【移住雑記338日目】とんぼ捜索隊
先日、夏休みを迎えた子供たちの虫捕りイベントに参加した。午前中から重たい雲に覆われており、準備のためキャンプ場に先回りをして着いたスタッフの大人たちを迎えたのは、圧倒的な雨。こういう時、実は生粋の雨男であることを悟られないよう僕は基本的に黙るようにしている。
予定を変更して昼食を先に取り、午後から虫捕りを行うことにした。天気は回復、それどころか先ほどの豪雨の記憶を一瞬で塗り替えるような快晴に。それぞれの虫かごや虫捕り網を大切そうに構えていた、少年たちが雨上がりのまだ湿った光の中へ真っ直ぐ駆け出していく。
大沼野営場には蓮の花が浮かぶ大きな池があり、その周りではタープやテントで雨を凌いだキャンプ客たちが突き刺す日差しとその木陰で休日を満喫していた。子供たちに少しの遅れをとって、僕も彼らの後をついていく。
まず、誰かがカエルを見つける。カエルを探していると、今度は生まれたばかりだろうか小さな子ガメが見つかった。水生生物たちは、先ほどの雨で陸に上がってきているらしかった。小さな手に引っ張られながら、僕も水際へ行く。次々に子供たちが色々と見つけるものだから、足元に何かいたらと気がかりになり、どうしても変な歩き方になってしまう。カメなんか踏んづけてしまった日にはきっと竜宮城みたいなところに引きずり込まれて、酸素の無い宴みたいな拷問がきっとあるに違いない。
ひとしきりカメをみんなで囲んだあと、少年たちは水草の上をものすごい速さで交差して飛ぶトンボへとターゲットを移す。トンボの種類なんてオニヤンマしか知らない僕の横で、目の前を通り過ぎていく一瞬の飛行物体に向かって、彼らは叫ぶ。
イトトンボ!コシボソ!シオカラ!ギンヤンマ!
やっと知っているのが見つかったと、僕が「赤とんぼだ!」と言うと「アキアカネね」と、冷静に間違いを指摘される始末。厚真町の夏には実にいろいろなトンボがいる、らしい。
中でも圧倒的なスピードを誇るギンヤンマとオニヤンマを、なんとか虫捕り網で捕まえようと格闘する流れができてくる。水分補給の度に作戦を練り直し、水際でそれぞれの配置につき目線や掛け声を交わす少年たちの瞳の光は兵士の如き。対して、ギンヤンマたちもその戦いに乗ってきたようで、僕たちが必死に網を振るその数センチ先を、揶揄うようにすり抜けていく。
ギンヤンマはやっぱり頭がいいね。僕たちが届かないところをわかってる。
高学年の生徒が感心したようにそう言うと、周りの低学年たちもフムフムという表情。ゼエゼエしていた私も負けじと、フムフム。「ギンヤンマは頭が良い」ということを彼らは今、その戦いの中で知識よりも先に知る。その学びの力強さたるや。
1時間近く待っただろうか、そろそろ場所を変えようか。そんな話をしていた矢先に、一人の少年の雄たけびが轟く。ギンヤンマを捕まえたのだ。待ちに待った末、彼はその戦いを制した。黄金伝説のよゐこ濱口の「とったどー」とばかりに、「ギンヤンマ!ギンヤンマ!」と叫びながら仲間たちのもとへまた駆け出した。既に渇ききった土の上、走り出した彼の背中の汗の染みがこの先いつまでも残り続けますように。
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