フィルムエストトークショー
YouTubeの映像集団「フィルムエストTV」。2020年代のできごとや流行語などを昭和や平成初期のテレビ番組風に仕上げる動画を投稿している。
「テレワーク」「ステイホーム」などのコロナ禍でよく聞いた言葉に始まり、「猫ミーム」「ひき肉です!」「アレ」などの最近の流行語。テレビでよくある放送事故などマニアックなところまでネタに尽きない。クオリティも高く、あたかも本当にあったかのようなコメントもあったり、現実のことと勘違いされたりするほど。
そんなフィルムエストがチャンネル開設10周年企画として大阪梅田でトークライブを開くことになった。動画の裏話がたくさん聞けたり豪華ゲストもあるということで、僕は行ってみることに。
梅田Lateral
地下街「ホワイティうめだ」から地上へ出て、阪急東通商店街を抜けた先、左に曲がった路地が会場である「梅田Lateral」。ボードに書かれた出演者はいずれもフィルムエストゆかりの方々ばかり。経緯などは追って綴っていくとする。
動画で出てきたあのケーキ
ワンドリンクを頼むと一緒にケーキが登場する。たぬきを模ったチョコケーキは過去にフィルムエストで登場したものと同じ。
架空の関西ローカル番組「リアルナイトかんさい」が岩手で放送されることになった(という設定)ということでこのスイーツが紹介された。
紹介されたスイーツと和菓子は実在のもので岩手県岩泉町にある「志たあめや」というお菓子屋さんで食べることができる。江戸時代から代々続く由緒正しい老舗だ。
大阪でこれが食べられるのは至極のひとときだ。かわいい見た目だけでなくチョコの生地やクリームは甘すぎない。ビターチョコ好きにはお気に入りだし、個人的に食べたチョコケーキNo. 1だ。
トークショー
スイーツを完食したところでトークショーがスタート。
序盤ではフィルムエストの主で監督である「にしい」さんと毎日放送(MBS)の福島暢啓アナウンサーが登壇した。
にしいさん
にしいさんは企画、演出、監督、ナレーション、出演までたくさんこなすフィルムエストの大黒柱。その傍ら、テレビマンとして多忙な日々を送っている。ゆえに、YouTuberとしては珍しく1〜数ヶ月に1回という低頻度になりがち。しかし、それだけ質にかけているということにはなるし、いつもいつも高クオリティだ。
福島暢啓アナウンサー
福島さんはMBSによるYouTubeライブ配信で「にしい」さんにインタビューを行い、コラボ動画を制作したときからの縁。当時ブームだったタピオカミルクティーにまつわる架空の騒動を昭和のニュース風に仕上げ、キャスター役として福島さんが出演した。
朝の番組「THE TIME,」代表として「オールスター感謝祭」の「ミニマラソン」を完走した際にはXで「福島アナ」がトレンド入りしたそう。「タピオカの人だ!」「フィルムエストの人だ!」とコメントがたくさんあった。本業より動画が認知されていることに本人はびっくりしていた。それだけ影響力がすごい。
関西在住でラジオ好きの僕にとっては本業の方のイメージ。ラジオで聴く福島さんの話術は目の前でもすごく面白いし、聴き心地がいい。
フィルムエストでひもとく映像、音、人
本編では3つの項目に分けて動画の舞台裏を紹介。
映像で見るフィルムエスト
音で聴くフィルムエスト
人から見るフィルムエスト
映像では昭和っぽい画角にこだわりを見せていた。警察署の外観や大阪駅前の風景を例に「どの角度、どの建物が昭和っぽいか」というクイズを交えて力説。いくら昭和っぽくても、クルマ、耐震補強といったで時代を感じられにくくなったり、映り込みが気になったり。細かいところも見る「にしい」さんのこだわりが光る。
音では「キダ・タロー※みある音」を大事にして選曲している。
「キダ先生ならこんな曲を作るだろう」という想像や作った曲の傾向から「キダ・タローみ」ある昭和にマッチするBGMをセレクトしている。
にしいさんが吹き込む昭和っぽい声もまたこだわりの音。喋りのプロでラジオ好きである福島さんのフィードバックも織り交ぜながら、昭和のアナウンサーや記者、レポーターを演じ分け、音程を変えることで女性アシスタントの声色を吹き込むこともできる。
友近さん
「人から見る」ではゲストが登場。
