『小さな私』 小小的我 中国映画 鑑賞記録
第37回東京国際映画祭 コンペティション部門 観客賞 受賞作。
一番初めに観た『長安二十四時』撮影時、彼は若干17歳だったと聞いて驚愕し、『少年の君』(少年的你)で大きな衝撃を受け、昨年 東京国際映画祭の『満江紅』では先輩演技巧者に混じってさえ独自のオーラで存在感を発揮しているのを目撃して以来、イー・ヤンチェンシー 易烊千玺 の演技にわたしは絶対の信頼を置いています。
その彼の最新作である本作は、テーマからしても上陸するのはまず間違いなかろうと予測。 映画祭では時間的な都合もつかなかったので鑑賞を見送りました。が、観た方の評判があまりにもよくて、やはり観ておけばよかった~!と悔やんでいたところ、偶然押さえていたクロージングセレモニー後の「観客賞」受賞作上映で幸運にも鑑賞することができました!
(今これを書いていて気づきましたが、原題の『小小的我』は少年の君の原題『少年的你』と対を成しているのでしょうか)
それはさて置き、とにかく物凄い映画! 言葉にできないくらいの見応えと感動と、戦慄の素晴らしさでした!!!
正直これからここで、その感動の全てを言葉に置き換えるのは到底不可能だと思えます。
本作は今回の映画祭がワールドプレミアだったので、現時点では本国でも未公開。評価も固まっていません。
なので、お読みになってもわたしの感想などには引きずられず、いずれ上映されるであろう本編を楽しみになさっていただきたいなと思います。
それでは始めていきましょう。
… めっちゃ長くなりそうな予感ですが 笑
※ 終盤の重要部分は伏せますが、序盤のストーリーの流れはざっくり書いています(他の記事でも目にする程度)。心配な方は鑑賞後にまた来てくださいね!
刘春和(本人)
主人公 リウ・チュンフー 刘春和は脳性マヒという障害を抱える20歳の青年だ。長く歩くことはできないが、少し休めばまた歩くことができる。飲み込む力は弱いが、自分のことは自分でできる。字も書けるしネットは得意だ。記憶力がよくて人前で話すことも得意。学校の先生になりたいと思っている。
演じるのは イー・ヤンチェンシー 易烊千玺。もうすぐ24歳になる(いや、まだ24歳だ!!)
祖母 外婆が一緒に生活して安全に気を配ってくれている。演じるは ダイアナ・リン 林晓杰。寄り添う、という表現がぴったりの、心身共に心強い存在、よき理解者だ。
一方で、ジャン・チンチン 蒋勤勤 演じる実の母親は春和に対して複雑な心理を抱えており、彼の自由を束縛する存在になってしまっている。母親ならではの自責の念や 春和の安全を願う気持ちが、本人の内面を尊重する邪魔をしてしまうのだ。そのことが更に双方にとっての葛藤となっている。
師範大学に進学したい春和は秘密裡に願書を提出する。学費を稼ぐためにアルバイトにも挑戦する。
カフェでのバイトや公共機関の中で、社会の障がい者に向ける視線の厳しさに遭遇する。
描かれるその経験一つ一つに胸がみ、そんな時自分はどう行動すべきなのかを考えさせられる。
外婆(祖母)と 雅雅(彼女)
この祖母の存在なくして本作の魅力はなかっただろう。常に 春和を明るく励まし、彼が辛い時には隠れて涙を流し、側で支え、心の底から 春和の幸せを思っている。強くたくましく温かい人物だ。
易烊千玺 は当然だが、林晓杰 の演技が大変に素晴らしかった。
祖母は仲間と合唱団をやっており、その太鼓奏者が抜けたところに春和を抜擢する。最初は嫌がっていたが、何とか楽しめるようになる春和。
その過程で ジョウ・ユートン 周雨彤 演じる若い女性 雅雅 ヤーヤーと出会い、淡い恋心が芽生える。
このパートは一見、ありきたりな青春ものの展開のようでありながら、春和の事情によって逆に、彼の内面は他の青年と何ら変わることはないのだということを如実に示す意味を持っている。
彼女との夢を見ている時の 春和の姿は健常者だ。それが映像としてとても生きている。と同時にとても切なかった…
全体の流れがスムーズな脚本も、小道具などの演出もよかったと思う。
易烊千玺(演者)
恐るべき演技力、表現力の持ち主だと思う。本作に関しては神がかっているといってもいいくらいの、圧倒的な演技だ。
彼のお芝居を観るとわたしはいつも、背筋が伸びるような気持ちになる。なんというか、彼が演じる人物の中に、この世に存在する「善」というものの粋を集めたしずくみたいなものを感じるのだ。人間、文明を持つ生物としての、あるべき姿のようなもの。美しいもの。
本作でも彼の演技のその発露としての 刘春和という人物を、わたしは美しい、と感じた。
演じているということを微塵も感じさせない演技だ。本来 春和の役のような身体演技はとても困難なものだろうと思う。にも拘らずその上で、一人の青年の苦悩や絶望、希望を台詞に頼ることなく、眼前に迫る現実感で突き付けてくるのだ。
もちろん辛い。けれど悲しいのではない。それは 易烊千玺という類い稀なる才能の持ち主が演じたからこそ、伝わったことなのかもしれない。
母親から、食べることと寝ること以外に欲求がないと思われている辛さ。社会の扱いに絶望し、自暴自棄になってしまうやりきれなさ。
しかし、それでもやがて、また前を向き、世界と調和していこうと懸命に歩み出す。毅然として勇気ある一人の人間として、まぶしいほどに立派だと思った。
易烊千玺 がこの役を引き受けたのは21歳の時だといい、今だったら受ける勇気がなかったかもしれないとインタビューで語っている。
21歳の決断で 春和を演じてくれて本当によかったと思う。
心打たれた台詞は
お金じゃないんだ。仕事があると自尊心を持てる。という意味の言葉。
違うところなんて、ない。みなと同じなのだ。
その前提を持つことの大切さを学んだ。
そして、よい映画を観たという満足感と清々しさで一杯になった。
素晴らしい作品を世に生み出してくれた演者と制作の皆さんに感謝したい。
ありがとうございました!
中国作品は優秀なものが多くて、最近はちょっとやそっとでは涙を流さなくなりました。でもこれには泣かされたー! 時に嗚咽混じりで!
もちろんわたしだけではなく、客席中、終始、すすり泣きで一杯でした。
でも涙の中に、光を見出せる素晴らしい作品です!
是非とも劇場公開を望みます。
ヤン・リーナー監督とプロデューサーのイン・ルーさんは某所で間近で拝見できて、少しだけ身近に感じることができました。
受賞おめでとうございます!
また日本に来てくださいね!
予告通り長くなりました。
お読みいただきありがとうございました。