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散文韻文

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記事一覧

連作俳句「時間の無駄」

あまりにも猫の口から漏れる春 駅ビルや汗ばみながら畳む布 新米のやけに立ち止まりたくなる 冬紅葉きみに耳たぶあるような

連作俳句「バスを追う」

髪洗いながら転職活動す 眠きこと鉛のごとし夜の秋 水のなかに水こぼれゆく谷崎忌

連作俳句「薬味」

黒板に白墨涼しアラカルト 赤椅子は等間隔や夏の果 コンプレックスと差し出す冷奴

連作川柳「フレンド」

飲んでまた補充してくる水素水 誘わない日と誘う日のある散歩 エンパイア・ステート・ビルディングに入る

連作川柳「ホームビデオ」

連作俳句「滝は針」

水落ちるほど杉のびる夏木立 滝は針ひとの気配として供花 西日さし行きしと同し運転士

引用日記㊵

ぜんぶのぜんぶは、いっぺんに。

 関西から出てきて神奈川県の大学にかよっていた頃、住んでたアパートは坂の途中にありました。その建物は二階の廊下からも橋のようなものが伸びていて、そのまま前の道へ渡ることができます。いや、そこまで珍しい風景というわけでは別にないんですけどなんか、へぇーって感じがするかなーと思って書いてみました。  ひさしぶりにそれを見にいったらちゃんとまだあったので写真に撮り、ついでにかつての近所を歩いてみると何度も買い物したなーと生活がおもいだされるスーパーや、一度だけ入ったことのある洋食

つづけること、まとめること。

 僕は2016年の秋から短歌を作りはじめました。今でもまだこの趣味には飽きていなくて、7年も続いているのは自分でも驚きです。ここまで趣味が定着するとやめることもあんまり想像できない感じになってきますが、逆に目標みたいなものはあまりなくて、1首できるごとにInstagramやnoteに載せて満足。という生活を送っているうちに1000首を超えるくらい短歌が溜まってきていました。  自分の作品が溜まってくると、ふつうはアルバムとか作品集を作ろうというやる気がみなぎるものなのかもし

連作川柳「幽閉」

ブレストから逃げてここまできた海だ 不実行したくない からだまっとく 延びに延びそのものになるリハーサル

連作俳句「無音」

茄子の味あつまれそうでむずかしい 夕凪に黒糖パンをあたためて 短夜はカオマンガイのなかにある  

庭、あるいは保坂和志論②

二〇二二年四月二十九日(金・祝) すごく雨  もう長いこと、日記を書けてなかった。ひさしぶりにこの青いノートを開いてみると最後のページは、今日と同じ四月二十九日の日記だった。ちょうど一年前の。すごく忙しかったわけでも日記を書くのが嫌になったわけでもなかった。でもいつのまにか中断してしまっていた日記を再開するには何か理由のようなものが必要な気がして、今日は一日じゅう強い雨がずっと降っていて、たぶんこの一年間で私はさびしいという気持ちを一度も抱いたことがなかったんだ。それはとて

転職、あるいはアケルマン映画祭

 9月2日、金曜日。仕事が終わって、私は勤務先の最寄駅からの最終電車には乗らず、すこし歩いたところにあるネットカフェ快活CLUBに泊まった。四角く区切られた空間で黒い座椅子に凭れながら、画面が明るすぎるデスクトップPCで「アケルマン映画祭」について調べる。2022年4月に東京で始まったシャンタル・アケルマン映画祭は日本各地を巡回し、そのほとんどはすでに終わっていた。しかし金沢市にある映画館シネモンドでは、まさに明日からアケルマン作品のいくつかが上映される。それを確認した私は、

連作川柳「替え歌」

開発のあとに引っ越してきた街 手で書いたのがだめだったみたいです 突然にやってきますよ腰痛は