間質性肺炎(6) 指先に表れる肺の異常〜健常者でも要注意
0. 本記事のまとめ
・「ばち指」と呼ばれるような指先の腫れが見られる事があります。
・健康な人でもばち指を認めるだけで間質性肺炎や肺がんなどが隠れている可能性があるので医師へ相談する事をお薦めします。
・関節や皮膚やリンパ節など、肺以外の部分にも間質性肺炎の原因究明の手がかりが隠れている可能性があります。
1. 指先が太鼓のばち状に
Dr.Y:そういえば、さきほど問診票をいただく時に気になったのですが、蜂谷さんの指先をよく見せてもらえますか。
蜂谷:指先ですか?いいですが。何か異常でもあるのですか?
Dr.Y:はい。えーっと、あ。やっぱり。
蜂谷:???
Dr.Y:間質性肺炎の患者さんに特徴的な指の形をしていますね。
蜂谷:えっそんな指があるんですか?
Dr.Y:いわゆる「ばち指」とか「ばち状指」と言われるものです。指先が太鼓の「ばち」のように腫れていますね。
蜂谷:えっそんなに腫れてます?
Dr.Y:左右の人差し指の爪と爪を合わせるようにしてみてください。普通はここにひし形のすき間ができるはずなのですが、蜂谷さんはすき間がありませんね。これは、指先が腫れている証拠なのです。
蜂谷:本当ですね。自分では見慣れてしまっているせいか、あまり意識していませんでした。どうしてこのような指になるんですか?
Dr.Y:ばち指ができるメカニズムは正確には分かっていません。少し古い文献では、低酸素によって血小板由来成長因子(PDGF)という創傷治癒などに関わる化学物質がたくさん放出される事が関与しているのではと考察されています(1)。
蜂谷:肺の病気なのに、指先にまで異常所見があらわれてくるのですね。
Dr.Y:この所見はとても大事です。間質性肺炎以外にも肺がんなどでも見られます。健康診断などをしていても、この所見があればそれだけで専門医の診察を薦めるくらいです。
2. 手がかりは全身にある
Dr.Y:このように、肺の病気でも全身に気を配らなくてはなりません。例えば膠原病のように、全身の疾患の一部として間質性肺炎が現れてくる場合はやはり肺以外の身体所見が重要になります(2)。
蜂谷:例えばどんな所見が見られるのですか?
2-1. 関節リウマチ
Dr.Y:例えば、関節リウマチでは関節炎の所見ですね。もっとも、熱感や圧痛を伴う事が多いのでご自身で訴える方もいらっしゃいますが。また、関節炎が進んできてしまうと、指が小指側に変形してきてしまう尺側偏位が見られる事もあります。
蜂谷:ここまで変形する前に診断して治療したいところですね。
2-2. 強皮症
Dr.Y:次は強皮症です。これは皮膚がどんどん硬くなってしまう病気です。特徴的なものとして、ソーセージ様手指といって、指の皮膚が硬くなって腫れてきます。
Dr.Y:さらに爪の境目のところを拡大鏡で覗くと毛細血管の異常を認める事もありますね。
蜂谷:爪の境目なんて、言われないと絶対意識して見ない部分ですね。
Dr.Y:はい。こういった事を知っているか知らないかは非常に大きいのです。
2-3. 皮膚筋炎
Dr.Y:次は皮膚筋炎です。これは皮膚や筋肉で炎症を起こす免疫の病気です。これに伴う間質性肺炎は進行が早い事で有名です。
蜂谷:確か演歌歌手の八代亜紀さんもこの病気だったような。
Dr.Y:皮膚筋炎では、指や肘の関節の伸側(外側)に出来る「ゴットロン徴候」や、手の側面にひび割れや角質化が見られる「メカニクスハンド」などが有名です。他にも「逆ゴットロン徴候」、「ヘリオトロープ疹」など特徴的な様々な皮疹があります。
2-4. サルコイドーシス、リンパ増殖性疾患
蜂谷:膠原病以外による間質性肺炎でも全身に異常が現れる事がありますか?
Dr.Y:はい。間質性肺炎の一種である薬剤性肺炎やサルコイドーシス、リンパ増殖性疾患の肺病変でも皮疹を合併する事がありますので、やはり全身の皮膚をくまなく見る必要があります。
蜂谷:やはり皮膚は大事なんですね。サルコイドーシスとかリンパ増殖性疾患というのは耳慣れない名前ですが。
Dr.Y:サルコイドーシスやリンパ増殖性疾患は、リンパ節やリンパ管などリンパ路と呼ばれる部分に異常をきたす病気です。当然肺の間質の部分にもリンパ路はあるので(*)、これにより間質性肺炎を起こします。
蜂谷:なるほど。
Dr.Y:肺の外のリンパ路に病変を作る場合、例えば首の周りとか脇の下などのリンパ節が腫れてくる事があります。
蜂谷:皮疹の他にも体表から触れるリンパ節にも気を配るべきだと。肺の外にも色々なところに間質性肺炎の原因の手がかりが潜んでいるのですね。
Dr.Y:その通りです。
蜂谷:ちなみに私の場合はどうですか。先ほど色々診察してもらいましたが。
Dr.Y:蜂谷さんは、特にこれらの所見は認められませんでした。
蜂谷:これって喜んで良いのですか?
Dr.Y:複雑ですね。原因が分からなければ分からないで、治療法が限られてきてしまうので、何かしらの手がかりはつかめた方が良いです。
(*)間質性肺炎の病変である間質は、正確には狭義間質と広義間質に分かれるというのが一般的な分類です。狭義間質というのは肺胞の壁の部分、広義間質というのは狭義間質+血管やリンパ路なども含めたより広範囲の領域を指します。
参考文献
1. Atkinson S, et al. J Pathol. 2004;203(2):721-728.
2. 日本呼吸器学会 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020(メディカルレビュー社)