ユウカ

アラサー社会不適合人。徒然なるままに脳内をアウトプットする備忘録。

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アラサー社会不適合人。徒然なるままに脳内をアウトプットする備忘録。

最近の記事

サボテンのはな

いえの仙人掌が腐った。 美しい花を咲かせた仙人掌は、 砂漠でうまれたいきものなのに 与えられた水が多すぎたのだろう。 大きなからだを生かすには、 小さすぎる根にしか育てなかった。 棘の間に咲かせた花に、たくさんのハチが寄ってきた。 蜜にいのちをかけなければ、 根は腐らないとしっていたでしょう。 恋と呼ぶには軽すぎて、愛と呼ぶには重すぎた。 度重なる苦痛のどん底にいた時、美しい花はわたしを照らす唯一の光だった。そばにいるときだけ安心できた。わたしもあんなふうに美しくなりたかっ

    • まどろみとまばたき

      寝そべる犬の吐息をふくらはぎに感じながら雨の音を聴く。外は嵐、部屋は暗し、犬は愛おし、さながらいとおかし。 高い天井に見える壁の模様が、台風の進路予測図に見える。風が唸りを上げて雨戸を揺さぶり、鈍い金属音が断続的に轟く。犬は静かに寝息を立てている。 臆病な保護犬を迎える覚悟をした。母胎感染のバベシア症でハゲ散らかし、見るものすべてを警戒していた犬は、昼下がりの嵐の中でも眠れるようになった。その夢を邪魔しないよう、時間をかけて寝返りをうつ。 尖った石が敷き詰められた冷たい水

      • モラトリアムと睡眠と

        睡眠の質を高めるためのアイテムを探したが、あれこれ迷ったあげく結局まくらを買い替えることに落ち着いた。首と背中の形状を計測し、寝姿勢に合った高さと硬さを選んで作った高級オーダーメイドまくらは、ここ半年ほど慢性的に悩まされていた首と肩の不調を瞬く間に改善した。 転職先の上司が合わなかった。何社も出た内定の中から厳選して、ここでこそ長く頑張ろうと誓った職場を4か月で退職した。幸いにも次の仕事は、まくらを買い替えるよりも簡単に見つかった。転職直前にはじめた副業先で、新会社を立ち上

        • 31歳でやってみたい31個のこと

          ほんとうに、どうしてこんなことを思いついたのだろう。三十路も残すところあと数日となった今、心の底からときめくことを考えついてしまった。31歳の1年間をかけて歳の数だけやりたいことをやってみるという、途轍もなくおもしろそうなことを思いついてしまったのだ。 徒然なるままに、iPhoneに向かいて、心にうつりゆくやってみたいことを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。我ながら心おごりせられし、おもしろそうなコトばかりだ。 特に、「在来線の終点駅までひたすら行

        サボテンのはな

          横浜馬車道の宝石箱:創業78年の「中里宝石」

          横浜馬車道に、この世で一番美しい宝飾品店がある。 かつて人々のゆく道を照らした緑青色ガス灯の先、赤い煉瓦に映える朱色のひさしの下で煌めく宝石箱。曇りのないガラスのショーウィンドウの中には、自然光を受けて輝く宝石たちが並ぶ。まるでおとぎ話の世界にいるような、心のランプがほんのり暖まるその店の名は「中里宝石」。横浜馬車道に創業78年という長い歴史を刻んできた美しい店は、2024年6月末、その歴史に幕を閉じる。 夫がまだ彼氏だった頃、十一月の曇天の日。歩きなれた馬車道を散歩してい

          横浜馬車道の宝石箱:創業78年の「中里宝石」

          酒と女の賞味期限

          「女の賞味期限」と揶揄される年齢を迎えた頃。突如ウイスキーにはまった。 きっかけはダイエットだ。親子三代酒豪の家の出、二十歳になるやいなや酒の味を覚えた。地元の居酒屋へ足繁く通い、ビールに始まり焼酎に立ち寄り白ワインを経由して日本酒で一日を終える。そんな二十代を駆け抜けてきたが、27歳を超えた頃、肝臓よりも先に肌が曲がり角を迎えた。 酒と共に迎えた朝、内臓は元気だが顔に元気がない。目の下のクマは酷く、肌にハリがない。それが酒を受け入れる己の体の変化のせいだと気付くのには、そう

          酒と女の賞味期限

          祖母の忘れもの

           「さいきん、ご近所に ちいちゃいワンちゃんがいてね、お散歩中に私のことを見つけると、ワァッと嬉しそうな顔をして、動かなくなっちゃうのよ」 自称89歳の祖母が語る、推定500回目の「さいきん」の話である。 83歳で認知症を発病した、実年齢86歳の祖母は、10年前の「さいきん」をずっと生きている。わたしは何度でも「それはいいね、何色の犬なの?」と笑顔で返事をする。 認知症が発覚してからの3年間で、祖母は多くのことを忘れた。 前回会ったときは、時計の読み方を知っていた。 前々

          祖母の忘れもの

          海底に沈んだiPhone11、10か月後に救出される

          「石巻警察署より、お客様の契約されていたSIMが入っているiPhoneが取得されたとの連絡がありました。現在こちらのSIMはすでに新規発行済みのものかと存じますが、担当警察官の連絡先をお伝えします。」 2023年6月1日の昼下がり。0120から始まる見知らぬ番号からの着信があった。訝しみながら電話に出ると、契約している携帯電話回線であるNUROモバイルからの入電であった。 曰く、10か月も前に海の底に沈んだiPhone11が見つかったというのだ。 この入電に対して、驚いた

