”お約束”への挑戦
私の好きな作品に特撮ドラマ『仮面ライダークウガ』と映画『パシフィック・リム』が挙げられます。これらの作品の共通点として『映画や特撮の"お約束"に設定によって説得力を持たせた』というものがあります。今回はこれらの作品が"お約束"にどう向き合っているか、書いていきたいと思います。
仮面ライダークウガ
『仮面ライダークウガ』は、2000年1月30日から2001年1月21日まで、テレビ朝日系列で全49話が放映された、東映制作の特撮テレビドラマ作品です。主人公五代 雄介が古代の戦士クウガの力を用いて古代種族グロンギと苦悩しながら人類を守るために戦うというストーリーで、バイクスタントやリアリティ重視の表現などが評価されています。『仮面ライダーBLACK RX』で途絶えてしまった仮面ライダー10年強ぶりのテレビシリーズであり、平成仮面ライダーシリーズの一作目となります。
パシフィック・リム
パシフィック・リム』(原題/英題:Pacific Rim) は、2013年のアメリカ製SF怪獣映画で監督はギレルモ・デル・トロ氏です。太平洋の海底から現れる巨大怪獣に、人類が兵士2名がペアとなって操縦する巨大ロボットで立ち向かう姿を描いた、アメリカでは珍しい怪獣対ロボットの映画です。
そもそも"お約束"とは?
特撮やパシフィック・リムのような映画は悪の怪人や怪獣を正義のヒーローが倒すという勧善懲悪ものであり、子供たちに人気のジャンルの一つです。しかし一方で、大人が見ると疑問に思う描写も多々あります。『悪の組織の幹部は最終回近いヒーローでも苦戦するのだから最初からヒーロー倒せばいいのに』だとか、『生物である怪獣が人を襲うのって不自然だよね』だとか『必殺技はなぜトドメに使うのか、最初から使ってもいいのではないか』だとか『世界征服を企む悪の秘密結社とかの割に日本だけで活動しているよね』だとか『わざわざロボットを人型にせずともいいのではないのか、二足歩行の技術とか難しいし』だとか。個人的には『ロマンだからさ』と言いたいところではありますが、こうした『作品を成立させるために発生してしまう合理的ではないこと』を一般に"お約束"や"ご都合主義"としています。こうした"お約束"は作中で追求し始めると尺的に厳しくなってしまったり、無粋であったりするため基本的には「そういうもの」として放置されがちです。しかし、『仮面ライダークウガ』と『パシフィック・リム』はこうした"お約束"に対して向き合っている作品であり、説得力を持たせています。
なぜ日本なのか、なぜ人を襲うのか:古代の種族と異次元の種族
『仮面ライダークウガ』における敵は昭和の仮面ライダーに見られる"悪の秘密結社"ではなく『古代に人(ホモサピエンス)とは別の進化をした人類:グロンギ』という設定でした。彼らは独自の文化を持った人ではない人類ではありますが、独自の言語をもち、古代日本で生活をしていました。そうした種族が復活したので基本的に事件は日本で起こります。
『パシフィック・リム』における敵は『異次元から来訪する巨大生物:KAIJU』と『それを操る異次元の民:プリカーサー』です。プリカーサーは異次元の星にある資源を食いつぶしながら生きている種族で、体液が強酸性である『KAIJU』を用いて地球を自分たちの住み良い星にするための”改良”を行っています。要するに生体兵器であるため、人を襲いますし、街を壊します。
序盤の方が弱くて徐々に強くなるのは?:ゲームと偵察
『仮面ライダークウガ』のグロンギという種族は強さによって社会的地位がランク分けされており、過去にはグロンギ同士の殺し合いでそのランクを決めていたとされています。しかし、そうして数を減らしたグロンギはある時、隣人であるリント(今の人類の御先祖の一族)を殺すというゲームでその地位を決めることを思いつきました。ゲームなのでルールがあります。また、ゲームとはいえ神聖な儀式であるため、何人も破ることは許されません。そして社会的地位を上げるために行われるゲームなので、社会的地位の低い者、つまり弱い怪人からゲームを行います。こうした、『異なる価値観を持つ集団のゲームの獲物』として人間が殺されるため、『怪人は人を襲う』し『最初の怪人は弱く徐々に強くなる』のです。
『パシフィック・リム』のプリカーサーはKAIJUが見聞きした情報を手に入れ、KAIJUが倒されるとその情報をもとに対策を行います。また、自身等のみが次元の壁を越えることができるので安心して着実に侵攻するため、『最初のKAIJUは弱く徐々に強くなる』のです。また、こうした特性は最新の兵器や武装を導入してもすぐに使用するとすぐ対策されてしまうので、人類側が新兵器を出し惜しみすることにつながります。
必殺技の扱い:技の名前を言わないクウガと武器の名前を叫ぶイェーガー
『仮面ライダークウガ』では、それまでの仮面ライダーで見られた”ライダーキック”の掛け声とともに必殺技を放つことはありませんでした。また、ライダーキックやその他の必殺技の後怪人が爆発しますが、その威力により被害が出てしまうため、怪人を人里離れたところに誘導や輸送したのち、必殺技を放つといった現実感のある描写がなされていました。
『パシフィック・リム』では、操縦方法がパイロットの動きをトレースする方式であり、戦闘中に余計なスイッチ操作などをパイロットが行わず済むように、武器の起動を音声認識で行います。ですので、武器の装備や起動の際に叫ぶ必要があるのです。
巨大ロボットである必要性
『パシフィック・リム』では先述の通り、KAIJUの体液は猛毒であり、汚染物質であるため、そうした体液の流出を抑えつつ討伐することが求められます。最初のKAIJUは核爆弾3発でやっと倒せたという背景もあり、より汚染も少なく倒すための手段として、内傷を与える格闘装備や、熱で傷口を焼き塞ぐプラズマ兵器、貫通して痺れさす電撃兵器などを装備した巨大ロボットである方が都合がいいのです。
最後に:"お約束"に説得力を持たせる
この他にも様々な描写がこれらの作品には用いられており、『フィクションを現実的にする』という試みは映画や作品を見ている間も、見た後に設定資料集を見たり考察する時も楽しさの幅を広げてくれます。こうした様々な設定は作品の行間を読んだり、設定資料集を読んだりと一手間加えないとわからないことも多いですが、少しの手間を加えるだけで楽しさを増幅してくれます。映画や作品を見るときはこうした設定や裏設定まで楽しんでみると作品がより奥深くなると思います。この二作品だけではなく、他の作品の細かい設定に注目してみるとより楽しいのではないでしょうか。
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