、人種差別を受けたトラウマから覆面を被っているというジミーの話には胸を衝かれた。ジミーやガーディアンを通じて黒人差別問題を時々でも描くことは、あらゆる人種や性別の人々を描いているこの作品にとって大きな意義があるのだろう。
ジョンが認知症の父親を介護するという話をやったのも、認知症を描くことに意義あるからなのかもしれない。正直、本筋にあまり関係のない話だし、テレパシー能力者の火星人の文化が独特すぎて、面を食らったが。
それにしても、ヒーロー物のテレビシリーズはシーズン3で主人公が周囲の人を遠ざける展開が定番なのだろうか。あの明朗快活なスーパーガールが「どうせ私は人間じゃないし」と云って周囲を遠ざけるなんて。似た展開を『アロー』でも『フラッシュ』でも『エージェント・オブ・シールド』でも観たが、正直どれも面白くはなかったし、スーパーガールなら尚更だ。
『スーパーガール〈シーズン3〉』は、シーズン1のような壮快感やシーズン2のようなオールスター感が失われた上に、キャラクターに魅力を感じられる話が減って、アクションシーン以外は気分が乗るものではなかった。
ただ、ティーン時代のダンバース姉妹を描いた回や、ルーサーのパワードスーツの描写、それからブレイニーはとても良かった。ティーン回は脚本も配役も完璧。パワードスーツはデザインも装着シーンも最高。ブレイニーは頭脳担当ながらオタクキャラじゃなくてド天然キャラなのが新鮮だし、ちょっと傲慢なのが面白かった。
クロスオーバー・イベント『クライシス・オン・アースX』感想
お気に入り度:★★★★★ 5 / 5
毎年恒例のクロスオーバー・イベント、その第4弾にして初めて何もかもが満足できる内容だった。物語の規模、キャラクターの活躍具合、映像の迫力度……全てが完璧。こういうのが観たかったんだ。
何より良かったのは、登場した全ヒーローに見せ場が用意されていたこと。総勢20人はいるのに、それぞれに見せ場が一つはあった。フラッシュとスーパーガールだけいれば十分そうな感じがない。
20人ものヒーローが全員活躍しているのだから、映像は当然迫力満点。加えて、アクション自体も凝っている。電撃のフラッシュと光のザ・レイの連携。シンプルこそ至高な、ヒーローたちの合体攻撃。そして、ヒーロー軍団 vs ナチス軍団の大乱戦。大乱戦中に画面を一旦止めて、フラッシュとリバースフラッシュの超高速バトルを入れるのとか、芸術点が高い。
オリバーがアースXの悪人の自分よりも外道を働く姿には、笑みがこぼれた。シュタイン教授とジャックスの「普通の握手」には、涙が頬をつたった。様々な感情がこみ上げてくる物語だったが、最後はアロー夫婦とフラッシュ夫婦の結婚式で穏やかに終わるのが素敵だ。
アース1とアースX、2つの世界を股にかけた壮大な物語は、宇宙人の侵略とは違ってMCUがやっていない題材であり、アローバースらしさが存分に発揮されていた。20人を越えるキャラクターを動かしながら、4作品それぞれの本筋まで進めてしまう脚本の手腕には畏怖の念すら抱く。とにかく、最高のクロスオーバーだった。
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