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『ARROW / アロー〈シーズン8〉』感想

お気に入り度:★★★★★ 5 / 5 

第8話にあたるクロスオーバー・イベント「クライシス・オン・インフィニット・アース」を山場に、それに至るまでの7話と、後日談2話で構成される『ARROW /  アロー』ファイナル・シーズンの感想。


第1話から第7話まで

『ARROW / アロー』シーズン8 第1話〜第7話(2019年) 
マルチバース滅亡の危機〈クライシス〉が迫り、オリバーは大切な人々を守る為、一人困難な戦いの旅へと出る。その先に、自らの死が待ち構えていることを知りながら――。

これまでオリバーは、死んだ家族や仲間からバトンを受け取って人生を歩んできた。それがシーズン8では、オリバーの方がバトンを渡す側となる。懐かしい人物も登場し、本当に最終シーズンらしさを感じる。各話のタイトルカードにシーズン1~7のタイトルカードを使うという演出がニクい。

スレイドが出なかったのは残念。けれど、これはキャラクターの使用制限の問題で出せなかった為だろうから仕方がない。代わりにスレイドじゃないデスストロークは沢山出た。未来でもグリーンアローの敵対者として存在しているあたり、代替わりするグリーンアローの最大の敵は同様に代替わりするデスストローク、といったところか。

7話中、とりわけアース2のスターリング・シティを舞台にした第1話が良かった。シーズン1をセルフオマージュした内容が面白いし、何より、トミーの死を経てヒーローとなったアース1のオリバーと、オリバーが死んでいたが為にヴィランに堕ちたアース2のトミーの関係性に心揺さぶられる。アース2の物語、もっと観てみたかった。

第8話「クライシス・オン・インフィニット・アース」

『クライシス・オン・インフィニット・アース』(2019-2020年) 
クライシスによって無限の世界が次々と消えていく中、世界を救いうる伝説の「7人のパラゴン」を探してヒーローたちが時空を駆ける。

ありとあらゆるDCコミックスの映像化作品がクロスオーバーする特大イベント。本当に怒涛の勢いで色んなキャラクターが出てくる。これは間違いなくDCコミックスの歴史に残るやつだ。アクションは『クライシス・オン・アースX』や『エルスワールド』と比べると全然なので、ゲスト出演の方に力を入れているのが目に見えてわかる。

ゲストの出番を設ける為に、寄り道の多い物語にはなってしまっている。アクションがイマイチなこともあり(煙状の幽霊みたいなのを殴ってもね…)、このクロスオーバー・イベント単体としてのお気に入り度は正直★5中の★3くらい。『アロー〈シーズン8〉』で準主役の位置付けのローレルが一切出ないのも解せない。

しかし、一度滅んだ世界がアローによって再誕するという脚本には唸った。『アロー』という番組から始まったアローバースが、アローというヒーローから始まったアローバースになったわけだ。巧い。あと、緑フードの私刑人を緑フードの復讐の精霊にするのも巧い。ジム・コリガンの登場の仕方は唐突すぎて無茶苦茶だけど。

レイの活躍が多いのも良かった。パラゴンと並ぶ功労者だと思う。バリーはレイにも椅子くれ。でも、どうせならもっと活躍させて、いつの間にか作っていたアトムボット軍団で幽霊を蹴散らしつつ、自身は巨大化してアンチモニターを殴り倒すという内容にしたら良かったのにな……!

それにしても、レックス・ルーサーの独擅場っぷりがすごい。アンチモニターよりよっぽど脅威だよコイツ。考えてみれば「戦闘服が緑色」「金持ち一族の長男」「髭面」で、アローバースにおいては最高のヒーローたるオリバーと対になる最凶のヴィランなのかもしれない。

第9話「グリーンアロー&キャナリーズ」

『ARROW / アロー』シーズン8 第9話(2020年) 
オリバーの活躍によってアメリカで一番安全な街へと生まれ変わった2040年代のスター・シティ。しかし、再び悪が現れ、オリバーの娘 ミアが二人のブラックキャナリーと共に立ち上がる。

続編企画のバックドア・パイロット。『アロー』の延長線上にある作品ながら、『アロー』とは違った印象の作品になっているのが面白い。観たことないのだが、近いコンセプトの実写テレビシリーズ『バーズ・オブ・プレイ』(邦題:ゴッサム・シティ・エンジェル)の影響だろうか。