          海底に沈んだiPhone11、10か月後に救出される

          「自分らしさ」という言葉の解像度

          近年、至るメディアで目にする「自分らしさ」という言葉。この言葉が世の中に出るようになったのは、2018年より開始されたパンテーン(P&G Japan)による「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo」キャンペーンが皮切りだったように思う。 世界中で、あらゆる業界が「自己解放」や「自己肯定」を軸に据えた活動を展開し、そこに高確率で採用され続ける「自分+○○」というキャッチコピー。一見、消費者の自己肯定感を高める万能薬のように見えて、実は、定義と意味を適切に説明するには難しすぎ

          「自分らしさ」という言葉の解像度

          祖母、グレる

          新卒の頃から使っていたカーテンが、引越し先の窓に合わなかった。 大学の卒業式と同時に一人暮らしデビューを果たし早7年。入居したその足で買った無印良品のドビー織ノンプリーツカーテンは、その後5回に渡る引越しについて来てくれる相棒となった。心底気に入っているわけではないが、新入社員から三十路になるまで、衣食住を共にした相棒を手放すことに抵抗感がある。 学生時代の家庭科の成績は2だったが、この手直しは自分でしてやりたい気分になり、父方の祖母に教えを乞うことにした。 祖母と一緒にカ

          祖母、グレる

          犬の呼吸と体温

          己はまさしく「母」になるための情性を内包していると察したのは、育ちかけのイヌを腕の中に抱いた時だった。 肺が凍て付く寒さの夜。愛車の中で仔犬を撫でていた。生後4か月のラブラドール・レトリーバーの背中には、ベルベットのようにやわらかい毛と、獣と呼ぶに相応しい硬い毛が混ざって生えていた。異なる手触りの体毛を、てのひらで揉み込むように撫でる。仔犬は、吸うのと吐くのとが同じ長さの規則正しい呼吸を繰り返す。だんだんと、吸う息が長く、吐く息は深くなり、やがて寝息に変わった。 春風が地面の

          犬の呼吸と体温

          28歳独身女性による“Z世代”体験レポ

          「Z世代」とは。 日本では一般的に、1996年から2015年の間に生まれた世代と定義される。 特徴として、デジタルネイティブ・スマホネイティブでSNSの利用頻度が高く、モノよりも体験価値を重要視し、プライベート優先でタムパ(タイムパフォーマンス)が悪いことは避ける傾向がある。と、言われている。 Z総研が2021年6月に発表した『Z世代が選ぶ2021上半期トレンドランキング』によると、流行語は「はにゃ?」、流行った食べ物は「地球グミ」、流行ったモノコトは「TikTok」だそう

          28歳独身女性による“Z世代”体験レポ

          記憶のにおい

          ハイラックスで海辺を走っていた。左手には、み空色の地平線が広がっていた。台風が通り過ぎた後の海辺には、波と戯れたい人々の頭がたくさん見えた。 遠目から見るとアシカのようだ。波に揺られて、たゆたうアシカ。生来の資質である遊泳能力を忘れ、心地好さそうに、ぷかぷかと波に身を任せる。同じ景色を過去にも見たことがあるかのような既視感を覚える。あの時わたしは、まだ子どもだったような――そんなことを考えていた時、もわん、と、雨の降った後、熱い地面で蒸されたドクダミのようなにおいがした。

          記憶のにおい

          ペーパードライバー、40,000キロ走る

          クルマを買った。40,126キロ走った。来年には、メーターのゼロがもうひとつ増えるだろう。 志村ユウカ、27歳。来週で28歳。 横浜市在住で、トヨタのハイラックススポーツピックアップ/RZN169Hに乗っている。 水冷直列4気筒エンジン 総排気量2,693cc 4790×1790×1795mm 日本では「大きいクルマ」に分類される車体だ。 このクルマを買う前は、スズキのジムニー/JA22に乗っていた。 24年落ち、走行距離15万キロ越えのおんぼろ軽自動車。 見た目もか

          ペーパードライバー、40,000キロ走る

          コロナ禍にキャリアアップ転職してみた

          転職活動を終えた。転職先を決めた。次の職場は、今の職場よりも忙しいだろう。 わたしは現在、都内にある映像プロダクションでプロデューサーとして働いている。エンタメ領域全般の動画広告が得意で、SNS運用と連動した視聴者参加型企画が好きだ。 従業員規模10名、所謂"小規模先鋭下請け"のプロデューサー。業務領域が幅広く、企画立案から営業、制作はもちろん、メディアアタックやプレスリリースの配信、ローンチ後の効果測定と、KPI未達時の言い訳資料作成代行まで、マルチタスクに働いてきた。

          コロナ禍にキャリアアップ転職してみた

          わたしと仕事の話

          「あ、」と一瞬でも心が動くものを作り続けたい。 「あ、」と感じた瞬間の心の衝動は、次の瞬間を生き続けるに値する理由になり得るから。 だからわたしは、広告をつくっている。 広告制作の仕事をはじめて5年が経過した。 酸いも甘いも噛み分けて日々実感することは、広告というモノの大多数は、その役割を終えたら忘れられ、消費されていくことに価値がある、ということである。 そこにどんな物語や苦労があろうと、大半のそれは視聴者にとってはどうでもいいことであり、時に褒め称えられ、時に炎上する己

          わたしと仕事の話