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モラトリアムと睡眠と

睡眠の質を高めるためのアイテムを探したが、あれこれ迷ったあげく結局まくらを買い替えることに落ち着いた。首と背中の形状を計測し、寝姿勢に合った高さと硬さを選んで作った高級オーダーメイドまくらは、ここ半年ほど慢性的に悩まされていた首と肩の不調を瞬く間に改善した。

転職先の上司が合わなかった。何社も出た内定の中から厳選して、ここでこそ長く頑張ろうと誓った職場を4か月で退職した。幸いにも次の仕事は、まくらを買い替えるよりも簡単に見つかった。転職直前にはじめた副業先で、新会社を立ち上げるための共同経営者として採用してもらえることになったのだ。わたしの人生は、なんともまあ、うまいこと転がるようにできているものだと、感謝より先に、強運に感動したものだ。

だが、気合が戻ってこなかった。恵まれた環境に身を置きながら、寝るか漫画を読むか以外に意欲が湧いてこない。それなのに焦れないということへのほんの少しの焦燥感と、誰に向けるわけでもない罪悪感を覚える日々が、睡眠の質を徐々に奪っていった。

当時(このnoteの脱稿から約4か月前)わたしは、他人の正義に疲弊しきっていた。頑張れなかった方の職場で、真っ向から向けられた他人の「正義」にやられていた。
ヒトの精神を疲弊させるのは、悪意ではなく、それが正しいと疑えない正義だということを心で学んだ。そしてその暴走は、社内で独走するパワーのある職場環境で起こりやすいこと脳脊髄で学んだ。
この"パワー"とは、社内における発言力であったり、使える予算であったり様々形は異なるが、得てして"パワー"が強いと共通認識される部署と、それを束ねる立場にある者の多くは、「自分のおかげでこの会社は成り立っている」というマインドを持っているように感じる(n3)。そしてその考えを正当化すべく「正義」という名のもとに傍若無人なマネジメント方針を暴走させがちである(n2)。

要するにわたしは上司の「正義」というやつにあてられて、なす術もなく、とにかく疲弊していた。寝るか漫画を読むか以外に意欲が湧いてこないほどに。これがわたしにとってどれほど怠惰なことであるか、一度でも仕事を共にしたことがある方は良くお分かりだろう。

すっかりガス欠のままエンストしたわたしの脳は「楽をする」ことだけを考え、「仕事を考えて選ぶ」という思考回路を放棄した。ひとつの仕事にフォーカスせず、同時多発的に、その時にこなせる仕事だけをただ打ち返しまくるという作業を、ニュートラルギアでこなしまくった。その結果、昨年の年収は化粧品メーカー勤務時代の4倍を超え、あろうことか追加徴税を600万円も払うことになってしまった。人生、楽をすることも意外と楽ではない。

良いことにも悪いことにも、頭を使うことに生き甲斐を感じるわたしにとって「考え、選ぶこと」を放棄したこの数か月は、所謂モラトリアムだった。思えば社会に出てからは常に「もっと上に昇りたい」と頭をフル回転させてきたので、こんなにも思考と選択を保留にしたのは初めてのことである。逆に言えば、考えず、選ばないことで、社会人8年にしてようやく脳内に余白が出来たのだ。

しかし、エンストした脳が考えつくことはとりとめのないことばかりで、「エンジェル投資家」「自己啓発本」「セミナー集客」など、電車広告の中で目にしてそのまま記憶に刻まれずに消えていく言葉ばかりが、浮かんでは消えて浮かんでは消えていった。
そんな波風立たない、ふわふわとした思考回路の中から脳が導き出した確固たる答えが唯一「睡眠の質の向上」である。ようやく冒頭の伏線をここで回収することができた。

この、小学生でも思いつく生活向上TIPSが、存外功を奏したらしい。慢性的な睡眠不足が解消された脳は、己の状況を次々と整え、思考回路を正常に再起動させた。再起動した先で得た答えが、わたしはやはり「美容」が好きだということであった。決めた。「美容」を人生の軸に据えよう。そう決意したら、やることは明確だ。

社会人になって初めてのモラトリアムを経て、この先の方針が定まった。「やること」「やりたいこと」「やるべきこと」「やらないこと」を整理したら、ますますよく眠れるようになった。人は睡眠の質が良くなると、生活が整い、心身が整う。
そう。整いました。

オーダーメイド高級枕とかけて、美容課金と説きます。
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