1人目は芸人の友近さん。長編シリーズ「知りすぎた女」で「松山三千万事件(架空)」被害者の隣人「小野口清子」を演じていた。友近さん自身、フィルムエストのファンでこのコラボも打診したとのこと。
「小野口清子」を演じる中では「福田和子」を参考にしていたという。持ちネタである「中年アルバイター“西尾一男”」も相まって、見ている方は憑依しているような感覚。小野口が実在したことを錯覚する。僕もテレビで見た記憶で「福田和子」という女が日本中を騒がせていたことで話が入りやすかった。
なんで26歳が分かっとんねんって話だが。
真山隼人さん
話が盛り上がったところで、2人目に真山隼人さんが登場。本業は大阪で活躍する浪曲師だが、フィルムエストでかなり爪痕を残している名役者だ。
同じシリーズで「情報番組でプレゼンするレポーター」役で出演。上方落語家を彷彿させるしゃがれた昭和な大阪弁が特徴。喋りとは裏腹に29歳と言うと会場がどよめく。僕の3歳上でにしいさんと同い年の喋りとは思えない。声が完成されている。
別の回で出演した折には浪曲師仲間から注目されていたそう。落語家の桂南光さんの声質にも似ていることで「べかこ(南光さんの旧名)やん!」とも言われていたそうな。関西人である僕からしても声だけ聴くと南光さんだと言われても騙せてしまう。
隼人さんの独特の喋りは「浪曲訛り」と呼ばれる啖呵に由来。出身である三重の言葉とのギャップを埋めるため、キレのある節回しを使って、コテコテの大阪人を感じさせる喋りを実現させた。
その結果、にしいさんの演技指導がなく自然体であれができていたのだとか。「昔の大阪弁ってこんなんやったよなぁ」っていうのが僕の耳でもけっこう伝わる。聴こえ方、喋り方も奥が深い。
質問コーナー
最後には質問コーナー。会場内で募ったほか、配信コメントを拾い上げていた。
バブル期の映像がないのはなぜですか?→にしいさん曰く「コンプライアンス的に厳しい」
友近さん、福島さん、隼人さんから見たにしいさんの印象→ポジティブな行動力、アイデアを汲み取ってくれる。
などいろんな質問が飛んだ中、僕も思い切ってこんなことを聞いた。
小野口清子の映像でナールつかってましたよね?
にしいさんの好きなフォントやフォントのこだわりってありますか?
これに福島さんが反応して
ナールファンっていますよね!!
とコメント。にしいさんもお気に入りだと話す「ナール」というフォント。マニアックながらけっこうファンも多い。
阪急名物ナール
「ナール」は丸っこくて、キュッとまとまった手書き系のフォント。古くはテレビ番組や青い道路看板に使われていた他、阪急電車の駅名標、行き先、各種案内看板にも長らく採用。「マルーンの電車」に並ぶぐらい、隠れた代名詞だった。
しかし、2010年代になると阪急電車の駅名標は見やすくて、現代的な丸いフォントに更新。主要駅や新しい駅、「大阪梅田駅(旧梅田駅)」など改名した駅では見られなくなってきている。老朽取り替えによりさらに数は減っていく。これに残念がる声もあるそうな。
文字マニア
僕自身、文字が大好きな「文字鉄」を自称。古いのから新しいのまで看板類の文字に目を留めたり、撮影したり「NHKニュース」のテロップ字体にも興味を示したり。しかし、あまりにもマニアック過ぎて喋れるタイミングがなかった。
終演後に質問を聞いていた人から声をかけられたし、質問できてよかった。公に文字の面白さを話すなんてこれが初めてだから。
最後に
盛り上がったトークショーもあっという間にお開き。にしいさんの昭和的なこだわりやテレビマンだから成せる技、「量より質」を重んじているスタンスは最初から最後まで興奮した。
コンスタンスに投稿してる人も支持されているけど、けっこう粗が多いし、あくまで素人だ。映像制作初心者でもできるのがYouTubeの良さだが、やっぱりプロには敵わない。福島さんや友近さんといった第一線で活躍する人が一緒にやりたいと言われるわけだ。
今後は愛媛を舞台にし、友近さんが出演する2時間ドラマを製作するというフィルムエスト。ロケ地の協賛スポンサーや今治市長への挨拶もあってかなりの本気度。これからのフィルムエストも目が離せない!
ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。