バーズ・オブ・プレイといえば、ダイナは元よりブラックキャナリーにハントレスを掛け合わせたようなキャクターで、しかもレニー・モントーヤと同じく女刑事だったわけだけど、オラクルみたいなコンピューター技術まで手にして、もはや一人バーズ・オブ・プレイと化している。そりゃ、時計塔に住み着きもする。

相変わらず口と態度が悪いローレルと、以前より人間的に落ち着いたダイナのコンビは、思った以上に良いコンビ。そこに未熟なミアが加わって、チームとしての可能性を絶大に感じる。他のチームアローの子供たちのことや、『フラッシュ〈シーズン3〉』のようなヴィランの暗躍も気になるばかりだ。

(1/9 追記:この記事を公開した翌日に、続編は企画倒れしたことが発表された。そんなことって……)

最終話「フェードアウト」

『ARROW / アロー』シーズン8 第10話(2020年) 
オリバーの葬式を控えたある日、生前のオリバーに恨みを抱く何者かによって誘拐されたウィリアムを救出すべく、チームアローと未来から来たミアが出動する。

オリバーが2020年を起点にして世界を再創造したからか、新しい世界ではトミー、モイラ、クエンティン、エミコが生きていて、しかも犯罪多発都市であるはずのスター・シティから犯罪が一晩で消えていた。このスター・シティは正に「救われた」街だ。

オリバーの家族や仲間(フェリシティとロリー含む!)の現況、シーズン5以降の存命チーム・アローの初の勢揃い、目を見張るほど激しい戦闘シーンなど、こちらの見たいものを一通り見せてくれる。『アロー』8年間の中で特にその死が心残りだったクエンティンとエミコが生きている姿には、涙腺が緩んだ。

終始しんみりとした雰囲気で、葬式の場面ではそれが最高潮に達するが、そんな時に「ディグルが隕石に吹っ飛ばされ、そして緑色に光る何かを拾う」というとんでもない光景を差し込んじゃうのが何とも『アロー』、ひいてはアローバースらしい。

シリーズ総括

「スーパー」のない世界観から、超能力も魔法もあって、神や悪魔や宇宙人が当然のようにいる世界観となった『ARROW / アロー』。だが、物語は一貫して、オリバー・クイーンという罪人がヒーローとなり、新世代のヒーローたちに影響を及ぼしていく、というものだった。

オリバーの戦いは、旅行先で船の沈没事故に遭った後、死にゆく父から未来を託される形で始まった。絶海の孤島 リアン・ユーからロシアまで、命を懸けて様々な敵と戦っていったオリバーは、やがて暴力衝動に駆られるようになり、正気を保つべくもう一つの人格〈フードの男〉を生み出すに至る。

フードの男となったオリバーは故郷の街に戻り、殺しも厭わぬやり方で悪人たちを罰し始める。しかし、結局は「悪だと思うものを殺す」ということにおいて全てが上回る宿敵 ダーク・アーチャーに勝つことはできない。

オリバーは「オリバー・クイーン」「英雄」「罪人」という自らの幾つもの側面を見つめ直す。フードの男は守護者〈アロー〉へ、更に〈グリーンアロー〉へと変わる。

デスストロークとの戦いでは、殺しが絶対的手段ではないことを示す。ラーズ・アル・グールとの戦いでは、オリバー・クイーンとして生きる道を見いだす。ダミアン・ダークとの戦いでは、人々の希望の象徴たり得る存在となるが、再び進んで人を殺してしまう。プロメテウスとの戦いでは、人殺しとしての自らの罪と直面する。

「オリバーの一番の敵はオリバー自身である」と説くリカルド・ディアスとの激闘を経て、オリバーは自ら刑務所に入ることを選択する。それから出所後、亡き父から未来とともに引き継いだ負の遺産を清算し、街のヒーローとしての戦いを終える。

そして、クライシス。宇宙の命運を決める最大の戦いの中で、オリバーは自らの命を犠牲にして、死んでいった人々に再び未来を与える。8年間続いてきたオリバーの贖罪と英雄的行為の究極の段階だ。これは未来のヒーローたちへ向けて、死のバトンリレーを打ち切る行為のようにも見える。

オリバーは罪深い人間で、普通とは云えない。されど、フラッシュやスーパーガールのような人々に希望を与える存在に憧れを抱き、自分なりに理想のヒーローになろうとする姿は、とても身近に感じられた。

オリバーの云う『別の何かになる』とは、ただ単にグリーンアローになるという意味ではなく、より善い人間になるという意味だった――最終回でディグルが語ったことは、振り返れば納得感しかない、『ARROW / アロー』を締めくくるに相応しいものだったと思う。


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