【中国の物語を知る】笑林、三国時代の笑い話で、呉の姚彪が塩をあげない話は何が面白いのか?~前編
第一章:はじめに
三国時代に編算された笑い話集に笑林というものがあり、こんな話が載っています。
これを初めて読んだとき、何が面白いのかわかりませんでした。
普通に考えると。
姚彪はむちゃくちゃ性格の悪いヤツで、その悪癖ゆえに大損した、というのが笑いどころでしょう。
しかし、ひょっとすると。
沈珩は塩をやるのが惜しいほどの悪人で、姚彪が義憤にかられて意地悪したのかもしれません。
そうなると姚彪がおバカだとしても、事情を知らずに笑うのは具合が悪い。
つまり、どこを焦点にした笑い話なのか分からず、おいおい泣くはめになったのです。
そんな苦悩を解決し、ニヤニヤ気持ちよく笑うために、今回もざっくり調べてみました。
第二章:沈珩はウンコ野郎なのか?
まずこのお話を笑えるようになるために、登場人物を知ることが重要です。
正直沈珩が悪人だとしても、意地悪されるのを読んで笑えるでしょうか…?
何の事情も知らない我々には「嫌な話だな…」と思うしかありません。
しかし当時の人からしたら報いを受けて当然。
スカッとする話だった可能性もあります。
現代に生きる私達でも、例えば水滸伝の悪者である高俅や蔡京が痛い目を見たらスカッとしますよね。
そんな風に人物を知れば理解に近づけるはず、というわけです。
なので、まず「沈珩は悪人なのか?」という疑問を解消しましょう。
ちなみに、このお話の登場人物は全て三国時代・呉の官僚です。
沈珩は周瑜、陸遜のような有名人ではないものの、有能な外交官と知られていました。
彼の活躍が三国志にも残されています。
ある時。
魏が呉の太子・孫登を人質にしようと、外交上の罠を仕掛けてきました。
沈珩は使者として出向き、当時魏の頂点に君臨する文帝・曹丕に対面しました。
そして、その物腰の柔らかさで事態を平和的に収拾したのです。
もちろん、冷静沈着に状況を判断できる能力もあり、君主・孫権に進言できる度胸もあったようです。
悪い評判もありませんし、問答の内容から考えると……。
どうやら沈珩は悪人ではありません。
実は影で下男や下女を虐待してたかもしれませんが、なんとなくそういう事もしなさそうです。
第三章:姚彪って誰だ…?
これで沈珩が悪人だという疑いは晴れたので、必然的に姚彪の行いを笑う話だと結論づけて良さそうです。
以上、お読みいただきありがとうございました。
………………。
と締めてもいいのですが、姚彪はなぜこんな偏屈なヤツなのでしょうか。
せっかくなので、姚彪が何者なのかも調べてみましょう。
……………………………。
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…………………………………………………………………。
だめです。
どうやら中国語情報でも「姚彪が沈珩に塩をあげなかった話」しか出てきません。
後世に名前さえ知られない下役人が、功績ある外交官を愚弄したのでしょうか…?
それはそれで大した剛毅ですが、一体姚彪とは何者なのでしょうか…?
第四章:第三の人物・張温
この話は嫌な姚彪と、不憫な沈珩にどうしても目が向いてしまいます。
しかし、もう一人の登場人物がいますよね?
それが姚彪の友達らしき「張温」という男。
実は張温を調べることで、姚彪が誰なのか近づけるのです。
実は張温。
この三人の中では一番有名で、あの諸葛亮とも少し関わりのあった人物です。
私は三国志にあまり詳しくないので、全く知りませんでしたが…。
では、どういう人物だったのでしょうか。
張温は若い頃から豊かな才知があり、見た目も良かったそうです。
なので、周りからもチヤホヤされ、とても期待されながらスクスク育ちました。
そして大人になると君主・孫権にも認められ、太子・孫登の教育係を勤めたのです。
孫登といえば、人質になりそうだった窮地から沈珩が救った人物です。
結果的に張温の役職を保ったわけで、沈珩は張温の恩人と言えるかもしれません。
その後も張温は順調に昇進していきました。
しかし、順風満帆な人生に亀裂を生む人物と関わることになります。
それが張温自身の推薦で官僚になった曁艶です。
出身地が同じなので、馬があったのでしょうか?
第五章:重要人物登場と崩れる張温の人生
かつて曁艶は、親が犯した罪により平民に落とされた過去があります。
生活さえ苦しいのに、言われもない誹謗中傷に遭ったのかもしれません。
曁艶の恨みは日増しに根深く強く。
性格も激しさ厳しさを尖らせるばかり。
罵詈雑言への反発からか、異常に潔癖な人間に成長しました。
「いつか復讐してやる」と考えていても不思議ではありません。
ただ有能ではあったようです。
張温の助力もあり、曁艶は選曹尚書(人事部のトップ)に就けました。
すると、相棒の選曹郎・徐彪と共に暴走を始めます。
重箱の隅をつついては、つつく。
気に入らない同僚・部下、上司まで蹴落とし出したのです。
それは臣の長である丞相・孫邵を失脚させるほど、被害は甚大なものでした。
ここで聞きお覚えがある名前の登場にお気づきでしょうか?
そう「徐彪」です。
徐彪?どこかで聞いたような……。
あ、姚彪!
そうです。
お腹が減った沈珩に塩もあげなかった姚彪。
その塩を川に投げ捨てた姚彪です。
彼とそっくりな名前の人物。
それが嫌なヤツの仲間として出てくるのです。
話を一旦戻しますと、こんな横暴を繰り返せば恨まれるのは必然。
数多の同僚達から弾劾された曁艶と徐彪は官職を剥奪。
自害という結末を迎えました。
張温はというと。
自分が推薦した人間が大騒動を起こした手前、批難は免れません。
挽回しようと賊討伐のため、大軍団を借りて遠征したものの、失敗してしまいました。
そして張温は左遷。
その6年後、故郷の呉郡で病没してしまったのです。
第六章:後編の予告
さて、張温については以上です。
「姚彪」の正体に関係ある最重要人物「徐彪」が登場したところで、続きは後編になります。
本題の核心は次回に持ち越しましたが、「姚彪」と「徐彪」という名前を見れば、関係性は明白でしょう。
しかし、後編ではムダに一歩深入り。
「姚彪には、まだ隠されている正体が…?」という推理をしています。
前後編分けたのに、前編だけで3.800文字もあるようです。
時間は貴重だと言うのに、お読みいただき本当にありがとうございます。
それではまた次回。
後編はこちら↓↓↓
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